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2019年9月29日日曜日

【第29話】新しい酒を新しい皮袋に盛る市民立法「チェルノブイリ法日本版」と東京オリンピック(2019.9.29)

「見えない、臭わない、味もしない、理想的な毒」である放射能のわな、欺瞞に陥ることなく、その危険性を正しく認識するためには、カントが言ったように、視差(ズレ)の中で考えるしかない。                  
さきに、私は一般的人間悟性を単に私の悟性の立場から考察した。今私は自分を自分のではない外的な理性の位置において、自分の判断をその最もひそかな動機もろとも、他人の視点から考察する。
 両者の考察の比較は確かに強い視差を生じはするが、それは光学的欺瞞を避けて、諸概念を、それらが人間性の認識能力に関して立っている真の位置におくための、唯一の手段である。
(カント「視霊者の夢」) 


その視差(ズレ)の1つが場所的な視差、つまりチェルノブイリと福島との対比
1986年のチェルノブイリ事故から30年以上経ったウクライナ、ベラルーシで、その間にオリンピックが開催されたことがあっただろうか。
それだけで、事故から9年目にオリンピック開催を宣言する日本の異常さが露呈される。

以下は、 東京オリンピックの異常さとその唯一の可能性つまり30年前のソウルオリンピックがもたらした偉業=市民の自己統治という民主化(→その写真動画、漫画「沸点」)を成し遂げた可能性に学び、正常に向かうロードマップについて書いたもの。これを書き、改めて、今こそ、日韓の市民の連携、ネットワークの重要性、大切さを痛感している(その詳細は->「なかったことにする」に「理不尽です」と抵抗する市民一人一人の声、行動、そのネットワークが1987年の民主化を産み出した)。

以下の文はこの夏、出版された「東京五輪がもたらす危険─いまそこにある放射能と健康被害─」に収められている。

全文のPDFは->こちら

               *************
 

新しい酒を新しい皮袋に盛る市民立法「チェルノブイリ法日本版」と東京オリンピック

福島原発事故で私達は途方に暮れました。日本全土と近隣国を巻き込み、過去に経験したことのない未曾有の無差別過酷災害だからです。ところが未曾有の事故にもかかわらず、従来の災害の発想で救助・支援が行われ、そして支援は打ち切られました。「新しい酒は新しい皮袋に盛れ」、これが私たちの立場です。未曾有の無差別過酷事故には未曾有の無差別の救済が導入されるべし、それが健康被害が発生しようがしまいが事前の一律救済を定めた、原子力事故に関する世界最初の人権宣言=チェルノブイリ法です。

福島原発事故で私達は途方に暮れました。放射能は体温を0.0024度しか上げないエネルギーで人を即死させるのに、目に見えず、臭わず、痛くもなく、味もせず、従来の災害に対して行ったように、五感で防御するすべがないから。人間的スケールでは測れない、ミクロの世界での放射能の人体への作用=電離作用という損傷行為がどんな疾病をもたらすか、現在の科学・医学の水準では分からないから。つまり危険というカードが出せない。にもかかわらず、危険が検出されない以上「安全が確認された」という従来の発想で対応し、その結果、人々の命、健康は脅かされました。「危険が検出されないだけでは足りない。安全が積極的に証明されない限り、人々の命を守る」、これが私たちの立場です。つまり人々の命を被ばくというロシアンルーレットから守る。それが予防原則で、これを明文化したのがチェルノブイリ法です。

福島原発事故で私達は途方に暮れました。最初、人々は除染で放射能に勝てると教えられましたが、それが無意味な試みと分かると口を閉ざしたからです。避難できず、苦悩が人々の避難場所となりました。「苦悩という避難場所から脱け出し、真の避難場所に向かう」、これが私たちの立場です。それが美しい謳い文句にとどまらず、現実に、安全な避難場所に避難する権利を保障したチェルノブイリ法です。

原発事故の本質は戦争です。国難です。他の全ての課題に最優先して、その全面的救済を実現する必要があります。同時に歴史の教えるところは、国難において、国家はウソをつく
、犯罪を犯す。現場にどんな悲劇があっても、一人一人の市民がその生死をかけて立ち上がらなければ何も生まれない(田尻宗昭)
。それが、20183月スタートした、市民主導で日本各地から条例制定を積み上げていく、市民が育てる「チェルノブイリ法日本版」の会の市民運動です。

