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2026年2月28日土曜日

【第181話】子ども脱被ばく裁判の振り返り(1):日本の法学界が世界の良識=国際人権と最も緊張を保った絶頂の時代は百年前だった(26.2.28)

 今日、子ども脱被ばく裁判と「国際人権」との関係について、振り返りの文を書いた。
最初、個別の国際人権法の内容(自己決定権・健康への権利)について書こうと思ったけれど、検討していくうちに、もっと重大な内容を見落としていたことに気がついたので、それを書いた。それは、百年前、大正14年頃に絶頂を迎えた日本の法学界がその後、内向きの閉ざされた歴史を辿り、それが311以後の人権侵害のゴミ屋敷の日本社会の出現と深く関わっていることを示すものだった。
その検討の中で気がついたことがほかにもあったので、いくつかに分けてアップする(その(2)>こちら)。

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 What time is it ?――311後のゴミ屋敷を人権屋敷に再建するキーワード「国際人権」――

1、はじめに

この質問はチャップリンの映画「独裁者」の冒頭に出てくるセリフです。戦場で、兵士チャップリンが上官と雲の中を飛行中、いつの間に飛行機は宙返りとなり、この質問に彼が懐から懐中時計を取り出すと時計の鎖がとび上がってビックリするシーンです。そのシーンが示す通り、答えはあべこべの時代です。このあべこべが現代でも続いている。しかも現代はそのあべこべが前例のないくらい極端なまでに進んだ時代です。なぜなら、現代は311後=原発事故後の社会だからです。原発事故とは何か。それは人類が推し進めてきた科学技術の最先端で登場した、最先端の科学技術がもたらした最先端のカタストロフィー(大惨事)だった。つまり、原発事故は私たちの科学技術の栄華の成れの果ての姿です。その結果、311後の日本社会は原発事故の救済を全面的にネグレクト(放置)する人権侵害のゴミ屋敷となった。そこでは、原発事故を起こした加害者たちは救済者のつらをして、命の「復興」は言わず、「経済復興」と叫んで堂々と開き直り、命に危険にさらされた被害者は「助けて」という声すら上げられず、上げようものなら経済「復興」の妨害者として迫害される、あたかも密猟者が狩場の番人を、盗人が警察官を演じている。安全を振りまくニセ科学が科学とされ、危険を警鐘する科学がニセ科学扱いされる、狂気が正気とされ、正気が狂気扱いされるというあべこべが出現したからです。このあべこべをただすこと、それが311後の最大の法律問題となりました。それに挑戦したのがこの裁判です。その際のキーワードは世界の良識=国際人権でした。なぜなら、311後の日本は「世界の常識が日本の非常識、日本の常識が世界の非常識」の社会であり、日本社会のあべこべをただす力は世界の常識の中にしかないからです。但し、この意味は国内に引きこもる限り分からない。国外にさらされてみて初めて見えてくる。以下、国外に立ってみて見えてきたことを記したものです。

2、日本が世界の良識=国際人権と最も緊張関係を保った時代

それは大正14年(1925年)頃です。この年、民法の不法行為で従来の解釈を根底から覆す画期的な判決が出た。それが大学湯事件大審院判決で、不法行為が成立するのは民法に書かれた「権利」の侵害に限らない、「法律上保護される利益」も含まれると言い、社会生活の現実を踏まえて法律を再構成する態度に出たからです。この判決は当時、世界を席巻していた、法律を形式的、論理的に解釈すれば足りるとする従来の支配的な見解「概念法学」を根底から否定し、法律は何よりも第1に現実の社会生活に奉仕する「生きた法」でなくてはならないという「自由法論」=国際人権に深く影響を受けて書かれた判決でした。このあと、末川博、末弘厳太郎(彼については>こちら)らが法学界を「自由法論」で塗り替えていった。つまり、大正期から戦中の末川らが弾圧されるまでの間が、日本が世界の良識=国際人権と最も緊張関係を保った時代でした。しかしその後、敗戦後の復興期を通じても、日本は世界の良識=国際人権から距離を置き、国内に引きこもる閉じた国となったのです。

3、再び、世界の良識=国際人権との緊張関係が問われた時代

しかし、福島原発事故は21世紀の黒船として閉じた国=日本社会を震撼しました。日本の法体系は原発事故を想定しておらず、備えがなかったからです。つまり原発事故の救済について、日本の法体系は法の穴(法律用語で欠缺〔けんけつ〕)状態にあった。最初、それに最もうろたえたのは日本政府でした。福島県の子どもたちの集団避難が現実の問題となっていたからです。彼らはそれを阻止するために日本の法体系を血眼になって探したけれど、原災法も含めて使える法律が見つからなかった。そこで、苦肉の策として世界に出るしかなく、ICRPのお見舞い勧告を使って、文科省の20mSv通知を出した。この時、日本政府は、日本の法体系が「法の穴」状態にあり、その穴埋めを彼らが望む国際ルールとの関係の中でするほかないことを強烈に意識したのです。その次に、この難問に直面したのが文科省の20mSv通知に抵抗して、福島県の子どもたちの集団避難を求めた「ふくしま集団疎開裁判」でした。原告らもまた、日本政府と同様、日本の法体系の中に「彼らの集団避難」を裏付ける法律を見つけることが出来なかったからです。避難の権利を明文化したチェルノブイリ法があったけれども、条約ではないため、裁判の規範として使えなかった。3番目にこの難問に直面したのがこの裁判でした。ここでもまた、原告らは日本の法体系の中に「福島県の子どもたちが被ばくしないで教育を受けること」を裏付ける法律を見つけることが出来なかった。そこで手探りの中、無意識のうちに復活したのが社会生活の現実を踏まえて「生きた法」を発見するという百年前の「自由法論」だった。つまり、低線量内部被ばくの放射能による健康被害という現実を踏まえて、「生きた法」を再構成していったら、原告らの主張が認められるのは当然であるという論法でした。同時に、「法の穴」を埋める具体的な法理として、民間団体のICRPのお見舞い勧告ではなく、法律の上位規範である国際人権法として自己決定権と健康への権利が用いられるべきであったことは「法の欠缺――法律の危機――」で述べた通りです。

 

 

2026年1月30日金曜日

【第180話】三浦少数意見その可能性の中心(3):内掘決定の違法性と建物明渡請求の可否についての具体的内容(2026.1.30)

 【第179話】で、避難者追出し裁判1​.​9最高裁判決を主に「形式」面から分析した。これは、三浦少数意見を「内容」面から分析したもの。
なお、多数意見を「内容」面から分析したのは>【第177話】・オンライン署名

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※ 内掘福島県知事が2015年6月に、区域外避難者に対する仮設住宅提供を2017年3月末をもって打切るとした決定を以下では本件県知事決定という。

以下、この本件県知事決定が違法であるか否か(以下の第1)、もし違法である場合に、それが被告(上告人)の仮設住宅からの退去を求める明渡請求権にどのような影響を及ぼすか(以下の第2、第3)について、三浦少数意見を紹介したもの(少数意見のPDF>こちら)。

第1、本件県知事決定の違法性について

(上告人の主張)

1、最高裁における裁量判断の司法審査の方式

最高裁における裁量判断の司法審査は最高裁平成18年2月7日学校施設使用許可国賠事件判決以降、「判断過程審査」方式が積み重ねられ、近時はこれが通例となり定着している。「判断過程審査」方式は行政庁の判断過程において、本来考慮に容れるべき要考慮事項を考慮したか、本来考慮に容れるべきでない考慮禁止事項を考慮に容れなかったか(他事考慮)、重視すべきでない考慮要素を重視し(過大評価)、当然考慮すべき事項を十分考慮しない(過小評価)などの吟味により裁量判断の方法ないしその過程に誤りがあるかどうかを審査するものである。

