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2019年7月16日火曜日

【第5話】君は「福島の小児甲状腺がんと被ばくの関連は認められない」という福島県の報告書に関心がないかも知れないが、福島県の報告書は君に関心がある(2019.7.16)

君は、2019年6月3日、福島県の「県民健康調査」検討委員会の評価部会が公表した「福島の小児甲状腺がんと被ばくの関連は認められない」という報告書に関心がないかも知れないが、福島県の報告書は君に関心がある。
なぜなら、これは新たな「安全神話」が創造される神聖不可侵な瞬間だからである。

1、新たな「安全神話」が作られる鮮やかな瞬間の第1
 ここ8年間で、新たな「安全神話」が作られる鮮やかな瞬間の第1と言えば、それは山下俊一長崎大学教授が登場した時だ。
彼は、 原発事故が発生し、私たちが健康被害の不安のさ中にいた時、私たちが頼みもしないのに、 東電の社長が事故直後に本社に戻るため自衛隊のヘリコプターに搭乗しようとして拒否された時でも、自衛隊のヘリコプターに堂々と乗って長崎から福島までやって来て、
 「放射線の影響は、実はニコニコ笑ってる人には来ません。クヨクヨしてる人に来ます。」
「皆さん、マスク止めましょう。」
「『いま、いわき市で外で遊んでいいですか』『どんどん遊んでいい』と答えました。」
                         (子ども脱被ばく裁判 原告準備書面(7)33頁以下より)

にはじまる、聞いたこともないような奇想天外な「安全神話」創造に向けた有名な発言、「根拠のない噂」=風評を連日、連発した人物である(「美味しんぼ」事件した、「風評」払拭に血眼になる日本政府も、この山下発言に対しては一言もコメントしなかった)。しかし、健康被害の不安の中にいた福島の人たちは専門家と称するこの人物の安全・安心の言葉にすがり、放射能に対する警戒心をすっかり解いてしまった。この点で、彼は新たな「安全神話」の創造に見事に成功した。

 原発事故が発生すると、頼みもしないのに安全神話のほうからヘリに乗って君たちのところにやって来て、安全だ、安心だと耳元でささやき続ける。
安全神話は君たちが勝手な真似をしないように、それくらい君たちに関心がある。

2、新たな「安全神話」が作られる鮮やかな瞬間の第2
 ここ8年間で、その次に、新たな「安全神話」をめぐる鮮やかな瞬間は、誰もが知っている漫画「美味しんぼ」の言論抑圧事件。
2014年 4月28日と5月12日発売の雑誌「週刊ビッグコミックスピリッツ」連載の漫画「美味しんぼ」に福島県双葉町の前町長や福島大学の准教授が実名で登場し、自身の被ばく体験と同様の境遇に置かれた無数の市民たちから得た情報から導かれる範囲で、自身の見解を述べた(前町長の見解については、さらに医師により「被ばくとの関係」についてひとつの可能性として科学的な説明が補足された)。
これに対し、石原環境大臣は
専門家からは福島第一原発の事故による被ばくと鼻血との因果関係はないと評価が出ている。風評被害を引き起こすようなことがあってはならないと思う
と、白を灰色とする風評被害があってはならない旨発言し、 福島県と双葉町は
総じて本県への風評被害を助長するものとして断固容認できず
双葉町に事前の取材が全くなく、一方的な見解のみを掲載した、今般の小学館の対応について、町として厳重に抗議します
と風評を被害助長したと猛烈な抗議声明を出し、日本政府の閣僚と福島の自治体が一丸となって、目を見張るばかりの同時多発連携プレーをやってのけた。