 原発事故は従来の常識が通用しない「人間離れした」災害です。同時に、天災ではなく、人間が作り出した災害です。私達には責任があります。私達の未来はこの原発事故に「適応」できるか否かにかかっている。日常生活に逃避することはできません。その責任を果さず、日常生活の究極のイベント=オリンピックという避難場所に引きこもる余地はないのです。

ただ、オリンピックにはこれをバカにできない例外があります。1987年、国内世論と国際世論が連携し、民主化の実現なしに平和の祭典は不可能だと、ソウルオリンピック開催と引換えに悪名高い独裁制に終止符を打った韓国の民主化運動の成功です。外圧に弱い日本にとってこれは千載一遇のモデル。原発事故の放射能の脅威の中で人々が声も上げられず暮らす国で平和の祭典は不可能だ、放射能の脅威から免れて平和に生存する権利=避難の権利が保障されてこそ平和の祭典も初めて可能になる――この真実を世界に訴え、東京オリンピック開催と引換えに避難の権利の保障を実現すること、それが311以後の私達に残されたことです。

育てる会共同代表 柳原敏夫)
(2019年5月18日)



 

2019年9月18日水曜日

【第28話】(続報)【山下・鈴木証人尋問2】鈴木眞一氏の証人採否をめぐる応酬の続き。原告より鈴木氏の尋問事項に関する上申書を提出(2019.9.17)。

 「壊れゆく日本 日本捕囚:」のブログより

2015年5月まで、 福島県の甲状腺検査の実施主体である福島県立医科大学の検査責任者だった 
鈴木眞一氏
福島県立医科大学HPより

福島地裁で審理中の「子ども脱被ばく裁判」、今月2日の代理人と裁判所だけの進行協議の場で、鈴木眞一氏の証人採否をめぐり、この間、書面の応酬()、それを踏まえて、裁判所から、
鈴木証人の尋問事項について、その趣旨、具体的内容を述べた上申書を提出して欲しい。」
旨のリクエストが原告に出された(詳細は、当日の報告->こちらを参照)。

)この間の書面の応酬は以下の通り。
1、原告の、山下俊一・鈴木眞一両名の立証趣旨と尋問事項を記した上申書(2019.7.9)2、被告国の、鈴木眞一氏の人証申出についての意見書(2019.8.20)
3、被告福島県の、鈴木眞一氏の人証申出についての意見書(2019.8.23)
4、原告の、「被告国の鈴木眞一氏の人証申出についての意見書」に対する反論(2019.8.26)
5、原告の、「被告福島県の鈴木眞一氏の人証申出についての意見書」に対する反論(2019.8.28)

本日、原告はこの宿題を片付け、以下の、鈴木眞一氏の「尋問事項に関する上申書」を作成して裁判所に提出。全文のPDFは->こちら
この書面を踏まえて、裁判所が鈴木証人を採用するかどうかの決定は次回10月1日となります。

尋問事項に関する上申書」の参考資料
1、2013年12月頃からスタートした、鈴木眞一氏を研究責任者として、福島県内の18歳以下の小児甲状腺がん患者の症例データベースを構築し、同がん患者の手術サンプル及び同サンプルから抽出したゲノムDNA、cDNAを長期にわたって保管・管理する「組織バンク」を整備する研究プロジェクトの研究計画書->こちら  同プロジェクトの研究成果報告書->こちら
2、鈴木眞一氏の対する尋問事項(証人申請に関する上申書4頁より)

           ****************
平成26年(行ウ)第8号ほか
原告  原告1-1ほか
被告  国ほか

                   尋問事項に関する上申書

                                            2019年 9月17日
福島地方裁判所民事部 御中        

                              原告ら訴訟代理人 弁護士  柳 原  敏 夫
                                                     ほか18名  
本年7月9日付証人申請に関する上申書4頁に記載の鈴木眞一氏(以下、鈴木氏という)の尋問事項について、原告らにとって重要な尋問事項(尋問事項6~8)を中心に、尋問事項の趣旨、具体的な尋問を明らかにする。

1、尋問事項6
本尋問の趣旨は、2013年12月頃から、鈴木氏を研究責任者として、福島県内の18歳以下の小児甲状腺がん患者の症例データベースを構築し、同がん患者の手術サンプル及び同サンプルから抽出したゲノムDNA、cDNAを長期にわたって保管・管理する「組織バンク」を整備する研究プロジェクト(以下、本研究プロジェクトという (注1))の具体的内容とりわけ小児甲状腺がんの手術を行った福島県立医科大学付属病院以外の病院との協力関係の解明を通じて、小児甲状腺がんの症例数を明らかにするためである。

