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2020年11月2日月曜日

【第52話】311後の私たちは今どこにいるのか、どこに向かうのか(2)「歴史の激動期の4つの段階」(第1稿)(2020.11.2)

歴史のダイナミズム・ジレンマと激動期の4つの段階
歴史を学生時代のように、クソ暗記の学問と考えている限り、歴史のリアルな姿は見えてこない(韓国の歴史ドラマのほうがずっとましだ)。ひとたび、歴史を様々な利害関係に立つ人々の押し合い、へし合いのダイナミックな運動と考えると、そこから、歴史のリアルな姿が見えてくることを知った。
歴史をダイナミズムそして相異なる立場同士の衝突・葛藤・ジレンマの中でとらえるという見方である。
この立場から、イギリスの歴史家(クレーン・プリントン「革命の解剖」)が、フランス革命とロシア革命の歴史を検討する中で、歴史の激動期・大変動期はだいたい次の4つの段階を経ると指摘しているのを丸山真男話文集4から知った。(そのダイナミズムのイメージを雑駁な図で示すと、右の矢印の通り) 

1、貴族の改革・反抗(上からの改革)   
2、大衆の急進的な変革・反抗       ---->
3、支配者の反動               <----
4、激動(2の変革)の再定義        -→  

フランス革命とロシア革命の4つの段階
これによると、きわめて大雑把だが、1789年のフランス革命は次の4段階のプロセスを経る。

 

段階

内容

貴族の改革

深刻な財政危機を、ネッケルら貴族が上から改革を試みる。

大衆の変革

バスティーユ襲撃以後、改革の担い手は、裕福な商工業者(ジロンド派)へ、さらに一般大衆(ジャコバン派)へ。急進的から恐怖政治へ。

支配者の反動

5年後のテルミドールの反動、ジャコバン派の粛清・排除。その後、ナポレオンのクーデタ、ブルボン王朝の復活と反動が続く。

激動の再定義

1848年の二月革命で共和制復活。1852年のルイ・ナポレオンのクーデタで帝政復活。普仏戦争後、1870年に第3共和制復活と行きつ戻りつ。ここまで来て「フランス革命が再定義」され、君主制否定、共和制が最終確立。


1917年のロシア革命は次の4段階のプロセスを経る。

 


段階

内容


貴族の改革(と挫折)

1904年の血の日曜日事件のあと、首相ストルイピンが上からの改革に取り組む(のちに暗殺)。


大衆の変革

第一次世界大戦の激動の中、1917年、ロマノフ王朝崩壊。政権の担い手は資本家の代弁者らへ(2月革命)。さらに労働者農民ら一般大衆へ(10月革命)。


支配者の反動

1929年、スターリンの富農の粛清を皮切りに、反対派の粛清が続く。


激動の再定義

1956年、首相フルシチョフによるスターリン批判で、「ロシア革命の再定義」の初めての試み。

 近代中国の辛亥革命
近代中国の辛亥革命次の4段階のプロセスを経る。

 

段階

内容

貴族の改革(と挫折)

アヘン戦争敗北後、読書人(貴族)による清朝内部の改革(変法自強運動)と西太后・保守派による処刑・追放。

大衆の変革

1912年、各地の蜂起により清朝崩壊。孫文を臨時大総統とする中華民国が成立。国会議員選挙で孫文の国民党が過半数を制する。

支配者の反動

1913年、軍人の袁世凱、国民党指導者を暗殺、議会を解散。1915年、共和制を廃止、帝政を復活。

激動の再定義

1915年、陳独秀、孫文らによる「民主主義と科学」をスローガンとする雑誌「新青年」を発行、その影響を受けた若者らによる1919年の五・四運動の発生。「中国革命の再定義」「中国民主化の再定義」が始まる。


日本の第二の開国と第三の開国
丸山真男は、日本が欧米との関係で「開国」した経験はこれまで3つあると言う。第一の開国が16世紀に南蛮人が渡来したとき。第二が幕末の黒船来航の時。第三が第二次大戦の日本敗戦の時。

このうち、第二の開国である1853年のペリーの黒船来航から明治維新までの激動期は、次の4段階のプロセスを経る。

 

段階

内容

貴族の改革

幕末に、有力藩主による幕藩体制の改革(公武合体論)。

大衆の変革

幕府の権威失墜の中で大政奉還(崩壊)。内戦(戊辰戦争)を経て、明治4年の廃藩置県で政権の担い手は大名から木戸、大久保ら急進派下級武士へ。

支配者の反動

明治6年征韓論クーデタで進歩派の江藤新平下野。明治14年のクーデタ、政府進歩派の大隈派、慶応義塾派を全て追放。

激動の再定義

「明治維新の再定義」をスローガンに掲げる自由民権運動の高揚により明治22年、東アジア発の立憲政治(明治憲法制定)がスタート。

第三の開国である第二次大戦の日本敗戦のあとの戦後民主主義の激動期は、次の4段階のプロセスを経る。

 

