1、 「行政の不公正・不透明性の原則、説明無責任の原則」
今回の研究不正の調査の目的は、第1に、公務員である2人の研究者の研究不正の疑惑が発覚したのを受け、研究者の所属大学である東大、医大がその真相解明を果し、科学研究に対する失われた信頼を回復することにある。研究不正の調査はそのための行政手続だ。
したがって、 その調査は、行政作用一般の指導的法理である「行政の公正・透明性の原則、説明責任の原則」((塩野宏「行政法Ⅰ」〔第五版補訂版〕85頁)の基本原理に沿って厳格に運用される必要がある。
で、東大、医大の今回の調査は、この「 行政の公正・透明性の原則、説明責任の原則」に沿って適正に運用されただろうか。答えはノー。やったことは、その間逆の原理「行政の不公正・不透明性の原則、説明無責任の原則」に沿って運用された。
2、 先週19日の東大の調査結果の発表
そのことは、先週19日の東大の調査結果の発表のやり方、その中身を見ただけで一発で分かる。
昨年暮れ以後、伊達市民の個人線量データを無断で、しかも研究不正が疑われる論文に使われたことをマスコミは大々的に報道し、多くの国民の注目が集まった。これは東大も医大も十分承知していた。だから、その疑惑を解明する調査結果の報告は、多くの国民の注目にできる限り応えるように、丁寧かつ誠実に行うことが求められていることも十分承知していた。
しかし、彼らが実際にやってのけたことは--今年最大のイベント参議院選挙直前(金曜日)のフィーバーに照準を合わせて、調査結果を申立者に通知し、公表したことである。その結果、選挙直前のドサクサ紛れの中で、多くの国民の目にとまらないまま通知の報告は幕をとじたのである。何という巧みな、素晴らしい、「行政の不公正・不透明性の原則、説明無責任の原則」満載のアイデアなことか!
たくみさの点では天下の東大は群を抜いていて、17日(水)に調査結果が出た旨の通知を申立人代理人宛にメールしてきた脇の甘い医大とちがって、東大は事前に緘口令をしいて、申立人代理人から窓口へ進行状況の問合せしてきても「知らぬ存ぜぬ」を貫き通し、見事、19日(金)午後5時1分前に、結果が出たという通知を申立人にメールするのに成功したのである。
国政選挙以上に市民の命、健康に関わる重大な研究不正の疑惑解明という報告なら、選挙が終ったあとに、会見を開いて、じっくり、丁寧に、国民に対してするのが当然だ。
いまどきは民間ですら、、社員の不祥事で吉本興業の社長は曲がりなりにも記者会見して説明責任を果すご時世である。東大は私たち国民の税金で運営維持される国立大学だ。その天下の東大は職員の研究不正の疑惑に対してなぜ、記者会見して私たち国民に対し説明責任を果そうとしないのか。
この姑息さには憤り、怒りを通り越して、東大はここまで地に堕ちたのかとただ呆れ返るほかなかった(その一部始終のてんまつは->こちら)。
以下は、昨年12月の申立から先週金曜のドタバタ結果公表に至るまでのこの間、東大の「行政の不公正・不透明性の原則、説明無責任の原則」の記録です。
3、本格調査開始から終了までの間、調査のやり方をめぐるやり取り
(1)、本格調査の調査委員会の委員に対する異議申立の方法
東大の規則では、申立を受理したあと本格調査を開始するかどうかを判断するため予備調査を行い、不正行為の疑いがあると判断する場合には、本格調査に入る。
本件では2月4日に、東大から、本格調査を開始する旨の通知が届いた。それによると、1月21日の委員会で予備調査の結果を審議し本格調査を開始することを決定したとなっていた。21日に決定しながら、申立者にその通知が届いたのは2週間もあとの2月4日だった。
また、この通知には、 本格調査を行う本格調査本格調査調査委員会の委員の情報と委員の選任に異議がある場合、7日以内に異議申立ができる旨の記載があった。
ところで、この異議申立のやり方について代理人から次の質問をしたところ、
異議申立ての方法については、
貴大学のヒナ型の異議申立書に所定事項を記入し、申立書代理人の署名捺印をした上で、それをスキャンしたPDFを、2月12日中にメールにて送信する方法で、問題ないでしょうか。
万が一これが不可でしたら、どういう方法で申し立てをすればよいか、ご指示ください。
以下の回答があった。
東京大学科学研究行動規範規則第9条5項に基づく異議申立てをする場合は、
本日中に当課より送信した様式で、申立者本人より提出頂くことになりますので
ご高察くださるようお願いします。
しかし、なぜ「
申立者本人より」に限定されるのか、「提出」の方法が「メール」でも可なのか郵送なのか依然不明であり、そこで、次の再質問に及んだ。
‥‥その内容には殆ど社会的常識の理解を超える意味不明なことが書かれており、場合によっては手続不正といった社会問題にもなり得ますので、次の再質問について、至急、回答いただきたいと思います。