(注1) これについては原告準備書面(43)第1で詳述した。
すなわち、本研究プロジェクトの特筆すべき点は、研究計画書(甲C73の2。18~22頁)の「7 研究の背景及び目的」に掲げる通り、福島県内で発生した小児甲状腺がんのデータ集積を行なうために、手術サンプルから得られるDNA等を一元的に保管・管理するシステムを構築する点にある。前記データベースはチェルノブイリ事故でウクライナ、ベラルーシ、ロシア3国が国家プロジェクトとして原発事故の被災者のデータを全て登録し、一元的に管理するデータベースを作ったことに匹敵するもので、本来「国家プロジェクト」たるべきものが、私的な「本研究プロジェクト」という看板を掲げて運用されているものである。実際にも、鈴木氏の本研究プロジェクトのほかに、福島県内で発生した小児甲状腺がんの症例データベースを構築しているところはない。

そこで、本研究プロジェクトに小児甲状腺がん患者のデータを集約し、一元的に管理するデータベースを構築するために、福島県立医科大学付属病院以外の病院で行った小児甲状腺がん手術の手術サンプル及び医療情報を全て本研究プロジェクトに集約する必要がある。そのために、研究計画書(甲C73の2)は次の取組みを実施すると述べ、実施した(注2)
研究期間内に当施設および協力施設に受診・入院した手術適応となる18歳以下の甲状腺癌患者のうち、研究参加の同意が得られたもの。‥‥協力病院については、対象者が発生した際に、計画変更申請にて、別個に追加する。》(下線は原告代理人。「8 対象者の選定」25~29行目)

(注2) その実施状況について、本研究プロジェクトの研究成果報告書(甲C75)に次の通り報告されている。
4.研究成果 ①症例データベースの構築 2016 3 31 日現在、福島県立医科大学附属病院で手術を施行した症例は、128
例であった。腫瘍径、年齢、リンパ節転移の有無、病理組織学的所見などの情報を一元的に管理するデータベースを構築した》(下線は原告代理人。4枚目左段9~15行目)

そこで、本研究プロジェクト遂行の中で、小児甲状腺がんの手術を行った福島県立医科大学付属病院以外の病院との協力関係を進めた経緯について、以下の事実を研究責任者の鈴木氏の証言により明らかにする。
①.協力関係を依頼した病院の数及び名称 
②.前記依頼の時期及び内容
③.前記依頼に対する各病院の回答
④.その後現在に至るまでに、各病院から寄せられた小児甲状腺がんの症例数

2、尋問事項7
(1)、本尋問の趣旨は、甲状腺検査で実施された甲状腺がんの手術が、学会が作成した甲状腺腫瘍診療ガイドラインに照らし、「手術の必要がある(手術適応)」と認められる基準を満たしていたかを具体的に明らかにするためである。
しかるに、被告国提出の鈴木氏の論文(乙B46。76頁左段10~11行目)では、微小がんについて「現行の診断基準で微小がんでも非手術的経過観察を勧めない理由があるもの」すなわち微小がんであっても「手術の必要がある(手術適応)」と認められるものが26%に及んでいると指摘するが、この理由の具体的内容が示されていない。原告らは、「現行の診断基準で微小がんでも非手術的経過観察を勧めない理由」の具体的内容(例えばリンパ節転移や遠隔転移)を鈴木氏の証言により明らかにする。

(2)、これに関連する事項
そこで、甲状腺検査で実施された甲状腺がんの手術が「手術の必要がある(手術適応)」ものとされると、2018年12月13日までの累計で、福島県内の18歳未満の約38万人から少なくとも273人(原告準備書面(69)――経過観察問題(続き4)・サポート事業問題について――)が「手術の必要がある(手術適応)」小児甲状腺がん(悪性及び悪性疑い)と判明したことになる。これは、通常、年間100万人に1~2人といわれる小児甲状腺がん(甲C73の2研究計画書6頁下から5~4行目。甲C34山下俊一「放射線の光と影:世界保健機関の戦略」536頁参照)に対し、年間100万人に約119人(注3) という尋常でない多発を意味する。

(注3) 甲状腺検査で2012年に甲状腺がんと判明した数は1人だから、2013~2018年の累計は273-1=272人である。小児甲状腺がんが約38万人のうち2013~2018年の6年間で累計272人という数は、100万人あたりに換算すると715.8人、さらに年間に換算すると、年間100万人あたり119人強となる。