2、考慮事項の具体化(その1:方法論一般)

最初の問題は、特定の案件の裁量判断に際し、何を手がかりにどのようにして考慮事項を導くか、という方法論の問題である。
 もとより、法令が考慮事項を明らかにしている場合[1]にはそれに従うのは当然であるが、法令がこれを明らかにしていない場合であっても、法令の解釈により[2]、或いは行政処分の性質とりわけ当該行政処分により影響を受ける当事者・関係者の権利・利益の性質から[3]導き出されるものであることは判例、学説がつとに指摘する通りである。

3、考慮事項の具体化(その2:類型化一般)

 次の問題は、上記2の方法論に基づいて、特定の案件の裁量判断に際し、いかなる項目を考慮事項として類型化するかである。
 判断過程審査を行なった判例(とくにここでは塩野宏や宇賀克也らがリーディングケースとして紹介する[4]日光太郎杉東京高裁判決)に基づいて類型化を試みると、少なくとも以下の項目を考慮事項として取り上げることができる。
①.
特定の行政処分の目的及びその必要性について
(1)
、上記目的及びその必要性は何か
(2)
、上記目的及びその必要性はどのように評価されるべきか。
  具体例として、特定の必要性が考慮禁止事項に該当しないか。
②.上記行政処分により得られる利益(権利・法益など)について
 (1)
、上記利益は何か
 (2)
、上記利益はどのように評価されるべきか。
③.上記行政処分によって失われる利益(権利・法益など)について
 (1)
、上記利益は何か
 (2)
、上記利益はどのように評価されるべきか。
④.上記行政処分により得られる利益がそれによって失われる利益に優越するか。
すなわち、上記行政処分の上記①の必要性は当該行政処分によって失われる上記④の利益を犠牲にしてもなお実施しなければならないほどの必要性と言い得るものか。
⑤.代替措置の検討について
(1)
、上記行政処分以外で、上記①の目的・必要性を満たし、なおかつ上記③の利益の喪失を回避する代替的手段・方法とは何か。
(2)
、上記(1)の代替的手段・方法はどのように評価されるべきか。
 上記①の必要性及び上記③の利益からみて、上記行政処分は上記(1)の代替的手段・方法と比較してどのように評価(例えばLRAの代替的手段が存在するか。上記①の必要性は上記行政処分以外の代替的手段・方法では充足されないか)されるべきか。
⑥.考慮事項の総合判断について
 (1).本来考慮に容れるべき要考慮事項を考慮したか。とりわけ代替的手段・方法の吟味検討
 (2)
.本来考慮に容れるべきでない考慮禁止事項を考慮に容れなかったか(他事考慮)。
   (3)
.要考慮事項について軽視せず、当然尽すべき考慮を尽したか(過小評価)
 (4)
.本来過大に評価すべきでない事項を過重に評価しなかったか(過大評価)
   (5)
、その結果、上記行政処分の判断が左右されなかったか。

4、考慮事項の具体化(その3:本件)

 次の問題は、上記3の6個の類型化に基づいて、本件県知事決定の裁量判断に際し、いかなる項目を考慮事項とするかである。本件に即して、さしあたり次のように考えることができる。
①.本件県知事決定の目的及びその必要性について
 (1)
、上記目的及びその必要性は何か
 (2)
、上記目的及びその必要性はどのように評価されるべきか。
   具体例として、必要性が考慮禁止事項に該当しないか。
②.本件県知事決定により得られる利益(権利・法益など)について
  (1)
、上記利益は何か
  (2)
、上記利益はどのように評価されるべきか。
③.本件県知事決定によって失われる利益=延長して居住する必要性(自主避難者の居住権、生活再建権、「帰還による被ばくの健康影響」の回避など)について
  (1)
、上記利益は何か
  (2)
、上記利益はどのように評価されるべきか。
④.本件県知事決定により得られる利益がそれによって失われる利益に優越するか。
  すなわち、本件県知事決定の上記①の必要性は本件県知事決定によって失われる上記④の利益を犠牲にしてもなお実施しなければならないほどの必要性と言い得るものか。
⑤.代替措置の検討について
  (1)
、本件県知事決定以外で、上記①の目的・必要性を満たし、なおかつ上記③の利益の喪失を回避する代替的手段・方法とは何か。
  (2)
、上記(1)の代替的手段・方法はどのように評価されるべきか。
 上記①の必要性及び上記③の利益からみて、本件県知事決定は上記(1)の代替的手段・方法と比較してどのように評価(例えばLRA[5]の代替的手段が存在するか。上記①の必要性は本件県知事決定以外の代替的手段・方法では充足されないか)されるべきか。
⑥.考慮事項の総合判断について
  (1).本来考慮に容れるべき要考慮事項を考慮したか。とりわけ代替的手段・方法の吟味検討
  (2)
.本来考慮に容れるべきでない考慮禁止事項を考慮に容れなかったか(他事考慮)。   
 (3)
.要考慮事項について軽視せず、当然尽すべき考慮を尽したか(過小評価)
 (4)
.本来過大に評価すべきでない事項を過重に評価しなかったか(過大評価)
 (5)
、その結果、本件県知事決定の判断が左右されなかったか。

とりわけ本件では行政手続の適正さという観点からも
判断過程の各局面ごとの過誤がさらに問題となる。
すなわち、福島県知事は、区域外避難者の命、健康、暮しに重大な影響を及ぼす「応急仮設住宅の供与の打切り」を決定するに当たっては、事前に、当事者である区域外避難者からヒアリングをして、彼等の実情、要望、今後の見通しについて十分な調査を踏まえた上で行うのが、本来の適正手続きのあり方であった。しかし、福島県知事はこうした適正手続きを一切実行しなかった。(理由書(1)63~65頁)
(4)、避難者住まいの権利裁判(関連訴訟と略)の2025年10月20日の進行協議において、関連訴訟原告らが主張した「県知事決定にあたって県知事が考慮すべき事項として以下の8つの考慮事項の具体的な事実がある」に東京地方裁判所が注目し、関連訴訟被告(福島県)に対しその認否を求めた。
①.区域外避難者の避難先での生活再建の現状と今後の見通しについて、当事者の区域外避難者からヒアリングした情報            
②.もし仮設住宅の提供打切りを決定した場合、それが区域外避難者の生活再建にどのような悪影響を及ぼすのかについて、当事者の区域外避難者からヒアリングした情報
③.仮設住宅の提供打切りを決定する場合、代替住居の提供についてのどのような検討(当事者の区域外避難者からヒアリングも含めて)をおこなったのか
④.そもそも国家公務員宿舎から区域外避難者を退去させる必要があったのか
⑤.どのような目的のために区域外避難者の退去が必要とされたのか
⑥.退去の必要性が認められるとしても、その必要性と区域外避難者が国家公務員宿舎に居住し続ける必要性との比較衡量が不可欠であるので、この比較衡量のための調整手段・方法(例えば、県外に復興公営住宅を建設する)について、どのような調査・検討(当事者の区域外避難者からヒアリングも含めて)を行なったのか‥‥(以下、中略)
すると、翌11月12日の弁論期日で、福島県はこれに対しすべて争う旨の答弁をした上で、かつて裁判所の釈明に応えて主張した以下の3つの考慮要素さえ考慮すれば足りることを重ねて主張した。
①.国との協議状況
②.災害公営住宅の整備状況
③.除染作業の進捗状況

