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2022年7月21日木曜日

【第89話】追出し裁判で、福島県はいかなる法令に基づき、いかなる調査に基づき、いかなる論議を尽くして避難者の追出しを決定したのかを明らかにした主張書面を提出(その2)(2022.7.20)

                            (2021年5月14日 第1回期日 福島地裁前)

第88話】に続いて、 今度は、
福島県はいかなる法令に基づき、いかなる調査に基づき、いかなる論議を尽くして避難者の追出しを決定したのかを明らかにした主張書面の2通目。
それは、 国際人権法に基づく居住権のみならず、それ以外にも合計6つの理由で、被告(避難者)に対する福島県の明渡しの主張が根拠がないことを明らかにした、この裁判における被告主張を集大成した次の書面。

被告準備書面(15)--6つの抗弁の法律構成の骨子について--
 

以下その6つの理由の概要を紹介する。                

 

①.国際人権法に基づく居住権(直接適用)
 第1が、国際法の直接適用により、国内避難民である被告らには、国際人権法(社会権規約11条1項の「適切な住居」)が保障する居住権に基づき、本件建物を占有する権限が認められる。

②.国際人権法に基づく居住権(間接適用)
 第2が、国際法の間接適用により、国内避難民である被告らには、国際人権法(社会権規約11条1項の「適切な住居」)が保障する居住権に適合するように解釈された災害救助法及びその関連法令によれば、本件建物に占有する権限が認められる。

③.国家公務員宿舎の無償提供期間の延長打切りの違法性(その1)
 第3に、本来、国家公務員宿舎の無償提供期間の延長打切りは国が決定すべきものであった。にもかかわらず、本件では国の決定がなかった。従って、国家公務員宿舎の無償提供の延長打切りが有効適切になされていない以上、被告らの本件建物の占有権限は喪失したことにならない。

④.国家公務員宿舎の無償提供期間の延長打切りの違法性(その2:羈束行為)
第4に、仮に国家公務員宿舎の無償提供機関の延長打切りは2017年3月31日をもって区域外避難者に対する応急仮設住宅の供与を打切り、延長しないとした内堀福島県知事の決定によって手続的に有効だとしても、本件福島県知事決定は羈束行為であり、国際人権法(社会権規約11条1項の「適切な住居」)に適合するように解釈された災害救助法等に反するものであり、この点で違法を免れない。
 そして、本件福島県知事決定により原告からの延長要請がなかったことに基づいて、東京都は、被告らに対する本件建物の提供を2017年3月31日をもって打切り、延長しないことを決定したが、違法な本件福島県知事決定に基づいて一時使用許可を更新しなかった東京都の決定もまた過誤があり、違法を免れない。その結果、東京都と被告らの本件建物の使用関係も適法に終了したことにならず、被告らの本件建物の占有権限は喪失したことにならない。

⑤.国家公務員宿舎の無償提供期間の延長打切りの違法性(その3:法令の目的・趣旨に違反する裁量行為)
 仮に本件福島県知事決定に裁量判断の余地が認められるとしても、本件福島県知事決定が国際人権法に基づき国内法で保障される居住権を守らず、侵害することは法令の目的・趣旨に違反する裁量行為であって許されず、違法を免れない。
 その結果、上記と同様、違法な本件福島県知事決定に基づいて一時使用許可を更新しなかった東京都の決定も違法を免れず、東京都と被告らの本件建物の使用関係も適法に終了したことにならず、被告らの本件建物の占有権限は喪失したことにならない。

⑥.国家公務員宿舎の無償提供期間の延長打切りの違法性(その4:裁量行為の判断過程審査)
 仮に本件福島県知事決定に裁量判断の余地が認められるとしても、本件福島県知事決定の「判断過程」の以下の各局面において、
ⓐ.当該案件の構成要素となる事実を調査に基づき認定する過程
事実問題と法律問題に関し、いかなる調査を行い、その調査に基づいていかなる事実を認定したか、
ⓑ.基準(具体的裁量基準)の認定及び適用の過程
当該案件に適用すべき基準をいかに設定したか(考慮事項・考慮禁止事項など)、そして、その認定事実を基準に当てはめていかに評価したか
などを国際人権法その他の見地から個別具体的に検証した結果、上記「判断過程」の各局面において、看過し難い過誤が認められ、それらの過誤を総合判断した結果、本件福島県知事決定は裁量権の逸脱・濫用と言わざるを得ず、違法を免れない。
その結果、上記と同様、違法な本件福島県知事決定に基づいて一時使用許可を更新しなかった東京都の決定も違法を免れず、東京都と被告らの本件建物の使用関係も適法に終了したことにならず、被告らの本件建物の占有権限は喪失したことにならない。    


