今年最大のイベントである参議院選挙直前の金曜日のアフターファイブギリギリに東大から申立者に届いた調査結果の通知はわずか10行たらずの調査結果。そのうち倫理違反については、以下の3行だった。
つまり、 倫理違反は「本委員会の調査範囲外の事項」だから、本委員会では調査しない、と。
?!
狐につままれるとはこのことか。
これは、東大は倫理違反の研究については一切調査しない、という宣言にも聞こえる。
それくらい、自分たちの大学は倫理違反を犯さないという絶対の自負に裏付けられているのか。
他方、同じ申立を受理した医大の調査委員会が倫理違反について行った調査結果は、本来しなくてもよい調査をした、トンマな調査ということになるのか。
この判断がいかに間違っているか、以下に示そうと思う。
第1に、もし「本委員会で調査しない」としたらどこで調査するのか。その受付窓口について、東大の調査結果は黙して語らない。そこで、東京大学の規則集を検索したところ、ちょうど研究不正の調査の申立を受け付ける科学研究行動規範委員会の規則に相当するような、倫理違反の調査の申立を受け付ける委員会に関する規則は見当たらない。
ということは、 東大は一方で、「人を対象とした医学系研究に関する倫理指針」などを守るように、倫理委員会を設置し、研究のガイドラインを作って、研究者たちにその遵守をやかましく要求しているけれども、ひとたびそのガイドラインを破った倫理違反の研究が実施されてもそれを調査する調査委員会が存在しないとしたら、やったもの勝ちで、やりたい放題を認めるという意味なのか。そんなのはおかしいに決まっている。
第2に、では、 研究のガイドラインを破って倫理違反の研究が実施された場合、東大以外の大学ではどう対処しているのか。やったもの勝ち、やりたい放題を認めてはいない。
例えば、
①.2012年6月、国立大学法人東京医科歯科大学は、大学の教員及び大学院生が、国の定める「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針」に違反し、学内の倫理審査委員会の承認を得る前に、研究する目的で患者さんに同意を得た上で、採血を開始した事実が発覚したとして、調査委員会を設置して調査を行った調査結果を公表、その上で職員の懲戒処分を公表した。
②.2016年6月、北海道公立大学法人札幌医科大学に届いた「倫理指針違反の研究が実施された」という匿名の手紙が端緒となって、大学は調査委員会を設置し、通報の研究以外にも150件の研究も含めて調査を実施し、「使われた患者10人の骨髄や血液について、患者への適切な説明や承諾を得たかどうか確認できず、重大な倫理指針違反があった」という調査結果と研究者の厳正な処分を行う方針と再発防止策に関する報告書を作成、公表した。
この2つの大学も倫理違反の調査の申立を受け付ける委員会に関する規則は見当たらなかった。だからといって、その事実が判明した倫理違反研究に対しては、これを見過ごすことをせず、直ちに学内に調査委員会を設置し、真相解明のための調査に乗り出し、その調査結果を作成、公表している。これが真っ当な姿と思う。
これに対し、なおも東大は「うちは違う」と言い張る積りだろうか。もしそうなら、そのとき「東大の常識は世界の非常識」が証明されるだけである。
すなわち、東大は、申立者(島明美氏)の倫理違反の調査の申立に対し、これを見過ごすことをせず、直ちに学内に調査委員会を設置し、真相解明のための調査に乗り出し、その調査結果を作成、公表すべきである。
第3に、今回の研究不正の申立に対し、ひとたび東大の科学研究行動規範委員会が無条件で本調査に入る旨を宣言した以上、「我が委員会で、倫理違反の調査も行い、調査結果を出す」ことを認めたものであり、にもかかわらず、最後の土壇場になって、いきなりちゃぶ台返しをしたものにほかならない。
すなわち、研究不正の申立の手続は、ざっと次の通りである。
①.申立→②.受理→③.若干名による予備調査→④.調査委員会による本調査→⑤.調査委員会による調査結果→⑥.科学研究行動規範委員会の審理・裁定
このうち、③の予備調査は不正行為の疑いの有無を調査するもので、その疑いが認められたら、正式に調査委員会を設置し、本格調査に乗り出す。
以上の手続の流れを踏まえれば、もし申立において、調査委員会による本調査の対象外の事項が申し立てられた場合には、②の受理もしくは③の予備調査の段階で、「申立は本調査の対象外の事項である」として調査を斥けることになる。
しかし、倫理違反と研究不正に関する本件の申立において、東大は申立を受理して予備調査に入り、予備調査の結果、2月4日付で、申立者に以下の「本調査を開始する決定」をした旨の通知をした。 つまり、無条件で本調査を開始する決定を下した以上、その調査対象は、当然、申立者が申し立てた倫理違反と研究不正の2つに及ぶことになる。
それを、最終段階の⑥.科学研究行動規範委員会の審理・裁定に至って、いきなり「倫理違反は本委員会の範囲外事項だ」から本委員会では調査しないと、ちゃぶ台返しを言い出すとはご乱心以外に考えられない。
第4に、東大の科学研究行動規範委員会は、実は、これまでに、「捏造」「改ざん」「盗用」の研究不正以外に、倫理違反の研究についても調査・認定をしてきた実績がある。
その一例が2008年8月11日付で東大工学部西村肇名誉教授が申立者として科学研究行動規範委員会に「研究不正」の調査を申し立てた事案。この事案の予備調査の結果のうち「倫理違反」の認定について、西村氏は次の通り、批判している。
この実験結果を知りながら、一切これを批判検討することなく、正反対の論文を書いたのが、鈴木教授です。予備調査委員会は、それが研究者倫理に違反するとは言えない、と判定していまが、もし鈴木教授が、論文中にこの図を引用したならば、論文は書けなかったはずです。
つまり鈴木教授は、この図を入れては論文が成り立たないから、この図を入れなかったのでしょう。これを研究者倫理に違反するとは言えない、というのが委員会の判定です。「本気ですか」と言いたくなります。(調査委員会の結論への不服申立(西村))
、
以上の通り、 「倫理違反は本委員会の範囲外事項だ」から、本委員会では調査しない、という裁定は、いかなる弁解の余地もないほど完璧な誤りである。
よって、 科学研究行動規範委員会は速やかに、倫理違反の調査を再開し、結果を報告すべきである。もしそれができないというのであれば、速やかに、東大内部に別途、調査委員会を設置し、その委員会が倫理違反の調査を行ない、結果を報告すべきである。
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