 しかし、一方で、関連訴訟原告らが主張する上記の8つの事項は申立人らをはじめ県外に避難した区域外避難者にとって、いずれも生存の存亡にも関わる切実な問題に関するものばかりであり、従って、仮設住宅の提供打切りの県知事決定に当たっては、打切りにより仮設住宅から退去を余儀なくされる申立人ら区域外避難者の人権が侵害されることがないように十分な考慮が求められるのが当然であり、その意味で、これら8つの事項は県知事が真摯に吟味検討すべき考慮事項であることは当然と思われたところ、関連訴訟被告(福島県)は考慮事項であることを否認し、真っ向から対立する訴訟状態にある。(理由書 (1)の補充書(2)2~4頁)

(これに対する三浦少数意見)
三浦少数意見は、本件県知事決定の裁量判断に際しいかなる項目を考慮事項とするかについて、一般論として次の通り判示した。これは最高裁が国際人権法に言及して初めて示した画期的な判断基準である。

1、一般論:上記4③.本件県知事決定によって失われる利益=延長して居住する必要性(自主避難者の居住権、生活再建権、「帰還による被ばくの健康影響」の回避など)について

(1)、(被災地域を越えた)広域における住宅の供給状況等を踏まえ、当該被災者の具体的な事情すなわち「当該被災者に関し、被災及び避難の状況、 避難の継続又は帰還についての意向、家族関係・健康状態・就労状況その他生活の状況、安定した住宅の確保に関する事情等」(24頁下から4行目~)を適切に考慮して判断しなければならないこと。
 なぜなら、被災者にとって、生活の基盤を失って避難するという経済的にも精神的にも困難な状況の下で、その居住の安定に係る利益は、生存の基礎であって個人の尊厳及び幸福追求に関わるものであり、被災者が延長して居住する必要性については、社会権規約及び国内避難に関する指導原則の趣旨を踏まえ、災害対策基本法の定める基本理念(被災者の年齢、性別、障害の有無その他の被災者の事情を踏まえ、その時期に応じて適切に被災者を援護すること等[6])及び責務(国民の生命、身体及び財産等を災害から保護する使命[7])にも鑑みるべきものだから(17頁17~23行目)。

すなわち、もともと災害救助法による応急仮設住宅の提供は「被災者の居住の安定に係る利益」等を保護するために認められたものである[8]。この「被災者の居住の安定に係る利益」は被災者にとって生存の基礎であって個人の尊厳及び幸福追求に関わるものであり、その内容は社会権規約及び国内避難に関する指導原則の趣旨を踏まえて解釈されるべきものである。そうだとしたら、そこから論理必然的に、応急仮設住宅の提供を延長するかどうかの判断にあたっても「被災者の居住の安定に係る利益」について、上記国際人権法が保障する被災者ひとりひとりの人権問題として、当該被災者の具体的な事情を適切に考慮せざるを得ない。

その際、取り分け、著しく異常かつ激甚な非常災害であって、 当該非常災害に係る応急仮設住宅の入居者の居住の安定に資するための措置を講ずることが特に必要と認められる特定非常災害においては、多数の被災者の避難が広域かつ長期に及ぶなどして、被災者の安定した住宅の需要が被災地域及びその周辺(以下「被災地域等」)に限られないこと等にも鑑みると、 所定の期間を超えて応急仮設住宅を使用する必要性に関し、被災地域等における住宅の供給状況等を重視して一律に判断することは困難である(17頁10~16行目)。

すなわち、福島県内に災害公営住宅が整備されたことを重視して延長しない理由にすることは困難である。

(2)、(1)の裏返しとして、「本件県知事決定によって失われる利益=延長して居住する必要性」がないことが認められること。
「当該被災者の具体的な事情を考慮するまでもなく、一律に、応急仮設住宅を延長して使用する必要がないこと」が合理的な根拠に基づいて認められること(17頁下から2行目~18頁2行目)。
    ↑
2、本件(具体論)
問題は、本件で、本件県知事決定はこの2つの判断基準を満たしているかどうか。
その結論は「満たしていない」。
主たる理由は以下の4つ。

①.2017年3月末日時点で土壌除染等の措置を定めた除染特別地域及び汚染状況重点調査地域は福島県の36市町村に及び、当該地域からの避難者にとって、避難の継続は法令に基づく合理的な根拠があるというべきである。なおかつ避難を継続するか帰還するかはもっぱら個人の選択の問題である。したがって、福島原発事故により拡散した放射性物質による被ばくが人の健康に及ぼす影響について科学的に十分に解明されたとはいえない状況及び避難の継続は法令に基づく合理的な根拠があるという状況において、個人の選択で避難の継続を決定した者についてはその自己決定が尊重されてしかるべきだから、「応急仮設住宅を使用する必要がないか否かについて、自己決定をした当該被災者の具体的な事情を考慮せずに一律に判断すること」はできない(21頁7行目~22頁4行目)。

②.「応急的」の意義
災害救助法による応急仮設住宅の供与は、現に救助を必要とする被災者に対し応急的に必要な救助として行うものであるところ、この「応急的」とは、救助の必要性に関する当該被災者の具体的な事情を離れた画一的な期限を意味するものではない。のみならず、本件に適用される特定非常災害においては、応急仮設住宅の入居者の居住の安定に資するための措置を講ずることが特に必要と認められるものであるから、応急仮設住宅を延長して使用する必要性についての判断に当たり、応急的救助という考え方を重視し当該被災者の具体的な事情を適切に考慮しないことは、むしろ特定非常災害特措法等の趣旨に反するものである(22頁5~12行目)。

③.阪神・淡路大震災の例並びに宮城県及び岩手県の取扱いとの比較について
この比較も、区域外避難者が、区域内避難者と異なり、当該被災者の具体的な事情を考慮するまでもなく、応急仮設住宅を供与できる期間の延長を一律に否定する理由とならない。

④.応急仮設住宅の供与に代わる新たな支援策について
セーフティネット契約等は2年間の限定であり、公営住宅の公募における専用枠等もその入居が確保されるものではないなど上記支援策によって必ずしも安定した住宅を確保できるとはいえない。従って、これが「当該被災者の具体的な事情を考慮するまでもなく一律に応急仮設住宅を使用する必要がない」という理由にはならない(22頁下から6~末行目)。

すなわち、上記支援策は、国際人権法が「例外的措置として許容される強制退去」の要件として要請する「代替住居の誠実な提供」に該当しない。

第2、さらに、2017年4月以降の応急仮設住宅の供与の終了について
(1)
、内掘県知事及び東京都知事
 2017年4月以降の応急仮設住宅の供与を終了するに際して、内堀知事及び東京都知事が、 応急仮設住宅を使用する必要性に関し、 広域における住宅の供給状況等を踏まえ、上告人の具体的な事情を適切に考慮したことはうかがわれない。

(2)、国
 上告人に対する応急仮設住宅の供与に関し、上告人に関する具体的な事情が適切に考慮されないまま2017年3月末日をもって上記供与が終了したことは、国の関与の下に行われた内堀知事及び東京都知事による上記供与に関する事務の処理によるものである。

第3、本件明渡し請求の適否について
(1)
、第2の2017年4月以降の応急仮設住宅の供与が終了したのは本件県知事決定に起因するものであるが、その本件県知事決定は社会通念上著しく妥当性を欠くものであって、各裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用するものである(24頁下から11行目以下)。

(2)、従って、このような事情の下において、上告人がその後本件建物に居住していることは、国との関係において単なる不法占拠とみることはできない。言い換えれば、
上告人に関し、被災及び避難の状況、避難の継続又は帰還についての意向、家族関係・健康状態・就労状況その他生活の状況、安定した住宅の確保に関する事情等の具体的な事情を総合的に考慮して、国が上告人に対し建物明渡請求権を行使することが、 正義 公平の理念に照らし容認できないときは、その行使は、権利の濫用として許されない。

