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2019年7月11日木曜日

【第3話】「なかったことにする」に「理不尽です」と抵抗する市民一人一人の声、行動、そのネットワークが1987年の民主化を産み出した(2019.7.11)

いま、日本では、来年の東京オリンピックを控え、福島原発事故は完全に収束したことを世界に知らしめるため、最大の懸案事項である「被ばくによる健康被害」の問題について、決着をつけるタイムリミットが迫っているとして、福島県で多発中の小児甲状腺がんについて、福島県の「県民健康調査」検討委員会・評価部会を使って、「被ばくによる小児甲状腺がんの発症」は「なかったことにする」報告書を作成し、これを了承させて、健康被害問題は「なかったことにする」幕引きにはかろうと、マスコミ総出で応援に必死です(例えば堂々と歪曲の記事を公表するNHKニュース「福島 子どもの甲状腺がん「被ばくと関連なし」検討委が了承」←→独立系メディアのOurplanet「甲状腺がん報告書を一部修正へ〜 「被曝と関係認められない」見直し」と対比」)。

けれど、ちょっと考えたらその理不尽さは子どもでもすぐ分かる程度のものです。
どうしてそんなに沢山の子どもに甲状腺がんが発症し、手術したの?--最初、被ばく以外の原因物質を探していたようですが、どうしても見つからない。そこで、最後に落ち着いたのは、性能のいい診断装置を使ったために甲状腺の微小がんが沢山見つかってしまったから、だと。
仮に、微小がんが沢山見つかってしまったとしても、どうしてみんな手術をしたの?--それは執刀医が、診療ガイドラインを無視して「必要のない手術」をおこなったから、だと。
しかし、この言い分が正しいかどうかは診療データで確認すれば分かることです。事実、中心的な執刀医は、自分たちは診療ガイドラインに沿って手術をおこなったものであり、「必要のない手術」をおこなったものではないと反論していますが、今や、この執刀医の発言も「なかったことにする」運命にさらされています。

6月3日に公表された福島県の評価部会の「甲状腺がんと被ばくとの関連は認められない」とする報告書がどれくらい科学的根拠を備えているのか、私自身の手で検証する必要があると思い、この間、検討しました。その結論は(検討の全文は->こちら)、
報告書から引き出せるものは、
依然、被ばくと甲状腺がんの関係は不明である
のに、報告書に記載された結論の言葉は、
被ばくと甲状腺がんは関係がない
であり、これは灰色を白と歪曲する統計不正、研究不正の報告書です。
 この一連の「理不尽」な出来事を眺めていると、30年ちょっと前1987年に、お隣りの韓国で起きた「理不尽」な出来事ととてもよく似ているのではないかと思えてなりません。

欧米の市民の歴史にとっての転換点が18世紀後半のアメリカ革命(独立)とフランス革命で宣言された一連の人権宣言だとすれば、アジアの市民の歴史にとっての転換点の第1は市民の手で民主化を勝ち取った1987年6月の韓国の民主化宣言です。

それは、朴鍾哲という1人の学生の拷問死という、当時の独裁政権下では別に珍しくない、ありふれた日常の出来事が発端でした(以下、映画「1987、ある闘いの真実」(→その予告編)などを参考としたものです)。
この時、学生を拷問死させた権力者たちは、人権侵害は「なかったことにする」というこれまで通りの方針で臨み、「捜査員が机をたたいたら、学生が持病による心臓麻痺を起こして死んでしまった」(책상을 탁 치니 억 하고 죽다니)と説明し、解剖しないまま荼毘に付そうとしました。

朴処源 治安本部対共捜査所長

しかし、

 「解剖なしで火葬」という企みは、これと正反対の、遺体保存命令を下して司法解剖を指示した崔ソウル地公安部長。
                      崔桓 ソウル地公安部長

解剖を行わずに所見書の偽装をしろという上からの命令に逆らうことを決意し司法解剖を行った解剖医、拷問死の真実を暴く看守、拷問死の真実を執拗に追い続ける記者たちなど、これに抵抗する市民一人一人の声、行動と翌年に控えたソウルオリンピックによって、ひとつ、またひとつとじわりじわり砕かれていきました。





しかし、こうして様々な妨害をはね退け、解剖が実施され、拷問死という真実が明るみになると、今度は、権力者たちは現場検証もしないまま、拷問を実行していない2人の捜査員を加害者に仕立て、「トカゲの尻尾切り」で幕引きを図ろうとします。
その首尾一貫した「なかったことにする」という権力者の猛烈な執念に対し、またしても市民の中から猛烈な執念の反発が、2人の警察官に面会に来た警察幹部が「拷問捜査官がほかに3人いるという秘密を守れば、家族の生計は保障する。さもなければ出所しても無事ではないぞ」と脅迫した事実を知った刑務所の立会い職員が、この事実を収監中の新聞記者に伝え、新聞記者はこれを手紙にして刑務官に伝え、刑務官はこれを外部に持ち出して正義具現全国司祭団の神父に届け、神父は、歴史的な5月18日のソウル明洞聖堂の光州事件追悼ミサでこの事実を公表しました。すると、市民の中から全国民的な規模で猛烈な執念の反発、反動が起きます。
このとき、人々の猛烈な執念を支える力は「理不尽(불합리)」という思いでした。

                    冤罪にされた刑事チョ・ハンギョン

この「理不尽だ」という思いが市民ひとりひとりの抵抗する声、行動となり、それらがつながって大きなネットワークになったとき、国家権力に対する正しい圧力となり、

           明洞で開かれた朴鍾哲拷問致死事件に対する抗議のろうそくデモ

そして、「なかったことにする」に「理不尽です」と抵抗するこの市民の巨大なネットワークは6月29日、国家権力に対し、翌年のオリンピック開催と引き換えに、政治的な独裁を放棄して民主化を約束させました。

 もともと人間は 不正義を「なかったことにする」ことに、「理不尽だ」とつぶやかずにはおれない。
だから、たとえそのつぶやきが無視されようとも、理不尽が続く限り、「理不尽だ」とつぶやく声もやむことはない。
だから、そのつぶやきこそどんな小さな声でもこれ以上貴いものはない。
だから、一人一人が自分の胸のうちのつぶやきの火をたやさず、大切に心の中で燃やし続けて、或る瞬間に、市民の巨大なネットワークとして燃え上がらせることができたなら、それはきっと巨大な力として不正義を正義に変える力になる。
その生きた実例がアジアの市民の歴史にとっての転換点の第1である、1987年6月、韓国の民主化運動。        
                   
                         漫画「沸点」の帯より

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