そこで、本尋問に関連する事項として、この尋常でない多発は福島原発事故による被ばくの影響によるものかという論点がある。この点、上記鈴木氏の論文(乙B46。75頁)は、被ばくと小児甲状腺がんとの関係を認めたチェルノブイリ事故と比較し、両者の相違点に着目し、これを主な理由にして被ばくと小児甲状腺がんとの関係を否定的にとらえている。しかし、同時に福島原発事故とチェルノブイリ事故には重要な共通点が存在し、これらの共通点について上記鈴木氏の論文は黙して語らない。そこで、原告らは、これらの共通点に関する鈴木氏の見解を鈴木氏の証言により明らかにする。
さらに、福島原発事故による被ばくと小児甲状腺がんの関係を否定するのであれば、では、年間100万人に1~2人といわれる小児甲状腺がんが、6年間の累計で約38万人で少なくとも272人(年間100万人あたりで119人)も多発した福島県において、何がこの多発の原因と考えたらよいのか。この最も重要な論点について、上記鈴木氏の論文(乙B46)は何も語らない。そこで、これに関する鈴木氏の見解を鈴木氏の証言により明らかにする。

3、尋問事項8

 本尋問の趣旨は、「治療の必要のない無害ながん」の手術を行ったという批判いわゆる過剰診断論に対する鈴木氏の見解を明らかにするためである。
 この点、上記鈴木氏の論文(乙B46。73~75頁)では、「自験例はそもそも過剰診断や治療にならないよう、様々な基準をクリアした上で手術が行われている」と自らの手術の必要性、正当性を説明しているが、しかし、甲状腺がん手術の必要性を否定する過剰診断論の論拠に対する鈴木氏の見解は示されていない。原告らは、甲状腺がん手術の妥当性の解明に完璧を期すという立場から、過剰診断論の論拠、例えば①「県民健康調査」検討委員会の高野徹委員の「芽細胞発癌説」、②近年、甲状腺の超音波検査導入により多数の微小がんが見つかった結果甲状腺がんの手術数が急増したが、にもかかわらず甲状腺がんの死亡率は低下しないという韓国の事例などの論拠に対する鈴木氏の見解を鈴木氏の証言により明らかにする。
 
4、その他
(1)、尋問事項3
本尋問の趣旨は、チェルノブイリとの比較の一環として、先行したチェルノブイリの甲状腺検査をモデルにしたのではないかを確認するためのものである。

(2)、尋問事項4
本尋問の趣旨も、チェルノブイリとの比較の一環として、先行したチェルノブイリの小児甲状腺がんの発症を元にした見通しを持っていたのではないかを確認するためのものである。

(3)、尋問事項5
本尋問の趣旨は、鈴木氏は2015年5月まで、「子どもたちの甲状腺の状態を把握し、健康を長期に見守ることを目的に」(福島県ホームページ)実施している甲状腺検査の実施主体である福島県立医科大学の検査責任者として甲状腺検査の内実、詳細を最も知る立場にあったことから、「県民健康調査」検討委員会が把握していない甲状腺がんの症例数を確認するものである。

(4)、尋問事項9
本尋問の趣旨は、チェルノブイリとの比較の一環として、先行したチェルノブイリの小児甲状腺がんの再発したケースとの対比(共通性など)を検証するためのものである。

(5)、尋問事項10
本尋問の趣旨も、チェルノブイリとの比較の一環として、先行したチェルノブイリの小児甲状腺がんの肺転移したケースとの対比(共通性など)を検証するためのものである。

(6)、尋問事項11
本尋問の趣旨は、福島県の甲状腺検査を受診し、2次検査の結果経過観察とされた子どもが、紹介等により福島県立医科大学付属病院に診察を受けに来た時、診察した医師は患者が上記経過観察中であることが分かるのかを確認するためのものである。
                                                    以 上


2019年9月9日月曜日

【第27話】同じ「開かれなかった委員会を開いたことにして議題を承認した」公文書を偽造しながら、一方の会津大学は謝罪の記者会見をし、他方の東京大学はだんまりを決め込むのはなぜだ?