2022年7月20日水曜日

【第88話】追出し裁判で、福島県はいかなる法令に基づき、いかなる調査に基づき、いかなる論議を尽くして避難者の追出しを決定したのかを明らかにした主張書面を提出(その1)(2022.7.20)

                (2021年5月14日 第1回期日 福島地裁前)

第87話】に書いた通り、追出し裁判では、福島県の提訴以来ずっと、福島県は、自分たちが一体いかなる法令に基づいて、そしていかなる調査に基づいて、いかなる論議を尽くして、被告(避難者)の追出しを決定したのか、その決定のプロセスを決して明らかにしようとせず、
その結果、この核心部分がずっと闇の中に置かれてきた。

しかし、この間の関係者の尽力により、その闇が少しずつ明らかにされ、問題点がハッキリしてきた。

今回、被告(避難者)は、この闇に焦点を合わせ、この闇の解明こそが、追い出しの是非を決定する最重要論点であることを明らかにする2通の主張書面を作成した。
その1通目が、仮設住宅の支援打切りの適用法令及び決定の主体について主張した次の被告準備書面(14)。

被告準備書面(14)--仮設住宅の支援打切りの適用法令及び決定の主体について--

以下その内容を紹介する。

はじめに
 行政法の基本原則である「法律による行政の原理」及び「説明責任の原則」によれば、
原告は被告ら区域外避難者が入居する住宅の無償提供期間の延長及びその打切りを決定するにあたっては、いかなる法令に基づき、いかなる調査に基づいていかなる検討を経た上で政策決定したのか、その決定過程を当事者である被告ら区域外避難者に説明する責任がある。しかし、裁判以前は言うまでもなく、提訴に至っても、訴状には無償提供期間の延長及びその打切りの決定の根拠となった法令の説明は一言もなく、単に次の記述だけであった。
被告については平成29年3月31日をもって応急仮設住宅としての本件建物の供与が終了になり本件建物の占有権限がなくなった》(訴状の請求原因2(2))

これでは、葉っぱが秋になって色づいて落ちてなくなってしまったかのように、本件建物の供与も終了して占有権限もなくなってしまったと、あたかも自然現象であるかのように書かれていた。

 以上の通り、原告は自身に課せられた適用法令の説明責任すら果さない。その結果、被告らは当初適法に入居した自分たちがのちに追出される法的根拠すら知らされず、そのため、いかなる法令に基づき追出しの違法性を訴えたらよいのかという最も基本的な問題すら分からず、苦難を強いられた。本裁判の真相解明が最も困難を極めた最大の理由がここにある。

 しかるに、この間の関係者の尽力により、被告らは、ようやく本件建物の無償提供期間の延長及びその打切りの適用法令の糸口を掴んだ。それは被告らが、いかなる法令に基づいて本件追出しの違法性を反論したらよいかを掴んだという意味である。被告らの主張整理は今、クライマックスの中にある。それが本書面である。

第1、問題の所在
 本書面で検討する論点は次の3つである。
1、建設型応急仮設住宅の無償提供期間の延長及びその打切りの適用法令は何か。
2、国家公務員宿舎の無償提供期間の延長及びその打切りの適用法令は何か。
3、国家公務員宿舎の無償提供期間の延長及びその打切りの決定主体である行政庁はどこか。


第2、検討
1、論点1(建設型応急仮設住宅の場合の適用法令)
(1)、結論
 「特定非常災害の被害者の権利利益の保全等を図るための特別措置に関する法律」(以下、特定非常災害特別措置法という)8条であって、災害救助法施行令3条2項ではない。
(2)、理由
 国は、2011年3月13日、福島原発事故を含む東日本大震災に対して、特定非常災害特別措置法に基づき、著しく異常で激甚な非常災害である「特定非常災害」に指定した 。
2012年4月17日、国が応急仮設住宅の供与期間を1年間延長するという通知(乙A24)を発出したのは特定非常災害特別措置法8条に基づいたもので、上記通知はこの法律に基づくことを明言している。
従って、建設型応急仮設住宅の場合、無償提供期間(供与期間)の延長の打切りの適用法令も同じく特定非常災害特別措置法8条である。   
 以上の通り、建設型応急仮設住宅について適用法令は明らかである。問題は建設型ではないが、応急仮設住宅の1つとされるみなし仮設住宅、その1つである国家公務員宿舎についての適用法令である。
以下、これについて検討する。

2、論点2(国家公務員宿舎の場合の適用法令)
(1)、結論
 国家公務員住宅の無償提供期間の延長及びその打切りの適用法令は建設型応急仮設住宅の場合と異なり、特定非常災害特別措置法8条でない。国家公務員住宅の無償提供期間の延長及びその打切りについて、特定非常災害特別措置法は「法の欠缺」状態にある。