段階

内容

貴族の改革(と挫折)

ポツダム宣言受諾後、近衛らが「天皇主権」を前提にした国体・旧憲法の改革(人民主権を求めるGHQ「天皇主権」を否定)

大衆の変革

軍国主義者らの追放、治安維持法の廃止、農地改革、人民主権の憲法制定、社会党政権の誕生。民主化の春到来。

支配者の反動

5年後にGHQの反動で、再軍備スタート。共産党員の追放(「追放」をめぐるあべこべの事態出現)、憲法改正論議。民主化の春の終焉。

激動の再定義

15年後の六十年安保で、「戦後民主主義の再定義」が始まる。

 
日本の第四の開国「日本史上、最悪、最大の人災である福島原発事故」
福島原発事故は、戦争を除いて、日本史上未曾有の、最悪の人災である。これが大事件、激動であることは誰にも異論がない。また、それまで太平の世に眠りこけていた人々が黒船の出現で思い切り動揺し、途方に暮れた第二の開国のように、それまで安全神話の中で眠りこけいていた人々は福島原発事故の出現で思い切り動揺し、途方に暮れた。その意味で、これは第四の開国と言うことができる。
そこで、第四の開国である福島原発事故の激動期も、以上の歴史の激動期・大変動期の4つの段階を当てはめると、次の4段階を経ると言うことができるのではないか。

 

段階

内容

貴族の改革(と挫折)

2011年5月、首相菅直人の濱岡原発の運転中止要請、7月の事実上の「脱原発」宣言。その後、「菅おろし」へ。

大衆の変革

2011年9月19日、明治公園の「さようなら原発」集会に6万人参加。2012年、官邸前金曜デモの盛り上がり。デモ初参加、運動未経験者の参加。

支配者の反動

民主党惨敗後に登場した安倍政権、201311月の秘密保護法の成立、20147月、集団的自衛権の行使容認の閣議決定、20159月、安保関連法の成立、20176月、共謀罪の成立。戦争への体制作りの完成へ。

激動の再定義

「福島原発事故と救済(復興)の再定義」が始まる。それは同時に、未完の市民革命である「戦後民主主義の再定義」の継続であり、同じく未完の市民革命である「明治維新の再定義」の継続である。

 

しめくくり
このような激動期の歴史4つの段階というダイナミズムを手がかりに見えてくることがある。それは、

1、311後の私たちは今どこにいるのかについて、
私たちは今、第二段階の2011~2012年の大衆の変革の運動に対し、第三段階の2013年から「福島原発事故は終わった」かのような反動の大波が続いていて、その波の中から、再び、第四段階の「福島原発事故とは何だったのか」「その救済(復興)とは何か」について再定義しようとしている。

2、311後の私たちはどこに向かうのかについて、
日本史上未曾有の人災である福島原発事故で誰も罰せられていない、何ひとつ解決していないという異常な現実を直視し、この異常事態を正すこと。
そこで、「福島原発事故と救済(復興)の再定義」に必要な取り組みをすすめること。
それは、改めて、個人の尊厳、基本的人権、民主主義を再定義し、再発見することでもある。

その意味で、チェルノブイリ法日本版の市民立法の運動は、福島原発事故と救済(復興)を再定義することそのものである。
もし私たちがこの運動に困難や課題を感じているとしたら、それは、
ひとつには、私たちが311後の激動期の第三段階の「反動期」から第四段階の「激動の再定義」との過渡期にいるからである。

のみならず、私たちの市民社会が、1945年に始まり未完にとどまっている「戦後民主主義の再定義」の運動の中にいるからである。

そればかりか、150年以上前に始まり未完の市民革命「明治維新の再定義」の運動の中にいるからである。

その未完の市民革命のために、私たち市民の中に、個人の尊厳も、基本的人権も、民主主義もまだ深く根を降ろすに至っていないため、依然、獏とした、宙をつかむようなものにとどまっていて、例えば「避難の権利」ひとつとっても、それが、私たちにとってどれほどの価値があるもので、無くてはならないものであるかを頭ではなく、身体で全身全霊で実感できずにいる。

これを全身全霊で実感できるようになるためには、(私自身にとっても)地道な意識改革が必要である。
そして、この意識改革に果敢に取り組んだ市民運動の輝かしい実例が、今から1世紀前、中国で、辛亥革命の反動期に30代の陳独秀、孫文らが行った「民主主義と科学」をスローガンに掲げた「新青年」の発刊(1915年)、五・四運動(1919年)である。

私は、「新青年」の運動を始めた当時の陳独秀、孫文のように若くないが、彼らの精神・志を継続する積りで、今から「新老年」=「新『新青年』」の運動をやりたい、これをやらない限り、「民主主義と科学」に基づくチェルノブイリ法日本版の市民立法もあり得ないと確信するからだ。


 

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