(3)、原審は、上告人に関する上記具体的な事情を総合的に考慮して建物明渡請求権の行使が権利の濫用に当たるか否かについて必要な検討をしていない。
そうすると、 原審の判断(原判決)には、 災害救助法等の法令の解釈適用を誤った結果、 必要な審理を尽くさなかった違法があり、これは、 判決に影響を及ぼすことが明らかである。
従って、原判決中、 上記建物明渡請求に関する部分を破棄し、 同部分について事件を原裁判所に差し戻すのが相当である。

 



[1] 例えば、考慮禁止事項について、公務員に対する不利益取り扱いについての国家公務員法108条の7・地方公務員法56条。

[2] 塩野宏「行政法Ⅰ(第5版補訂版)」136頁14行目《要考慮事項(逆に不可考慮事項)が何であるかは法の解釈を通じて導き出されるものである。》。その例として、考慮禁止事項について、輸出制限に関するいわゆるココム訴訟の東京地裁昭和44年7月8日判決行裁例集20巻7号842頁。

[3] 「本件各処分の前示の性質にかんがみれば、本件各処分に至るまでに何らかの代替措置を採ることの是非、その方法、態様等について十分に考慮するべきであった」ところ、代替措置について何ら検討しなかった上告人の措置は「考慮すべき事項を考慮しておらず、」‥‥「本件各処分は、裁量権の範囲を超える違法なものといわざるを得ない。」(最高裁平成8年3月8日判決民集第50巻3号469頁)

[4] 塩野宏「行政法Ⅰ(第5版補訂版)」135頁。宇賀克也「行政法概説Ⅰ(第7版)」339頁。

[5] 目的を達成するため「より制限的でない他の選びうる手段」(less restrictive alternatives)の基準のこと。

[6] 判決14頁8~9行目。

[7] 判決14頁10行目。

[8] 判決16頁(3)

2026年1月28日水曜日

【第179話】三浦少数意見その可能性の中心(2):避難者追出し裁判1​.​9最高裁判決の上告受理申立て理由書&多数意見&少数意見の対比表から見えてきたもの(26.1.27)

これは、三浦少数意見その可能性の中心(1)の続き。

以下の表は、避難者追出し裁判1​.​9最高裁判決の上告受理申立ての理由書と多数意見と少数意見を対比したもの。
そこから次のことが見えてきた。
1、中心論点
「内掘県知事決定の違法性」について「多数意見不在」
過去の有名事件の最高裁判決において、多数意見と少数意見は、争点をめぐって双方の主張が激しくぶつかりあった(その典型である全逓東京中郵事件最高裁判決、全農林警職法事件最高裁判決参照)。
それらと比較した時、今回の対比だけからでもただちに次の顕著な事実が判明するーー多数意見の正体、それは本裁判の実質的争点である「内掘県知事決定の違法性」について「上告不受理」=原判決を是認しただけで、実質的判断を何も示していないこと、その意味で、この争点について今回の最高裁判決で積極的な判断を初めて示したのが唯一、
三浦少数意見しかない、「多数意見不在」という極めて異例な事態である。
その結果、
「内掘県知事決定の違法性」について、これが違法であることを詳細に明らかにした三浦少数意見に、現時点において、先例としての価値、模範的な意義を見出すことができる。なぜなら、もしも多数意見が三浦少数意見に異議があるのなら、自ら堂々と反論意見を展開すればよかったのに、それをしなかった。ということは、そのこと自体に、三浦少数意見に敢えて異を唱えるものではないことを多数意見は自ら暗黙のうちに示していると言えるからである。
2、被告(上告人)の主張を全面的に支持した三浦少数意見
上告人の上告受理申立て理由書と三浦少数意見を対比する中で、三浦少数意見が上告人の主張を全面的に支持したことが分かる。つまり、上告人の主張が現時点において、先例としての価値、模範的な意義を有することを三浦少数意見が認めたのである。
3、原発事故の救済をめぐって日本の法体系が「法の欠缺」状態にあり、立法による解決が不可欠であると締め括った
三浦少数意見
 
三浦少数意見のラストは、原発事故の救済をめぐって日本の法体系が「法の欠缺」状態にあり、立法による解決が不可欠であることを強調した。それに応えたのが市民立法の「チェルノブイリ法日本版」である(>その呼びかけ文)。

※上告受理申立て理由書(1)全文>PDF 多数意見全文>PDF 少数意見全文>PDF

争点

上告受理申立て理由書

多数意見

三浦少数意見

実体法

法の欠缺

(5)、応急仮設住宅供与打切り問題は「法の欠缺」状態か
ア、仮設住宅無償提供打切り問題は「現実の紛争事実に対して、法律から具体的な判断基準が直接引き出せない場合」すなわち「法の欠缺」状態にあるか。その答えはイエスである。
被告準備書面(2)第1、2(3~4頁)で前述した通り、福島原発事故発生の2011年3月以前に、わが国は原発事故という大災害(カタストロフィ)の発生を想定していなかった。その結果、原発事故直後の応急期における応急救助のみならず、低線量・内部被ばくの影響を想定した応急期以後の長期間にわたる救助においても、災害救助法をはじめとする日本の法体系は原発事故に対応した具体的な救助の定めは何も法定していなかった。その結果、2011年の福島原発事故発生時において、災害救助法をはじめとする災害救助に関する日本の法体系は、原発事故の救済(①応急期における応急救助及び②低線量・内部被ばくの影響を想定した応急期以後の長期間にわたる救助)に関する行政庁の規制権限について具体的には何も法定されておらず、本件の原発事故の避難者の救済に直接適用すべき法令はなかったからである。これらの法令が原発事故を想定していないことは、災害救助法等の立法理由に関する資料中に原発事故に言及した記述がないことからして明らかであるのみならず、日本政府が1986年のチェルノブイリ事故のあと、「日本はソ連とちがい、高度の技術を持っており、原発の構造の型もちがう。チェルノブイリのような事故は絶対起きない」旨断言し(乙C1。22頁)、原発事故を想定したICRP2007年勧告も国内法に取り入れなかったことからも明らかである。 
  さらにまた、我が国の災害対策法制の柱は、次頁の図1(※末尾)の通り、災害の予防、発災後の応急期の対応及び災害からの復旧・復興の各ステージを網羅的にカバーする「災害対策基本法」と、発災後の応急期における応急救助に対応する主要な法律である「災害救助法」からなるところ、「災害対策基本法」については、1999年の東海村JCO臨界事故を契機として、原子力災害が放射能を伴う災害である特性に鑑みて、その特別法として「原子力災害対策特別措置法」が制定された(すなわち、「災害対策基本法」が原子力災害について「法の欠缺」状態であることを認め、立法的解決により欠缺の補充をおこなった)のに対し、災害発生直後の応急期における応急救助を定めた「災害救助法」のほうは今なお、原子力災害対策特別措置法に匹敵するような特別法(いわば原子力災害救助特別措置法なるもの)を制定しておらず、その意味で、「災害救助法」は依然、原発事故をはじめとする原子力災害について「法の欠缺」状態にある。イ、小括
 以上の通り、応急仮設住宅供与打切り問題は「現実の紛争事実に対して、法律から具体的な判断基準が直接引き出せない場合」すなわち「法の欠缺」状態にある。
 これに対し、本件で「法の欠缺」を認めようとしない立場の理由のひとつは、本件で問題となっている申立人らの本件建物の「占有権限」を単純に「被災者の居住に関する利益・権利」と考えているからである。すなわち「被災者」の利益の問題なのだから、「被災者」の救助を目的とする災害救助法を適用すれば足りる、と。しかし、申立人らは決して単なる「被災者」ではない。従来の災害の「被災者」ではない。放射能災害という災害救助法が想定していなかった未曾有の災害の「被災者」なのである。「放射能災害の被災者」という申立人らの本質的特徴さえ正しく認識すれば、応急仮設住宅供与打ち切り問題が「法の欠缺」状態にあることが無条件で肯定できる。