1、北の会津大学
先月8月9日、NHK福島放送局のニュースで、この日、福島県立の会津大学は記者会見を開き、「実際には開かれていない委員会を開いたことにして、議題が承認された」内容の公文書を大学の職員(30代男性)が偽造したとして、謝罪した(しかし、NHKは飼い主にこっぴどく叱られたらしく、「なかったことにしろ!」と、このニュースをあっという間にネットから削除)。

問題の公文書とは、 昨今、宮崎早野論文の倫理違反問題でお馴染みの、大学研究者の研究で個人のプライバシーの扱い等が適切かを事前に審査する、大学の「研究倫理委員会」で作成した文書。
今回、会津大学の研究者が行う2つの研究について、事前審査をおこなう「研究倫理委員会」が、「実際には開かれていなかったのに開いたことにして」、研究が承認されたという文書(通知書)が作成されたという。

「実際には開かれていない委員会を開いたことにして、議題が承認された」というのはウソをつくことだから、その内容の公文書は「虚偽の公文書」である。その作成行為は虚偽の公文書作成することだから、これは「3年以下の禁錮又は30万円以下の罰金」の虚偽公文書作成罪(刑法156条)という立派な犯罪である。記者会見して謝って済む問題ではない。

言うまでもなく、大学の「研究倫理委員会」の議決は委員のみが承認する権限を持ち、その承認文書の作成権限も委員にある。承認文書を委員が知らないうちに、大学の一職員が作成するなんてあり得ない。今回の会見では、「大学の職員(30代男性)が作成した」と公表したが、茶番もいい加減にして欲しい。これは悪事を暴かれたので、大学の職員をスケープゴート(いけにえ)にして幕引きを図る冤罪事件ではないのか。

 ところが、これよりもっとスゴイのが東京大学の公文書偽造事件だ。

2、東の東京大学
会津大学と同様、東京大学も 「実際には開かれていない委員会を開いたことにして、議題が承認された」内容の公文書を作成した。
こちらは教員人事を行う「分野選定委員会」で作成した公文書。
この問題は、東京大学が教授人事の不正を行ったとして、大学教授から「学問の自由の侵害」を理由とする訴訟の中で主張された(柳田辰雄VS東京大学「学問の自由」侵害裁判。その詳細は->こちら)。

問題の公文書は、以下のもので、原告の東大教授が学融合のために推進した教授人事で、分野について審査をおこなう「分野選定委員会」が、「実際には開かれていなかったのに開いたことにして」、分野の変更が承認されたという公文書(議事録)が作成されたというもの。
これは会津大学と同様、れっきとした虚偽の内容の文書であり、虚偽公文書作成罪(刑法156条)が成立する。
しかし、これを指摘された東京大学は、謝罪の記者会見をするどころか、自らの犯罪を「なかったことにして」だんまりを決め込んでいる。
大学で、「実際には開かれていない委員会を開いたことにして、議題が承認された」という虚偽の内容の公文書を作成されたことが判明した時、会津大学は謝罪の記者会見を開いたのに、裁判で訴えられた東京大学は深い沈黙の中にだんまりしたままである。どうしてこんな格差が生じるのか。

それは昨年暮れから騒がれている、早野龍五東京大学名誉教授らの論文不正問題を見れば一目瞭然だ()。東京大学という名前は人々をマインドコントロールする上で、依然、強力な威力を持っており、それゆえ東京大学の信用低下をもたらすスキャンダルは何としてでも阻止しなければならない。そこで、東京大学のスキャンダルのもみ消しに、 政府、裁判所、マスコミ、大学当局らが一丸となって精を出すからだ。
それに比べれば、小物の会津大学の信用低下はたいした問題ではない。それゆえ、会津大学のスキャンダルのもみ消しには応援部隊はほとんどない。彼らは自給自足で解決策を探るしかなく、そこで、トカゲの尻尾切りをして、弱者をいけにえにした謝罪の記者会見を開いて幕引きを図ることになる。

 私たちが真相解明すべきなのは、こうした小物ではなく、政府、裁判所、マスコミらから手厚く守られている巨悪たちのスキャンダルである。それは私たちの命、健康、暮らしに絶大な影響を及ぼすからである。
犯罪を「なかったことにする」巨悪たちのスキャンダルに対して、私たちに残されていること--それは「なかったことにはさせない!」である。
柳田辰雄VS東京大学「学問の自由」侵害裁判はその挑戦の1つである。