以下の民事訴訟法などの法律は特段の理由がない限り、すべてそうですが、当事者の権利として定めてあって、代理人でもできるなどとは規定しません。代理人の制度を認める以上、代理人でもできるなどといちいち書く必要がないからです。
(裁判官の忌避)
第二十四条 裁判官について裁判の公正を妨げるべき事情があるときは、当事者は、その裁判官を忌避することができる。
そこで、以下の質問です。
1、今回の貴大学の規則について、貴大学では、上記の解釈と異なる独自の解釈をするというのであれば、その根拠を示してください。
2、貴大学の解釈によれば、申立人者が北海道や沖縄の人で、代理人が東京在住であっても、今回の異議申立ては、北海道や沖縄に住む申立者しかできないということになるのですね。
3、以下の「申立者本人より提出頂く」の「提出」の意味は、具体的にどういう意味ですか。貴大学のヒナ型の異議申立書に所定事項を記入し、署名捺印をした上で、それをスキャンしたPDFを、本日中にメールにて送信する方法で足りるのかどうか。
4、3について、もしそれでは足りないのであれば、どういう方法を取ればよいのか。
以上、時間が迫っておりますので、速やかなご回答をよろしくお願いします。
そしたら、ようやく以下のまともな回答が届いて一件落着、締め切り日(2月12日)の午後、異議申立を出すことができた。
説明不足があったかもしれませんが、提出が代理人であったとしても、
受付はいたします。
異議申立書の提出にあたっては、所定事項が記載されていれば、メール
による送信で差支えございません。
今どき、たかだか異議申立のやり方ひとつで、こんなに苦労させられるなんて、独裁国家じゃあるまいし、勘弁してよ。
(2)、異議申立に対する東大の通知(却下と警告)
ア、警告
しかし、もっとビックリしたのは、それから1週間後、東大から、委員に対する異議申立を却下する旨の通知が届いた際、そこに、次の警告文が書かれていたことである。
ここで何を警告しているのかというと、最初の2行が、
昨年12月27日、文科省でやった「研究不正に関する申立て受理に関する記者会見」で申立者代理人が以下の資料を配布し、東大に無断で、「研究不正の申立が19日に受理された」と解説したのはケシカランと。
2つ目は、2行目後半から最後までで、
本格調査開始の通知に書かれていた、調査委員会の委員のうち2名は放射線審議会委員およびNPO法人放射線安全フォーラム理事であり、「不公正な調査の恐れがある」と異議申立したことを、以下の通り、報道機関に発表したのはケシカランと。
東大は、申立人らは「秘密」を守らなかったという。しかし、「秘密」って何ですか。研究不正の調査において、「秘密」って何ですか。、もし第1に守るべき「秘密」があるとしたら、それは告発をした申立者です。彼らこそ、様々な力やコネクションを持つ研究者の研究不正を暴くために、勇気を奮って告発したのだから、その立場が脅かされないように十分に守る必要がある。しかし、本件ではこの守られるべき最大の「秘密」=申立者の情報が、守るべき実際には守られなかった(その詳細は改めて)。
そして、これ以外の「秘密」について、公表された論文の研究に関し、基本的に、知的財産権の問題は別としてもそれ以外に、どのような守られるべき正当な利益があるのだろうか。むしろ、研究不正が及ぼす社会的な影響力をかんがみれば(本件はまさしく市民の命、健康に関わる重大な影響を及ぼす研究だった)、研究不正の適正な真相解明に関する情報は可能な限りあまねく公開すべきである。それが行政手続の大原則「行政の公正・透明性の原則、説明責任の原則」に合致する。
イ、却下
のみならず、申立者の異議申立を却下する決定に書かれた理由についても、全く納得がいかなかった。
(3)、異議申立却下の決定に対する質問書
そこで、まず、却下の理由に対する不服申立の意味を込めて、2月27日、科学研究行動規範委員会宛に異議申立却下の決定に対する以下の4点の質問書を送った。
質問1.
(1)、忌避(異議申立て)の理由の一般論として、別紙異議申立書1~2頁アンダーライン部分で示した通り、裁判官の忌避の理由と同様に考える解釈が適切ではないか。
(2)、この解釈が適切ではないとしたらその理由は何か。
質問2.
(1)、忌避(異議申立て)の理由の具体論(田野井慶太郎氏)として、別紙異議申立書2~3頁で詳述した通り、田野井氏がNPO法人放射線安全フォーラムの理事である事実が「構成員について調査の公正を妨げるべき事情があるとき」の判断に重大な影響を及ぼすという解釈が適切ではないか。
(2)、この解釈が適切ではないとしたらその理由は何か。
質問3.
(1)、忌避(異議申立て)の理由の具体論(上蓑義明氏)として、別紙異議申立書3~4頁で詳述した通り、上蓑氏が放射線審議会の委員である事実が「構成員について調査の公正を妨げるべき事情があるとき」の判断に重大な影響を及ぼすという解釈が適切ではないか。
(2)、この解釈が適切ではないとしたらその理由は何か。
質問4.