(6)、「法の欠缺」状態の発生の際立った事例(環境基本法及び個別法令) 災害救助法等が福島原発事故発生時点において、原発事故の救済に関して「法の欠缺」状態であったことは前記(3)で詳述した通りであるが、それ以外にも、福島原発事故の発生により「法の欠缺」状態が発生した極めて重要な事例として環境基本法及び個別法令の事例があり、以下、これについてその概略を紹介する。ア、環境基本法及び個別法令の構成
 もともと環境基本法は、都市・生活公害や身近な自然の減少、更には地球環境問題の進行に対応するため、「公害対策基本法」を発展的に継承し、環境に関する分野についての国の政策の基本的な方向を示す法律として1993年に公布・施行されたものである。この環境基本法が定めた基本理念(環境の恵沢の継受と承継〔3条〕、持続可能な社会の構築〔4条〕、国際協調による地球環境保全の積極的推進〔5条〕)を踏まえて、地球環境の根幹をなす「空気」、「水」、「大地」の汚染防止を目的とした大気汚染防止法、水質汚濁防止法、土壌汚染対策法等といった個別法が定められた。
 環境基本法により、政府は、大気の汚染、水質の汚濁、土壌の汚染及び騒音に係る環境上の条件について、「人の健康を保護し、及び生活環境を保全する上で維持されることが望ましい基準」を定めるものとされ(第16条第1項。以下、「環境基準」という。)、「公害の防止に関する施策を総合的かつ有効適切に講ずることにより、環境基準が確保されるように努めなければならない。」とされている(同条第4項)。環境基本法は、国に対し、環境基準を踏まえて、「大気の汚染、水質の汚濁、土壌の汚染等の原因となる物質の排出等の行為に関し、事業者等の遵守すべき基準(これを「規制基準」という。)を定めること等により行う公害を防止するために必要な規制の措置」を講じることを義務付けている(第21条第1項第1号)。環境基準は環境省が分野ごとに告示で定めている。「大気汚染にかかる環境基準」、「二酸化窒素に係る環境基準」、「水質汚濁に係る環境基準」、「土壌環境基準」、「騒音に係る環境基準」等である。
イ、環境基本法及び個別法令の改正(放射性物質の規制)
 ところで、福島原発事故前、放射性物質は、「大気の汚染、水質の汚濁、土壌の汚染の原因となる物質」(環境基本法第21条第1項第1号、以下「公害原因物質」という。)に該当するにもかかわらず、環境基本法は、同法13条で本法の規制の対象外とし、個別法令においても同様の扱いとした。国が、原子力発電を推進する政策と度を越した安全神話から、放射性物質に対する必要な規制法令の策定を回避していたからであった。 しかし、福島原発事故後、その姿勢が批判され、2012年6月20日、環境基本法の改正により同法13条は削除され、放射性物質も環境基本法の規制の体系下に組み込まれることとなり、2013年に「放射性物質による環境の汚染の防止のための関係法律の整備に関する法律」(平成25年法律第60号)が制定され、個別法令における放射性物質の規制除外規定も削除された。ウ、国のサボタージュによる「法の欠缺」状態の放置
  したがって、国は、改正された環境基本法等にしたがい、放射性物質についての「環境基準」をすみやかに定める義務があった。にもかかわらず、本日現在に至るまで、これらを定める法律は制定されていない。その結果、放射性物質についての「環境基準」は今なお空白のまますなわち「法の欠缺」状態のままである。放射性物質の「環境基準」について法の「欠缺の補充」がなされないまま放置されているのは国の明白なサボタージュであり、違法と言わざるを得ない。
 福島原発事故によって放射性物質が大気、水、土壌が広範囲に汚染された。「学校における教育活動が安全な環境において実施され、児童生徒等の安全の確保」を図るという学校保健安全法の目的に照らせば、国は、学校環境衛生基準の一つとして、放射性物質についての具体的な「環境基準」をすみやかに設けなければならないのに「欠缺の補充」を怠り続け、その結果、放射能汚染地に住む子どもらの安全に教育を受ける権利を侵害するという深刻な人権侵害を引き起こしているのである。
エ、小括
  以上の事例が示す通り、「法の欠缺」状態が発生したにもかかわらず、立法作用であれ司法作用であり、「欠缺の補充」をせず放置していることが、いかに被災者の人権侵害を招来するものであるかが明白である。(理由書(1)50~55頁)

ノーコメント

 

5 我が国においては、国及び原子力事業者が、 原子力の利用に関する安全神話に陥り(原子力基本法2条3項参照)、 原子力発電所についてチェルノブイリ原子力発電所事故(1986年 (昭和61年) ) と同様の事態になることは考え難いとして、原子力発電所の敷地外において中長期的な防護措置や土壌等の除染等の措置などが必要となるような過酷事故を想定していなかった (昭和 55年6月原子力安全委員会 「原子力施設等の防災対策について」、 平成24年3月22日原子力安全委員会原子力施設等防災専門部会防災指針ワーキンググループ 「「原子力施設等の防災対策について」についての見直しに関する考え方について 中間とりまとめ」等参照)。
  このような状況において、本件事故に係る災害は、 応急仮設住宅の入居者の居住の安定に資するための措置を講ずることが特に必要と認められる特定非常災害として政令で指定されたが、本件措置等は、区域内避難者と区域外避難者を一律に区別して取り扱うことについて合理的な根拠を欠き、 応急仮設住宅の使用を必要とする区域外避難者の居住の安定の利益等を損なったものである。

  原子力災害か否かに関わらず、著しく異常かつ激甚な非常災害により、多数の被災者の避難が広域かつ長期に及ぶ場合において、被災者の支援が、 個別の事情を踏まえ、その必要性が継続する間確実に実施されるよう、 その居住の安定に資するための措置について適切な仕組みの構築が望まれる。(25~26頁)

国際人権法の位置づけ

(1)、応急仮設住宅供与打切り問題は「現実の紛争事実に対して、法律から具体的な判断基準が直接引き出せない場合」すなわち「法の欠缺」状態にある。
(2)
、原発事故の救済に関して、「法の支配」「法律による行政の原理」が正しく機能するためには適用すべき「法律」が存在していることが大前提であるところ、福島原発事故発生後において、原発事故の救済に関して適用すべき「法律」は全面的な「法の欠缺」状態にあった。それゆえ、そこで実際に行われた行政裁量が、果して「法律」の枠内で行政庁に認められた適法な判断なのかどうかを判断するためには司法が「欠缺の補充」を積極的に行うことが求められている。

(3)、最も重要な「欠缺の補充の法理」の1つが「法体系における序列論」つまり、法の欠缺が発生している当該法律の上位規範に着目して、「当該法律は上位規範に適合するように解釈される必要がある」という法の基本原理を応用し、「当該『法の欠缺』部分は上位規範に基づいて、なおかつこれに適合するように当該欠缺部分が補充される必要がある」という方法で補充を実行することである。
(4)
、本件においては法律の上位規範として憲法よりむしろ国際人権法が重要である。なぜなら、最上位に位置する憲法に定められている社会権の規定は本件に適用するには今なお抽象的すぎるきらいがあるのに対し、国際人権法(社会権規約11条1項や「国内避難に関する指導原則」など)は過去の様々な人権問題への取組みの中から社会権の規定の内容を具体的に豊かにしてきて、本件に適用するに相応しい具体的な規定が豊富に盛り込まれているからである。