 早野龍五東京大学名誉教授らの論文不正問題の詳細は以下を参照。
・【第7話】「なかったことにする」第2弾:「倫理違反も研究不正もなかった」とした東大・医大の調査委員会報告の問題点(1)(調査結果の通知が来るまでのてんまつ【医大編】)(2019.7.21) 
・ 【第8話】「なかったことにする」第2弾:「倫理違反も研究不正もなかった」とした東大・医大の調査委員会報告の問題点(2)(調査結果の通知が来るまでのてんまつ【東大編】)(2019.7.21)
・【第9話】「なかったことにする」第2弾:「倫理違反も研究不正もなかった」とした東大・医大の調査委員会報告の問題点(3)(【医大編】調査委員会の運営の基本原理から逸脱)(2019.7.21) 
・【第10話】「なかったことにする」第2弾:「倫理違反も研究不正もなかった」とした東大・医大の調査委員会報告の問題点(4)(【医大編】二重の基準で実施された事実認定)(2019.7.21) 
・【第11話】「なかったことにする」第2弾:「倫理違反も研究不正もなかった」とした東大・医大の調査委員会報告の問題点(5)(【医大編】倫理違反の事実認定の間違い)(2019.7.22)
・【第12話】「なかったことにする」第2弾:「倫理違反も研究不正もなかった」とした東大・医大の調査委員会報告の問題点(6)(【東大編】「倫理違反は本委員会の範囲外事項」として却下したのは完璧な誤り)(2019.7.22) 
・【第13話】「なかったことにする」第2弾:「倫理違反も研究不正もなかった」とした東大・医大の調査委員会報告の問題点(7)(【東大編】最初からずっと不透明、不公正、無説明だった)(2019.7.23)
・ 【第14話】「なかったことにする」第2弾:「倫理違反も研究不正もなかった」とした東大・医大の調査委員会報告の問題点(8)(【東大編】東大から申立者と被申立者にちがう結果通知が届いた?!)(2019.7.23) 
・【第15話】「なかったことにする」第2弾:「倫理違反も研究不正もなかった」とした東大・医大の調査委員会報告の問題点(まとめ)&記者会見動画(2019.7.23)

2019年9月5日木曜日

【第26話】「被ばくしたら子どもたちは放射能に負けない身体に変身する」ことを前提にしたICRPの新しい勧告草案は撤回すべきである。

                               「俺はあいつらベトコンたちに何の恨みもないんだよ
                              「ベトコンは俺を“ニガー(黒んぼ)”と呼ばない。あいつら
                               には何の恨みも憎しみもないし、殺す理由もない。
                              「俺はベトコンを殺しになんか行きたくない
                                   ベトナム戦争の徴兵を拒否したモハメド・アリ

国際放射線防護委員会(ICRP)という民間の団体がある。このたび、このICRPが日本の福島原発事故の経験を踏まえて、彼らが事故前の2007年に発表した、人々の放射能の安全基準(2007年勧告)を修正する新しい基準(案)を英文で公表し(→そのHP)、一般からのコメントを募集していると言う(→これを紹介したOurplanetの記事)。

日本の福島原発事故の経験を踏まえた新しい基準を、事故の最大の被害者である日本市民に理解、賛同してもらおうと思う気持ちがあれば公表と同時に日本文でも公表するのが当然だ。しかし、今回の公表でICRPにはそんな気持ちはさらさらないことがストレートに伝わった。
「日本市民?お前たちは関係ねえよ」これがICRPの明快なメッセージであり、私は日本市民のひとりとして、ICRPのこの傍若無人な態度に、はらわたが煮えくり返るのを押さえている。

また、ICRPは前回の2007年勧告を修正案についてコメントを求めている。しかし、私は修正案にどうこう言う気には到底なれない。修正案の元になった2007年勧告自体が根本的におかしいと言わざるを得ない誤りを犯しているからだ。
ICRPは1934年に勧告を出して以来、低線量被ばくが人体にもたらす健康被害の危険性を、遅きに失するとはいえ徐々に受け入れ、放射能の安全基準(防護基準)をじわりじわりと厳しくしてきたという長い歴史がある(→ICRPの「安全基準の変遷のグラフ」参照)。
ところが、その安全基準の厳格化への歴史が2007年で、突如くつがえり、安全基準の大幅緩和を導入した。緊急時被ばく状況、現存被曝状況という意味不明の言葉の下に、原発事故で被ばくをするとそれぞれの状況で年間20~100ミリシーベルト、1~20ミリシーベルトに安全基準が引き上げられ、大量被ばくの容認が導入された。それは、ICRPのそれまでの安全基準の厳格化への歴史と完全に切断されていて、クーデータが起きたとしか言いようのない反動的、異様な内容である。それが2007年勧告の正体だ。

