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2022年7月20日水曜日

【第88話】追出し裁判で、福島県はいかなる法令に基づき、いかなる調査に基づき、いかなる論議を尽くして避難者の追出しを決定したのかを明らかにした主張書面を提出(その1)(2022.7.20)

                (2021年5月14日 第1回期日 福島地裁前)

第87話】に書いた通り、追出し裁判では、福島県の提訴以来ずっと、福島県は、自分たちが一体いかなる法令に基づいて、そしていかなる調査に基づいて、いかなる論議を尽くして、被告(避難者)の追出しを決定したのか、その決定のプロセスを決して明らかにしようとせず、
その結果、この核心部分がずっと闇の中に置かれてきた。

しかし、この間の関係者の尽力により、その闇が少しずつ明らかにされ、問題点がハッキリしてきた。

今回、被告(避難者)は、この闇に焦点を合わせ、この闇の解明こそが、追い出しの是非を決定する最重要論点であることを明らかにする2通の主張書面を作成した。
その1通目が、仮設住宅の支援打切りの適用法令及び決定の主体について主張した次の被告準備書面(14)。

被告準備書面(14)--仮設住宅の支援打切りの適用法令及び決定の主体について--

以下その内容を紹介する。

はじめに
 行政法の基本原則である「法律による行政の原理」及び「説明責任の原則」によれば、
原告は被告ら区域外避難者が入居する住宅の無償提供期間の延長及びその打切りを決定するにあたっては、いかなる法令に基づき、いかなる調査に基づいていかなる検討を経た上で政策決定したのか、その決定過程を当事者である被告ら区域外避難者に説明する責任がある。しかし、裁判以前は言うまでもなく、提訴に至っても、訴状には無償提供期間の延長及びその打切りの決定の根拠となった法令の説明は一言もなく、単に次の記述だけであった。
被告については平成29年3月31日をもって応急仮設住宅としての本件建物の供与が終了になり本件建物の占有権限がなくなった》(訴状の請求原因2(2))

これでは、葉っぱが秋になって色づいて落ちてなくなってしまったかのように、本件建物の供与も終了して占有権限もなくなってしまったと、あたかも自然現象であるかのように書かれていた。

 以上の通り、原告は自身に課せられた適用法令の説明責任すら果さない。その結果、被告らは当初適法に入居した自分たちがのちに追出される法的根拠すら知らされず、そのため、いかなる法令に基づき追出しの違法性を訴えたらよいのかという最も基本的な問題すら分からず、苦難を強いられた。本裁判の真相解明が最も困難を極めた最大の理由がここにある。

 しかるに、この間の関係者の尽力により、被告らは、ようやく本件建物の無償提供期間の延長及びその打切りの適用法令の糸口を掴んだ。それは被告らが、いかなる法令に基づいて本件追出しの違法性を反論したらよいかを掴んだという意味である。被告らの主張整理は今、クライマックスの中にある。それが本書面である。

第1、問題の所在
 本書面で検討する論点は次の3つである。
1、建設型応急仮設住宅の無償提供期間の延長及びその打切りの適用法令は何か。
2、国家公務員宿舎の無償提供期間の延長及びその打切りの適用法令は何か。
3、国家公務員宿舎の無償提供期間の延長及びその打切りの決定主体である行政庁はどこか。


第2、検討
1、論点1(建設型応急仮設住宅の場合の適用法令)
(1)、結論
 「特定非常災害の被害者の権利利益の保全等を図るための特別措置に関する法律」(以下、特定非常災害特別措置法という)8条であって、災害救助法施行令3条2項ではない。
(2)、理由
 国は、2011年3月13日、福島原発事故を含む東日本大震災に対して、特定非常災害特別措置法に基づき、著しく異常で激甚な非常災害である「特定非常災害」に指定した 。
2012年4月17日、国が応急仮設住宅の供与期間を1年間延長するという通知(乙A24)を発出したのは特定非常災害特別措置法8条に基づいたもので、上記通知はこの法律に基づくことを明言している。
従って、建設型応急仮設住宅の場合、無償提供期間(供与期間)の延長の打切りの適用法令も同じく特定非常災害特別措置法8条である。   
 以上の通り、建設型応急仮設住宅について適用法令は明らかである。問題は建設型ではないが、応急仮設住宅の1つとされるみなし仮設住宅、その1つである国家公務員宿舎についての適用法令である。
以下、これについて検討する。