(理由書(1)40~57頁)

ノーコメント

 

1 国際約束等
(1)
経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約(以下「社会権規約」という。)11条1項は、締約国に対し、 自己及びその家族のための相当な食糧、衣類及び住居を内容とする相当な生活水準についての並びに生活条件の不断の改善についての全ての者の権利を認め、この権利の実現を確保するために適当な措置をとることを義務付けている。
(2)
国内避難に関する指導原則 (E/CN. 4/1998/53/Add.2) は、国内避難民を保護するための重要な国際的枠組みと認識され、 その保護を増加させるための効果的な方策をとる旨の国際社会の決意が表明されているところ (2005年(平成17年) 世界サミット(国際連合首脳会合) 成果文書132項参照)、同指導原則は、 災害により避難を余儀なくされた者を含む国内避難民について、国内当局は、 国内避難民に保護及び人道的援助を提供する一義的な義務及び責 任を有し、国内避難民は、これらの当局による保護及び人道的援助を要請し、及び受ける権利を有すること(原則3) 国内避難民は、移動の自由及び居住地の選択 の自由についての権利、自らの生命、安全、 自由若しくは健康が危険にさらされる可能性のある場所への強制的な帰還又は再定住から保護される権利、適切な生活水準に対する権利等を有すること (原則14、15、18)、権限のある当局は、状況に関係なく、 及び差別することなく、 国内避難民に対し最低限、基本的な避難所及び住居等を提供し、これらの安全な利用を確保すること(原則18)、権限のある当局は、国内避難民が自らの意思で、安全に、尊厳を維持しつつ、自らの住居若しくは常居所地に帰還できるようにし、又は自らの意思で国内の別の場所に再定住できるようにする条件を整え、及びそのための手段を提供する、 一義的な義務及び 責任を有すること(原則28) 等を定めている。
(3)
本件事故の被災者の保護に関する関係法令の解釈適用については、 社会権規約及び国内避難に関する指導原則の趣旨を踏まえてこれを行うことが相当である(13~14頁)。

内掘決定の位置づけ

災害救助法施行令3条2項に基づき、被災県である福島県の知事が仮設住宅の提供の延長の有無を決定し、その決定内容に基づいて、東京都が、国の要請で管理する都下の国家公務員宿舎の仮設住宅の提供の事務処理を担当した。つまり、仮設住宅提供の打切りを決定した「行政庁の決断」は福島県知事であったことを福島県も東京都も認めた。その結果、もし福島県知事の仮設住宅提供打切りの決定が違法の場合、東京都の上記事務処理も違法、同決定が適法の場合、東京都の同事務処理も適法になるという影響関係にあった。この影響関係を前提に一審・二審裁判所は判決を下した。
(原告準備書面(2)第1、3、(1)など)

 

福島県知事決定が違法なものであるか否かは、上告人の占有権原の有無に影響を及ぼすものではない(4頁)。

従って、多数意見は福島県知事決定の違法性についてノーコメント=違法とも適法とも判断しない。


4 法令の解釈適用の誤り
 被上告人知事は、 本件措置等を踏まえ、東京都知事に対し、区域外避難者について、平成29年4月以降に係る救助の応援を要請せず、東京都知事は、同年3月末日をもって上告人に対する応急仮設住宅の供与を終了した。 その際、 被上告人知事及び東京都知事が、 応急仮設住宅を使用する必要性に関し、 広域における住宅の供給状況等を踏まえ、上告人の具体的な事情を適切に考慮したことほうかがわれない。
国は、東京都知事による応急仮設住宅の供与に関する事務についても、その適正な処理を特に確保するため、適切と認める技術的な助言又は勧告等の関与をすることができる立場にある上、本件建物は、東京都知事が、国から国有財産使用許可を受けて、上告人に応急仮設住宅として供与するものであり、その使用許可と供与の期間は、同様に取り扱われるものであった。
以上によれば、上告人に対する応急仮設住宅の供与に関し、上告人に関する具体的な事情が適切に考慮されないまま、 平成29年3月末日をもって上記供与が終了したことは、国の関与の下に行われた被上告人知事及び東京都知事による上記供与に関する事務の処理によるものであるが、それらは、国の関与及び同意の下に行われた被上告人の本件措置等が、 社会通念上著しく妥当性を欠くものであって、各裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したことに起因するものというべきである。
(24頁)

内掘決定の違法性

(1)、行政裁量の審査の方式として、司法が行政庁の判断に代わって自らあるべき政策決定を下す(判断代置方式)のではなく、あくまでも人権保障の観点から行政判断の結果およびその判断過程(「判断過程審査」方式)における政治的行政的な不均衡及び不備をチェックし、それらの均衡及び不備を是正するという限りで積極的に判断することが必要かつ適切である。
(2)
、判断過程の過誤の具体論として事実認定の過誤があり、その事実認定の過誤のうちの筆頭が事実認定のための調査の過程において必要な調査を尽くしていない場合すなわち調査義務違反である(最高裁平成4年10月29日伊方原発事件判決参照)。
(3)、これはさらに行政手続の適正さという観点からもその過誤が問題となる。すなわち、福島県知事は、区域外避難者の命、健康、暮しに重大な影響を及ぼす「応急仮設住宅の供与の打切り」を決定するに当たっては、事前に、当事者である区域外避難者からヒアリングをして、彼等の実情、要望、今後の見通しについて十分な調査を踏まえた上で行うのが、本来の適正手続きのあり方であった。しかし、福島県知事はこうした適正手続きを一切実行しなかった。(理由書(1)63~65頁)
(4)
、避難者住まいの権利裁判(関連訴訟と略)の2025年10月20日の進行協議において、関連訴訟原告らが主張した「県知事決定にあたって県知事が考慮すべき事項として以下の8つの考慮事項の具体的な事実がある」に東京地方裁判所が注目し、関連訴訟被告(福島県)に対しその認否を求めた。
①.区域外避難者の避難先での生活再建の現状と今後の見通しについて、当事者の区域外避難者からヒアリングした情報            
②.もし仮設住宅の提供打切りを決定した場合、それが区域外避難者の生活再建にどのような悪影響を及ぼすのかについて、当事者の区域外避難者からヒアリングした情報
③.仮設住宅の提供打切りを決定する場合、代替住居の提供についてのどのような検討(当事者の区域外避難者からヒアリングも含めて)をおこなったのか
④.そもそも国家公務員宿舎から区域外避難者を退去させる必要があったのか
⑤.どのような目的のために区域外避難者の退去が必要とされたのか
⑥.退去の必要性が認められるとしても、その必要性と区域外避難者が国家公務員宿舎に居住し続ける必要性との比較衡量が不可欠であるので、この比較衡量のための調整手段・方法(例えば、県外に復興公営住宅を建設する)について、どのような調査・検討(当事者の区域外避難者からヒアリングも含めて)を行なったのか‥‥(中略)
すると、翌11月12日の弁論期日で、福島県はこれに対しすべて争う旨の答弁をした上で、かつて裁判所の釈明に応えて主張した以下の3つの考慮要素さえ考慮すれば足りることを重ねて主張した。
①.国との協議状況
②.災害公営住宅の整備状況
③.除染作業の進捗状況

しかし、一方で、関連訴訟原告らが主張する上記の8つの事項は申立人らをはじめ県外に避難した区域外避難者にとって、いずれも生存の存亡にも関わる切実な問題に関するものばかりであり、従って、仮設住宅の提供打切りの県知事決定に当たっては、打切りにより仮設住宅から退去を余儀なくされる申立人ら区域外避難者の人権が侵害されることがないように十分な考慮が求められるのが当然であり、その意味で、これら8つの事項は県知事が真摯に吟味検討すべき考慮事項であることは当然と思われたところ、関連訴訟被告(福島県)は考慮事項であることを否認し、真っ向から対立する訴訟状態にある。(理由書 (1)の補充書(2)2~4頁)