これは、放射能の深刻な影響を受けやすい子どもも含めて、人々は原発事故で放射能を浴びると、放射能に負けない丈夫な身体に変身することを前提にしたものだ。しかし、私は、被ばくしたら子どもたちは放射能に負けない身体に変身する、なんて信じない。福島原発事故の後、中央と福島県のお偉いさんたちは自分たちの子ども、孫、家族をただちに避難させたことを絶対忘れない。彼らの行動こそ、正真正銘、放射能の安全基準のバロメーターだ。彼らこそ被ばくしても「子どもたちや大人は放射能に負けない身体に変身しない」ことを人一倍理解し、三十六計逃げるに如かず、ただちに避難行動に出るべきであることを雄弁に証明している。

原発事故で被ばくしても「子どもたちや大人は放射能に負けない身体に変身しない」以上、原発事故後も、少なくともそれまでの放射能の安全基準を維持するのが正しい。すなわち、最低でも、2007年勧告以前にICRPが自ら勧告していた年間1ミリシーベルトを維持するのが正しい安全基準である。

これが福島原発事故の過酷な経験を踏まえた正しい安全基準である。
日本の福島原発事故の経験を踏まえるのであれば、ICRP は、不当な条例改正案を撤回した香港のように、ただちに、2007年勧告の緊急時被ばく状況、現存被曝状況を撤回して、少なくとも、2007年勧告以前の年間1ミリシーベルトに戻すべきである

2019年9月3日火曜日

【第25話】(報告)【山下・鈴木証人尋問1】鈴木眞一氏の証人採否をめぐり、原告と被告国・被告福島県との間で応酬が続く。

 「壊れゆく日本 日本捕囚:」のブログより

鈴木眞一証人

福島地裁で審理中の「子ども脱被ばく裁判」で、本年7月9日、原告から鈴木眞一福島県立医科大学教授の証人尋問を申請したところ(以下の1)、裁判所は「鈴木証人を2回の期日に分けて尋問」を提案し証人採用に前向きの姿勢を示したので、被告国と被告福島県は猛反発。鈴木証人採用の必要がないことを強調する、あるいは裁判所が予定した5つの期日に鈴木氏は手術等の所用のため全て出廷できない旨の意見書を次々と提出(8月20日及び23日。以下の2・3)。

これに対し、原告もそれに対する反論書を提出(8月26日及び28日。以下の4・5)。
昨日(9月2日)、双方の代理人が参加した進行協議の場で、裁判所から原告に
「鈴木証人の尋問事項について、その趣旨、具体的内容を述べた上申書を提出して欲しい。それを見て、証人採否を決める。もし証人と決まったら、出張尋問()等で日程を調整する」旨発言。
両者の応酬の中、鈴木証人を採用するかどうかの決定は次回となりました。

)出張尋問:提訴した裁判所の法廷以外の場所(証人の職場など)で行う証人尋問のこと(民訴法195条)。 

以下、この間、双方から裁判所に提出された書面の一覧。
1、原告の、山下俊一、鈴木眞一両名の立証趣旨と尋問事項を記した上申書(2019.7.9)

2、被告国の鈴木眞一氏の人証申出についての意見書(2019.8.20)

3、被告福島県の鈴木眞一氏の人証申出についての意見書(2019.8.23)

4、原告の「被告国の鈴木眞一氏の人証申出についての意見書」に対する反論(2019.8.26)

5、原告の「被告福島県の鈴木眞一氏の人証申出についての意見書」に対する反論(2019.8.28)

山下俊一証人
 3.11から12日目の記者会見。「僕たちはがんになりません、というのは保証できますか?」という外国人記者の質問に、
  「『絶対安心』ということは誰も言えない。しかし、『安心して下さい』とお願いできる。ここは大事です!」と答える山下俊一氏(映画'A2-B-C'(予告編)から)。

山下俊一 福島県立医科大学副学長・福島県放射線健康リスク管理アドバイザーの証人尋問について、この日、裁判所は被告福島県に対し、
「被告福島県からも山下証人の証人申請をすること、山下証人の陳述書を提出して欲しい」
これに対し、被告福島県は
証人申請は次回期日までに、陳述書の提出はそれよりもう少し時間が欲しい」
旨を回答。

次回期日に、被告福島県からの 山下証人の証人申請を受けて、山下証人の採用が正式に決定。尋問の期日は3月4日に内定。

【参考】
「子ども脱被ばく裁判」の弁護団のページ->こちら
 山下証人の必要性を主張した「山下発言問題」は->こちら
 鈴木証人の必要性を主張した「経過観察問題」は->こちら