2、論点2(国家公務員宿舎の場合の適用法令)
(1)、結論
 国家公務員住宅の無償提供期間の延長及びその打切りの適用法令は建設型応急仮設住宅の場合と異なり、特定非常災害特別措置法8条でない。国家公務員住宅の無償提供期間の延長及びその打切りについて、特定非常災害特別措置法は「法の欠缺」状態にある。

(2)、理由
 特定非常災害特別措置法8条が建設型応急仮設住宅について、無償提供期間の更新の期間を1年間という短期間しか認めなかったのは、急ごしらえの建設型応急仮設住宅の安全面、防火面、衛生面を考慮せざるを得ないからで、それゆえ、更新の決定の行政主体も、建築基準法の建物を審査する特定行政庁とした。これには合理的な理由がある。

 しかし、そうだとすると、堅固な建物である国家公務員宿舎の場合に、更新の期間を同様に1年間という短期間しか認めないとする合理的な理由はない。 すなわち、堅固で、安全上も防火上も衛生上も基本的に問題のない建物である国家公務員宿舎の場合には建設型応急仮設住宅について定めた特定非常災害特別措置法8条を類推または拡張解釈する合理的な基礎がない。
よって、東日本大震災に対して適用される特定非常災害特別措置法は国家公務員宿舎の一時使用許可の期間及びその延長の期間については、これを決定する行政主体も含め、「現実の紛争事実に対して、法律から具体的な判断基準が直接引き出せない」という「法の欠缺」状態にある。

(3)、「法の欠缺」の補充           
 そこで、特定非常災害特別措置法の国家公務員宿舎の一時使用許可の期間及びその延長の期間、並びにその決定の行政主体について「法の欠缺」状態を補充(穴埋め)する必要がある。
まず、特定非常災害特別措置法の国家公務員宿舎の一時使用許可の期間及びその延長の期間について「法の欠缺」状態を補充(穴埋め)したのが準備書面(被告第2)第2、6(2)ウ(26~28頁)の記述である。 
次に、特定非常災害特別措置法の国家公務員宿舎の無償提供の期間の決定の行政主体について「法の欠缺」状態を補充(穴埋め)を検討したのが次の3、論点3である。     

3、論点3(国家公務員宿舎の場合の決定の行政主体)
(1)、結論
 国が決定主体であり、自治体の長ではない。

(2)、理由
 もともと特定非常災害特別措置法自体、全国の都道府県をまたぐほど広域にわたる過酷事故である原子力災害の発生を想定しておらず、そして、広域に及ぶ被害・避難が発生した福島原発事故に対して各自治体レベルで適切な対応をとるのは極めて困難な事情であることをかんがみれば、国家公務員宿舎の無償提供の期間(一時使用許可の期間及びその延長の期間)の決定についても、広域に及ぶ状況を把握している国をさしおいて他に適切な行政主体は見出し難い。
したがって、国家公務員宿舎の無償提供期間の延長の打切りもまた国が決定すべきである。

第3、結語
以上から、本件の国家公務員宿舎の無償提供期間の延長の打ち切りもまた国が決定すべきであった。
そのような国の決定がないまま延長を打ち切った本件はそれだけで重大な手続上の瑕疵であり、違法と言わざるを得ない。
 なお、以上は被告らの主位的主張であり、もしこれが認められない場合には予備的主張として、従前から主張している「災害救助法施行令3条2項に基づく福島県知事」が決定の行政主体であると主張するものである(その詳細は準備書面(被告第9)第2、3、(2)〔11~15頁〕参照)。
そして、この主位的主張と予備的主張についての主張整理は、今般提出の準備書面(被告第15)の中で明らかにした。
                                                        以 上



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