ノーコメント

2 災害救助法等の法令の解釈
(1)
災害対策は、被災者の年齢、性別、障害の有無その他の被災者の事情を踏まえ、その時期に応じて適切に被災者を援護すること等を基本理念とし、国は、上記基本理念にのっとり、国民の生命、身体及び財産等を災害から保護する使命を有することに鑑み、 組織及び機能の全てを挙げて防災に関し万全の措置を講ずる責務を有し、また、都道府県は、上記基本理念にのっとり、住民の生命、身体及び財産等を災害から保護するため、関係機関及び他の地方公共団体の協力を得て、当該都道府県の地域に係る防災に関する計画を作成し、法令に基づきこれを実施すること等の責務を有する(災害対策基本法2条の2第5号、 3条1項、 4条1項等)。
(2)
災害救助法 (平成30年法律第52号による改正前のものをいう。以下同じ。)は、災害に際して、国が地方公共団体等及び国民の協力の下に、応急的に、必要な救助を行い、被災者の保護と社会の秩序の保全を図ることを目的とするところ(1条)、この救助は、国が本来果たすべき役割に係る事務であるが、 同法により、都道府県知事が、 当該災害により被害を受け、現に救助を必要とする者に対して行うものとされ、 その事務は、 地方自治法2条9項1号に規定する第1号法定受託事務とされる (同法2条、 17条)。 そして、 災害救助法4条1項各号に掲げる救助について、救助の程度、 方法及び期間に関し必要な事項は、政令で定めるものとされ(同条3項)、 災害救助法施行令(平成30年政令第359号による改正前のものをいう。以下同じ。)は、救助の程度、方法及び期間は、 応急救助に必要な範囲内において、 内閣総理大臣が定める基準に従い、 あらかじめ、 都道府県知事がこれを定め、内閣総理大臣が定める基準によっては救助の適切な実施が困難な場合には、都道府県知事は、 内閣総理大臣に協議し、その同意を得た上で、 救助の程度、方法及び期間を定めることができるものとする (
3条)。
災害救助法による救助のうち、 応急仮設住宅の供与 (同法4条1項1号) は、 応急仮設住宅の供与(同法4条1項1号)は、 「住家が全壊、全焼又は流出し、 居住する住家がない者であって、自らの資力では住家を得ることができないもの」 を対象とするところ ( 「災害救助法による救助の程度、方法及び期間並びに実費弁償の基準」(平成25年内閣府告示第228号 (平成30年内閣府告示第51号による改正前のものをいう。以下「平成25年内閣府告示」という。) 2条2号))、原子力災害において、住家は失われていないものの、放出された放射性物質により汚染されている居住地からの避難を余儀なくされている被災者は、 住家が失われた者に準じて、 その対象となるものと解される。応急仮設住宅を供与できる期間は、 建築基準法(平成30年法律第67号による改正前のものをいう。以下同じ。)85条3項又は4項に規定する期限までとされ (平成25年内閣府告示 2条2号)、 最長で2年3か月である。 しかし、 著しく異常かつ激甚な非常災害であって、 当該非常災害に係る応急仮設住宅の入居者の居住の安定に資するための措置を講ずることが特に必要と認められるものが発生した場合において、当該非常災害が特定非常災害として政令で指定されたときは、 建築基準法2条35号の特定行政庁は、被災者の住宅の需要に応ずるに足りる適当な住宅が不足するため同法85条4項の期間を超えて当該被災者の居住の用に供されている応急仮設建築物である住宅を存続させる必要があり、かつ、 安全上、防火上及び衛生上支障がないと認めるときは、更に1年を超えない範囲内において同項の許可の期間を延長することができ、 当該延長に係る期間が満了した場合において、これを更に延長しようとするときも同様とされている(特定非常災害の被害者の権利利益の保全等を図るための特別措置に関する法律 (平成30年法律第67号による改正前のものをいう。以下「特定非常災害特措法」という。) 2条、 8条)。民間賃貸住宅を借り上げて供与するなど適切な方法により供与する応急仮設住宅についても、上記に準じて取り扱われるものと解され、都道府県知事は、 内閣総理大臣に協議し、その同意を得た上で、 応急仮設住宅を供与できる期間を延長することができる(災害救助法施行令3条2項)。
本件事故に係る災害は、著しく異常かつ激甚な非常災害であって、当該非常災害に係る応急仮設住宅の入居者の居住の安定に資するための措置を講ずること等が特に必要と認められるものとして政令で指定された (東日本大震災についての特定非常災害及びこれに対し適用すべき措置の指定に関する政令(和4年政令第203号による改正前のものをいう。) 1条、2条)。
(3)
 災害救助法による応急仮設住宅の供与は、 災害により居住する住家を失い自らの資力では住家を得ることができない被災者に対し、応急的に住宅を供与することにより、当該被災者の居住の安定に係る利益の保護等を図るものと解される。そして、上記供与は、その間、できる限り早期に安定した住宅の確保が図られるよう、被災者の住宅の需要を的確に把握するとともに、その需要に応ずるに足りる適当な住宅を確保し、 十分な情報を提供するなど、 必要な支援を行うことを前提にするものと解される。
また、特定非常災害特措法8条等により応急仮設住宅を供与できる期間を延長する措置は、応急仮設住宅の入居者の居住の安定に資するための措置を講ずることが特に必要と認められる特定非常災害において、被災者の住宅の需要に応ずるに足りる適当な住宅が不足するため、所定の期間を超えて、当該被災者の居住の用に供されている応急仮設住宅を使用する必要がある場合に、上記措置により、当該被災者の居住の安定に係る利益の保護等を図るものと解される。
都道府県知事が、 内閣総理大臣に協議しその同意を得た上で、応急仮設住宅を供与できる期間を延長する措置についての都道府県知事及び内閣総理大臣の各判断は、被災者の住宅の需要に応ずるに足りる適当な住宅が不足する状況その他災害における救助等に関する専門的、技術的な知見を要すること等に鑑み、都道府県知事及び内閣総理大臣の合理的な裁量に委ねられるものと解される。 また、 被災者の住宅の需要に応ずるに足りる適当な住宅が不足する状況その他の事情を考慮して、 一定の要件を定め、一律に、これに適合するものに係る上記期間を延長する一方で、これに適合しないものに係る上記期間を延長しないことは、 上記各裁量の範囲内において許されるものと解される。
もっとも、災害により居住する住家を失い自らの資力では住家を得ることができない被災者は、それぞれ、 被災及び避難の状況、 避難の継続又は帰還についての意向、家族関係・健康状態・就労状況その他生活の状況、安定した住宅の確保に関する事情等は様々であり、当該被災者の居住の用に供されている応急仮設住宅を使用する必要性も大きく異なる。
取り分け、著しく異常かつ激甚な非常災害であって、 当該非常災害に係る応急仮設住宅の入居者の居住の安定に資するための措置を講ずることが特に必要と認められる特定非常災害においては、多数の被災者の避難が広域かつ長期に及ぶなどして、被災者の安定した住宅の需要が被災地域及びその周辺 (以下「被災地域等」という。)に限られないこと等にも鑑みると、 所定の期間を超えて応急仮設住宅を使用する必要性に関し、被災地域等における住宅の供給状況等を重視して一律に判断することは困難である。
被災者にとって、生活の基盤を失って避難するという経済的にも精神的にも困難な状況の下で、その居住の安定に係る利益は、生存の基礎であって個人の尊厳及び幸福追求に関わる。 社会権規約及び国内避難に関する指導原則の趣旨を踏まえ、災害対策基本法の定める基本理念及び責務にも鑑みると、 応急仮設住宅を供与できる期間を延長する措置についての判断に当たっては、応急仮設住宅を使用する必要性に関し、広域における住宅の供給状況等を踏まえ、 当該被災者の具体的な事情を適切に考慮して判断しなければならないものと解される。