もともと現時点の科学技術・医学の水準は、「被ばくによる人体への影響」を解明するにはほど遠く、内部被曝によって起こる病気や症状のほとんどが原因が被ばくによるものだと特定する検査方法が確立されていないため、よほどのことがない限り、それが被ばくによるものだと確定診断されることはない。こう断言するのは1991年から5年半チェルノブイリに医療支援活動を行った菅谷昭松本市長(彼の「原発事故と甲状腺がん」52頁参照)。
 被ばくと健康被害の関係が科学的に十分解明されていないとは、或る健康被害が発生したとき、現時点の科学ではそれが被ばくの影響である(危険)とは断定できず、影響がない(安全)とも断定できないこと、つまり危険の可能性を帯びた灰色だということ。それが今日の科学の到達点であり、限界である。
専門家からは福島第一原発の事故による被ばくと鼻血との因果関係はないと評価が出ている。」というのはウソっぱちである。「ない」という困難な証明をどうやってやってのけたのか、聞いてみたいものだが、全く説明がない。
だから、福島の人に限らず、多くの人たちが、311以後の不可解な鼻血は原発事故が原因ではないかと疑い、論じるのは当然だ。
そして、日本政府も福島県も、この鼻血問題を一握りの人たちがネットで論じている限りは、表立ってそれに口を挟まない。しかし、ひとたび、その鼻血問題が漫画といった一般大衆の舞台で取りざたされた瞬間、ストップがかかる。これが「美味しんぼ」事件。
 それは、一般大衆が気軽に手にする漫画という舞台に、鼻血は被ばくが原因?!という話題が登場し、「被ばくと鼻血との因果関係はない」という政府の安全神話を揺るがしたからだ。

民主主義社会では「自由な言論と討論の広場」を通じて真実に到達するプロセスが保障されているから、鼻血問題もその広場を通じて、一般大衆が自主的に判断するのが本来のやり方だ。なのに、頼みもしないのに、政府の閣僚と福島県はしゃしゃり出て、君たちのところにやって来て、風評被害はあってはならない、風評被害助長は断固容認できないと耳元でささやき続ける。
それは単に、漫画のおかげで自分たちが作り上げてきた安全神話が崩れるのではないかと心配で心配でたまらないからだ。
安全神話は君たちが自主的な判断をして目覚めることがないように、それくらい君たちに関心がある。

3、新たな安全神話=「福島の小児甲状腺がんと被ばくの関連は認められない」という福島県の報告書

福島原発事故以後、日本政府に課せられた最大の課題は次のことであった--放射能(とりわけ内部被ばく)が健康被害にもたらす影響はどのようなものであるか、もし影響の有無が科学的に十分解明されないとしたらつまり灰色の場合、いかなる対策を採るべきであるか、という論点を徹底的に解明し、国民に分かりやすく説明する責任を果たすことだった。
しかし、今回の国政選挙を見ても明らかな通り、この間、日本政府は(政権は替わっても)この最大の課題に対して、見事なまでに、厚顔無恥に、無視、無頓着をぶれずに貫き続けてきた。そして説明責任を放棄する代わりに、首尾一貫して掲げた政策が三無主義の(つまり、定義なき、説明なき、合理性なき)「風評払拭」キャンペーンだった(例えば2017年12月の復興大臣の指示)。
 なぜ「風評被害」なのか、なにが「根拠のない噂」=風評なのか、その合理的な理由と定義を誰も知らない。日本政府が、その合理的な理由と定義を説明しないからだ。
その日本政府のやり方を右ならえとそっくり真似をしたのが今回の「福島の小児甲状腺がんと被ばくの関連は認められない」という福島県の報告書だ。
本来、何が「根拠のない噂」=風評なのか、科学的な説明ができない日本政府に、「風評払拭」を口にする資格はないのと同様、なぜ「小児甲状腺がんと被ばくの関連は認められない」のか、科学的な説明ができない福島県に、関連性否定を云々する資格はない。

そして、この時期に、こんな厚顔無恥でいかさまの報告書に敢えて出した理由は歴然としている。東京オリンピックを来年に控え、福島原発事故は完全に収束したことを世界に知らしめるため、最大の懸案事項である「被ばくによる健康被害」の問題について、決着をつけるタイムリミットが迫っているからだ。
 安全神話は君たちがオリンピックというお祭り騒ぎを通じて、原発事故の過去をチャラにするため、原発事故の悲惨な結果に二度と目を向けることがないように、君たちの認識についてじわりじわりと包囲網を築いている。それくらい君たちに深い関心がある。

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