(2)、理由
 特定非常災害特別措置法8条が建設型応急仮設住宅について、無償提供期間の更新の期間を1年間という短期間しか認めなかったのは、急ごしらえの建設型応急仮設住宅の安全面、防火面、衛生面を考慮せざるを得ないからで、それゆえ、更新の決定の行政主体も、建築基準法の建物を審査する特定行政庁とした。これには合理的な理由がある。

 しかし、そうだとすると、堅固な建物である国家公務員宿舎の場合に、更新の期間を同様に1年間という短期間しか認めないとする合理的な理由はない。 すなわち、堅固で、安全上も防火上も衛生上も基本的に問題のない建物である国家公務員宿舎の場合には建設型応急仮設住宅について定めた特定非常災害特別措置法8条を類推または拡張解釈する合理的な基礎がない。
よって、東日本大震災に対して適用される特定非常災害特別措置法は国家公務員宿舎の一時使用許可の期間及びその延長の期間については、これを決定する行政主体も含め、「現実の紛争事実に対して、法律から具体的な判断基準が直接引き出せない」という「法の欠缺」状態にある。

(3)、「法の欠缺」の補充           
 そこで、特定非常災害特別措置法の国家公務員宿舎の一時使用許可の期間及びその延長の期間、並びにその決定の行政主体について「法の欠缺」状態を補充(穴埋め)する必要がある。
まず、特定非常災害特別措置法の国家公務員宿舎の一時使用許可の期間及びその延長の期間について「法の欠缺」状態を補充(穴埋め)したのが準備書面(被告第2)第2、6(2)ウ(26~28頁)の記述である。 
次に、特定非常災害特別措置法の国家公務員宿舎の無償提供の期間の決定の行政主体について「法の欠缺」状態を補充(穴埋め)を検討したのが次の3、論点3である。     

3、論点3(国家公務員宿舎の場合の決定の行政主体)
(1)、結論
 国が決定主体であり、自治体の長ではない。

(2)、理由
 もともと特定非常災害特別措置法自体、全国の都道府県をまたぐほど広域にわたる過酷事故である原子力災害の発生を想定しておらず、そして、広域に及ぶ被害・避難が発生した福島原発事故に対して各自治体レベルで適切な対応をとるのは極めて困難な事情であることをかんがみれば、国家公務員宿舎の無償提供の期間(一時使用許可の期間及びその延長の期間)の決定についても、広域に及ぶ状況を把握している国をさしおいて他に適切な行政主体は見出し難い。
したがって、国家公務員宿舎の無償提供期間の延長の打切りもまた国が決定すべきである。

第3、結語
以上から、本件の国家公務員宿舎の無償提供期間の延長の打ち切りもまた国が決定すべきであった。
そのような国の決定がないまま延長を打ち切った本件はそれだけで重大な手続上の瑕疵であり、違法と言わざるを得ない。
 なお、以上は被告らの主位的主張であり、もしこれが認められない場合には予備的主張として、従前から主張している「災害救助法施行令3条2項に基づく福島県知事」が決定の行政主体であると主張するものである(その詳細は準備書面(被告第9)第2、3、(2)〔11~15頁〕参照)。
そして、この主位的主張と予備的主張についての主張整理は、今般提出の準備書面(被告第15)の中で明らかにした。
                                                        以 上



【第87話】緊急裁判速報:追出し裁判の福島地裁、次回期日(7月26日)で審理打切りを通告。避難先住宅ばかりか裁判所からも追出される避難者。これは居住権と裁判を受ける権利の二重の人権侵害である(2022.7.20)。

                (2021年5月14日 第1回期日 福島地裁前)

上の写真の通り、福島県が避難者に避難先建物の明渡しを求める裁判(避難者追出し裁判)が 昨年5月14日に福島地裁で第1回期日が開かれた(以下、その報告)。

 5.14世界の常識(国際人権法)でもって日本の非常識(避難者追出し)を裁く「避難者追出し訴訟」第1回口頭弁論の報告(2021.5.18) 

このときの被告(避難者)の主張は次の2点だった。
1、国難の責任者である国ではなく、福島県に原告の資格はない
国難である福島原発事故の救済に関する自主避難者の居住権の問題について、国の持ち物である国家公務員宿舎の明渡を、なぜ国難の責任者の国ではなく、なぜ国家公務員宿舎の持ち主の国ではなく、福島県が原告となって自主避難者を提訴できるのか、という原告適格の問題。