【第24話】世界で最も誠実な憲法とは何か。それは、国家の責任を「なかったことにさせない!」と宣言したウクライナ憲法16条である。

世界で最も誠実な憲法とは何か。
それは人類史上未曾有の原発事故を経験したウクライナの憲法16条。
ウクライナの環境を保全し、
 未曾有の災害である
 チェルノブイリ事故への対策に取り組むこと
 ウクライナ民族の子孫を守ること
 これらは国家の義務である
なぜなら、それは原発事故における国家の責任を「なかったことにさせない!」と憲法に刻み込み、宣言したからである。

世界で最も憲法らしい憲法とは何か。
それは、国家に向かって、チェルノブイリ事故からウクライナ人とその子孫の命、健康、暮らしを守れと命令したウクライナ憲法16条。
なぜなら、もともと憲法のエッセンスは、その起源()から明らかな通り、国家に対して、人々の命、健康、暮らしを守れ、人々の自由と人権を侵すなかれと命令するものだからである。
それは放射能災害における国家の義務について、人類普遍の原理を宣言したものである。

世界で最も不誠実な国家とはどこか。
それは、人類史上未曾有の原爆投下を経験した日本、
原爆投下のあと、平和のうちに人々の 命、健康、暮らしができることを国家の責任として命じた憲法9条(それはウクライナ憲法16条に匹敵する)を憲法に刻み込み、宣言した日本、
その悲惨な経験と崇高な国家の義務を宣言しながら、福島原発事故から人々の命、健康、暮らしを守るという国家の責任を「なかったことにする!」、そのために、日夜、刻苦勉励して励んでいる日本である。
この意味で、憲法9条は憲法改正を待つまでもなく、すでに瀕死寸前だ。

それは、原発事故で心身ともに苦しんでいる人たちにとって「理不尽」以外の何物でもない。
それは、人類史上未曾有の原爆投下を経験した国として「理不尽」以外の何物でもない。
「なかったことする」に「理不尽だ」と抵抗し、世界で最も不誠実な国、日本に放射能災害における人類普遍の原理を宣言した ウクライナ憲法16条の木を植え、瀕死寸前の憲法9条を蘇生させること、
それが市民立法「チェルノブイリ法日本版」の実現、
それが311以後の私たちに残されたことである。


)憲法の起源はアメリカ革命やフランス革命で発表された以下の人権宣言にある。

「 政府は人民、国家または社会の利益、保護および安全のために樹立されるものであり、されるべきである。‥‥いかなる政府でもこれらの目的に反するか、または不十分であると認められる場合には、社会の多数の者は、その政府を改良し、改変し、または廃止する権利いわゆる革命権を有する。この権利は、疑う余地のない、人に譲ることのできない、また棄てることもできないものである。」(バージニア権利宣言3条)  

「われわれは、次のような諸原理を自明だと考える。すなわち、すべての人間は生まれながらにして平等であり、すべての人間は神より侵されざるべき権利を与えられている、そうした権利のうちには、生命、自由および幸福の追求が含まれている。
 そして、その権利を確保するために、人々の間に政府が作られる。、政府の正当な諸権力は、被治者の同意に基づくものである。どのような政治政体も、これらの目的を害するようになる場合は、それを変更し、または廃止し、彼らの安全と幸福を実現するためにいちばん適当と考えられるような原理に基礎を置き、また、そういう形式でその権力を組織して新しい政府を作ることは、人民の権利である。以上の諸原理をわれわれは自明のものと考える。」(アメリカ独立宣言)

「すべての政治的結合の目的は、人の、時効によって消滅することのない自然的な諸権利の保全にある。これらの諸権利とは、自由、所有、安全および圧制への抵抗である。」(フランス人権宣言2条)

「圧制への抵抗は、他の人権の帰結である」(1793年6月24日フランス憲法33条)
「政府が人民の権利を侵害するときは、反乱は、人民およびその各部分にとって、もっとも神聖な権利であり、かつ、もっとも不可欠な義務である。」(同35条) 

【第171話】最高裁にツバを吐かず、花を盛った避難者追出し裁判12.18最高裁要請行動&追加提出した上告の補充書と上告人らのメッセージ、ブックレット「わたしたちは見ている」(24.12.20)

1、これまでの経緯 2011年に福島県の強制避難区域外から東京東雲の国家公務員宿舎に避難した自主避難者ーーその人たちは国際法上「国内避難民」と呼ばれるーーに対して、2020年3月、福島県は彼らに提供した宿舎から出て行けと明渡しを求める裁判を起こした。通称、避難者追出し訴訟。 それ...