(1)、本通知の1頁末尾のなお書きにおいて、調査委員会の調査は「不正行為」の認定を目的として開始するものではないと書かれている。しかし、以下の東京大学科学研究行動規範委員会規則(以下「本規則」という)11条において、委員会は「不正行為」の有無を認定すると定めており(アンダーライン部分)、その認定のために調査委員会の本調査が開始されるのである。それゆえ、本通知のなお書きは本規則11条と矛盾するのではないか。
(2)、矛盾しないとしたらそれはいかなる理由によるものか。
第11条 委員会は、第10条の調査等を開始した日から原則として150日以内に、調査委員会の調査結果(部局調査が行われた場合はその結果を含む。)に基づき、不正行為の認定の有無、不正行為が認定された場合はその内容、不正行為に関与した研究者とその関与の度合、不正行為が認定された研究に係る論文等の各著者の当該論文等及び当該研究における役割その他必要な事項について審理し、裁定を行う。
しかし、これに対しては、3月6日、東大から以下の厳かな返信が送られてきた。
2019年2月27日付け貴殿代理人弁護士から「通知に対する質問書」が
メール送信されましたが、平成30年12月19日付けの申立書を受理した
旨の連絡、平成31年2月6日付け本調査開始決定の通知、及び平成31年
2月20日付け調査委員会の構成員に対する異議申立についての通知は、
文部科学省の「研究活動における不正行為への対応等に関するガイドライン
(平成26年8月26日文部科学大臣決定)」を基に、本学が定めた「東京
大学科学研究行動規範委員会規則(平成18年3月17日東大規則第79号)」
に準拠して発出したものです。
貴殿(貴殿代理人弁護士)からのご質問等には、お答えいたしかねます。
いろいろ述べているが、回答は最後の1行、要するに、「答えられない」と。
説明責任を果そうという姿勢が皆無であることをまざまざと見せつけた瞬間だった。
(4)、東大本部(総長)に対する「コンプライアンス、説明責任等」違反の是正を求める申入れ このケンモホロロの姿勢を鮮明にした科学研究行動規範委員会を相手にしてもらちがあかないと判断、そこで、その上部組織の東大本部(総長)に対し、科学研究行動規範委員会が「コンプライアンス(法令順守)違反、説明責任違反等をしているから、是正していただきたいと以下の申入れをし、なおかつ以下の通り、報道機関にこの申入れを発表した。
2018年12月19日東京大学科学研究行動規範委員会受理
申立者 (略)
被申立者 早野龍五教授(現名誉教授)
科学研究行動規範委員会の「コンプライアンス、説明責任等」違反の
是正を求める申入れ
2019年3月11日
国立大学法人東京大学
代表者総長 五神 真 御中
申立者代理人 弁護士 柳原敏夫
貴大学の科学研究行動規範委員会(以下、本委員会という)が受理し審査中の頭書申立事件について、今回、下記のとおり、本委員会の「コンプライアンス、説明責任等」違反があるので、その是正を求める申入れをします。
記
1、事実経過
‥‥
2、なぜ本委員会は機能不全に陥っていると判断したか
‥‥
3、5点の申入れ
‥‥
4、結語
‥‥
(5)、東大本部の応答=黙殺 その理不尽さ
この説明責任違反の是正を求める申入れに対し、東大本部は黙殺、説明しないという説明無責任で応答した。なぜこれが黙殺かと言うと、このあと本格調査が開始され、被申立者(早野龍五氏)らを呼び、聞き取り調査を実施したが、この4ヶ月以上の間、申立者側には一度の連絡もなく、申立者もその協力者の黒川真一氏にも聞き取り調査に参加する機会はついに一度も与えられないまま、調査が終了した。本格調査の中で何が論じられ、何が問題になっているのか、一般国民はもちろんのこと、申立者も全く蚊帳の外に置かれ、秘密会として、不透明性の向上に励んだ様子がありありで、公正の確保を伺わせるものは完璧に何一つなかった。
しかし、いかにいかがわしい調査をしていたかは、被申立者(早野龍五氏)自身が教えてくれた。
7月19日午後5時、東大の調査結果が公表されるや、被申立者(早野龍五氏)はツイッターで、自分の論文の誤りを認めた1月8日見解は誤りだから撤回すると発信した(※)からである。もしこれが事実なら、これは大問題である。本格調査でも早野氏のこの撤回は大論議になったはずである。であれば、この1月8日見解の撤回をめぐって、宮崎早野論文を正面から批判する黒川真一氏を真っ先に呼び、その見解を聞き取り調査すべきだった。なのに、これを全くしなかった。しないまま、1月8日見解を撤回した被申立者(早野龍五氏)の陳述を理由も示さずに、そのまま鵜呑みにした。「否定の否定は肯定だ」みたいなバカなロジックを採用したがごとく、真面目な調査をする気が全くないことがありあり。
この1点だけでも、東大の調査委員会が「行政の不公正・不透明性の原則、説明無責任の原則」に沿って運用されたことを証明して余りある。、
(※)早野氏のツイッター
以上の「行政の不公正・不透明性の原則、説明無責任の原則」の総仕上げが、参議院選挙直前の19日金曜日5時の調査結果の公表であった。この令和無責任時代の象徴のようなてんまつは2で述べた通り。 その詳細は
->こちらを参照。