2、国際人権法に適合した法律の解釈をとれば、福島県の明渡し請求は認められない。
国内法の序列体系からすれば、国際法(条約)は法律の上位規範であり、本件に即して言えば、法律である災害救助法及びその関連法令の内容は国際法である国際人権法に矛盾抵触することはできず、これらの法律の内容は国際人権法に適合するように解釈されなければならない。
「国際人権法に適合した法律の解釈」――この基本原理を本件に当てはめれば、災害救助法及びその関連法令は「国内避難民となった原発事故被災者の居住権」を保障する社会権規約及びその内容を具体化、普遍化した一群の国際人権法に矛盾抵触することはできず、これらに適合するように解釈しなければならない。そこで、この国際人権法に忠実に災害救助法等を解釈すれば、原告の追出しの請求は認められないという結論が導かれる、という国際人権法の問題。

しかし、実はこの裁判では最大の謎が残っていた。それは、
福島県は一体いかなる法令に基づいて、そしていかなる調査に基づいて、いかなる論議を尽くして、
被告(避難者)の追出しを決定したのか、その決定のプロセスを決して明らかにしようとせず、闇の中に置かれてきたことである。

けれど、昨年の審理の中で、
被告(避難者)がこの点を追求する中で、少しずつ、福島県及び国の被告(避難者)の追出しの決定のプロセスが解明されてきた。

そこで、不完全とはいえこの間の解明を前提に、このたび、 被告(避難者)は初めて、本裁判で解明すべき中心争点を6つにまとめ、今後その真相解明を果すことを求める、この間の主張の集大成とも言うべき書面を作成、提出した。

被告準備書面(14)--仮設住宅の支援打切りの適用法令及び決定の主体について--

->その詳細は、【第88話】参照。

被告準備書面(15)--6つの抗弁の法律構成の骨子について--
->その6つの抗弁の詳細は、【第8】参照。

ここでようやく、本裁判は審理の夜明けに、本格的解明のとば口に立った。

ところが、その矢先に、裁判所は、昨日19日、次回で審理打切りを通告してきた。
これは臭いものに蓋をするという、被告
(避難者)の裁判を受ける権利の露骨な剥奪であり、被告(避難者)は国、福島県から迫害されるばかりか、人権の最後の砦とされる裁判所からも迫害されるという二重の人権侵害を受けている。

いま、世界は福島原発事故で避難を余儀なくされた避難者の人権侵害状況を憂慮し、国連人権理事会はその人権侵害状況の調査のため、セシリア・ヒメネス・ダマリー氏を特別報告者に任命し、その来日が確定している(9月26日~10月7日)。昨日の緊急裁判情報は、まるでダマリー特別報告者に、福島原発事故の国内避難民に対する迫害が日本政府のみならず、裁判所によっても実行されているという重大な事実を伝えるために行われたようなものである。

私たちは、もともと人権とは、原発事故が起きようが起きまいがそれに関係なく、誕生から死に至るまで一瞬たりとも途切れることなく、切れ目なく保障される生来の権利であり、
つまり、
原発事故が発生したからといって、被災者は一瞬たりとも人権を喪失することもなけれ、国家は人権保障を実行する義務を一瞬たりとも免れることもない。国家は途切れることなく、保障する義務を負い続ける。ここから避難者の救済を再定義し、本裁判でも主張してきた。

そうした基本的人権のエッセンスを踏まえた審理を実行するどころか、その実行にフタをすることだけに汲々とする福島地裁のやり方は、昨今の日本の常識だとしても、まぎれもなく世界の非常識である。
私たちは、避難者を追出そうと提訴した原告の福島県に対し、世界の常識(国際人権法)でもって日本の非常識(避難者追出し)を裁くという追求をしてきたのと同様、
追出し裁判の真相解明にフタをしようとする福島地裁に対しても、
世界の常識(国際人権法)でもって日本の非常識(真相解明にフタをして裁判を受ける権利を剥奪)を裁くという追求をする決意である。

次回の第8回裁判
日時:7月26日(火)午後1時30分(傍聴抽選券の配布は12時50分の予定)
場所:福島地方裁判所

当日の裁判前・後の集会の案内
 12時30分~12時45分 福島地裁前行動
 12時50分 傍聴抽選券配布
 13時30分~14時30分 第8回弁論 
 15時~16時 報告集会(参加費:無料)
 (福島市市民会館301号室(福島市霞町1番52号 福島地裁すぐ))


 


【第144話】一昨日、避難者追出し裁判の総決算の書面(上告理由書等)を作成直後のつぶやき(24.4.21)

 以下は、避難者追出し裁判の 上告理由書 等を作成した直後のつぶやき。  ******************  今回の書面の根底にある考えを一言で言うと‥‥ 物理学者のアーネスト・スターングラスは 「 放射能は見えない、臭わない、味もしない、理想的な毒です 」 と言った。これは...