また、上記期間を延長する措置に関し、 一定の要件を定め、一律に、これに適合するものに係る上記期間を延長する一方で、これに適合しないものに係る上記期間を延長しないこととするに当たっては、上記要件に適合しないものについて、当該被災者の具体的な事情を考慮するまでもなく、 応急仮設住宅を使用する必要がないことが、合理的な根拠に基づいて認められなければならないものと解される。
3
応急仮設住宅の供与に関する措置についての判断の瑕疵
(1)
ア 本件建物は、 被上告人知事から災害救助法に基づく救助を行うことについての応援の要請を受けた東京都知事が、国から国有財産使用許可を受けた上で、上告人に対し、応急仮設住宅として供与したものである。
被上告人知事は、内閣総理大臣の同意の下に、応急仮設住宅を供与できる期間に関し、2年を超えて1年ごとに上記期間を延長していたところ、 被上告人(知事) は、平成27年6月、 国 (内閣総理大臣) に協議しその同意を得た上で、平成29 年3月末日まで上記期間を延長するとともに、 区域外避難者については、同日をもって応急仮設住宅の供与を終了し、同年4月以降は、 災害救助法に基づく救助から新たな支援策へ移行していくこととした(以下、この措置を「本件措置」という。)。その後、被上告人知事は、内閣総理大臣に協議しその同意を得た上で、避難指示区域からの避難者(以下「区域内避難者」という。)について、 平成29年4月以降も上記期間を延長することとした(以下、この措置と本件措置を併せて 「本件措置等」という。) 。
本件措置等は、 応急仮設住宅を供与できる期間に関し、 平成29年3月末日までは、全ての避難者に係る上記期間を延長するとともに、同年4月以降は、本件事故当時の被災者の居住地が避難指示区域に含まれるか否かを基準として、一律に、区城内避難者に係る上記期間を延長する一方で、 区域外避難者に係る上記期間を延長しないこととするものと解される。
イ 原審が適法に確定した事実関係によれば、 本件措置等については、本件事故から平成29年3月までに約6年が経過し、 その間、 福島県内の各市町村においては除染が実施され、 災害公営住宅の整備、 公共インフラの復旧等が進んでいること、応急救助という災害救助の基本的な考え方、 阪神・淡路大震災の例、 宮城県及び岩手県において全て一律に供与の期間を延長することについて国から厳しい見方が示され、平成29年4月以降の延長について国の同意を得ることが極めて困難となったこと等の事情が考慮された。
また、応急仮設住宅の供与に代わる新たな支援策は、 借上げ住宅等から福島県内の恒久的な住宅への移転費用の支援、 低所得世帯等に対する民間賃貸住宅の家賃の支援、避難者のための住宅確保 (公営住宅等)への取組みなどの検討を進めることを新規・重点施策とし、 生活再建支援策の継続・拡充も実施していくこととされた。そして、被上告人は、各都道府県に対し、住宅確保等についての協力を依頼し、東京都は、都営住宅公募に当たり専用枠を設定するなどした。 また、 被上告人は、前記のとおり、 セーフティネット契約の締結等の措置を講じた。
(2)
ア放射線障害防止の技術的基準に関する法律(以下「放射線障害防止法」という。)は、法令に基づく放射線障害の防止に関する技術的基準の斉一を図ることを目的とし(1条、2条2項)、上記技術的基準を策定するに当たっては、放射線を発生する物を取り扱う従業者及び一般国民の受ける放射線の線量をこれらの者に障害を及ぼすおそれのない線量以下とすることをもって、その基本方針としなければならないものとした上で (3条)、 放射線障害の防止に関し学識経験のある者のうちから任命される委員で組織する放射線審議会を設置し (4条、 7条2項)、関係行政機関の長が上記技術的基準を定めようとするときは、同審議会に諮問しなければならないものとする (6条)。
放射線審議会は、国際放射線防護委員会 (ICRP)の1990年(平成2年) の勧告を踏まえ、 公衆の被ばくに関する限度に関し、 実効線量については年1mSvとするなどとして、これを規制体系の中で担保することが適当であるとし(平成10年6月10日同審議会決定「ICRP1990年勧告 (Pub. 60)の国内制度等への取入れについて (意見具申)」)、関連する法令の規定は、これに従って技術的基準の斉一が図られている。
イ 避難指示区域は、原子力災害対策特別措置法に基づき、 住民の避難や立入りの制限等に関する指示がされた区域であるが、 その設定及び解除については、住民が1年間に被ばくする放射線量が20mSvを超えるか否かが、一つの基準とされている(平成23年12月26日原子力災害対策本部決定 「ステップ2の完了を受けた警戒区域及び避難指示区域の見直しに関する基本的考え方及び今後の検討課題について」等)。
上記避難等に関する指示は、原子力災害対策本部長が、 緊急事態応急対策等を的確かつ迅速に実施するため特に必要がある措置として、地方公共団体の長に対して行ったものであり(平成24年法律第47号による改正前の原子力災害対策特別措置法20条3項、 同改正後の同条2項)、その一つの基準とされる上記放射線量は、法令に基づく放射線障害の防止に関する技術的基準ではなく、 公衆の被ばくに関する限度について、 放射線障害防止法3条の定める基本方針の下に技術的基準の斉一が図られたものでもない。
ウ 「平成23年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物質による環境の汚染への対処に関する特別措置「法」 (以下「放射性物質環境汚染対処法」という。)は、本件事故により放出された放射性物質(以下「事故由来放射性物質」という。)による環境の汚染が生じていることに鑑み、 上記汚染が人の健康又は生活環境に及ぼす影響を速やかに低減することを目的として、事故由来放射性物質により汚染された廃棄物の処理及び土壌等の除染等の措置等について規定する。
そして、放射性物質環境汚染対処法に基づく土壌等の除染等の措置は、除染特別地域(環境大臣が同法25条1項に基づき指定する地域をいう。以下同じ。)及び汚染状況重点調査地域(環境大臣が同法32条1項に基づき指定する地域をいう。以下同じ。)において実施されるが、このうち、 汚染状況重点調査地域の指定及び同地域内の除染実施区域の指定に係る「環境省令で定める要件」 (同法32条1項、36条1項)については、その地域又は区域の追加被ばく線量が年間1mSv未満であることを基準として、これを空間線量率に換算し、1時間当たり0.23μSv未満の放射線量と定められている (汚染廃棄物対策地域の指定の要件等を定める省令(平成23年環境省令第34号) 4条、5条)。
汚染状況重点調査地域の指定等の要件とされる上記放射線量は、法令に基づく放射線障害の防止に関する技術的基準であり、放射線障害防止法6条に基づく環境大臣の諮問に対する放射線審議会の答申 (平成23年12月13日付け)に基づいて定められている。 これは、公衆の被ばくに関する限度について、同法3条の定める基本方針の下に技術的基準の斉一が図られたものということができる。
エ 環境大臣は、 平成24年2月までに、 福島県の41市町村(いわゆる浜通り及び中通りの全ての市町村と会津地方の一部の町村)の全域を除染特別地域又は汚染状況重点調査地域に指定したが、 そのうち、 平成29年3月末日までにその指定を解除したのは5町村にとどまる。 この時点において、 福島市 郡山市 いわき市及び南相馬市(同市は、本件事故当時における上告人の居住地である。)を含む36 市町村に及ぶ広範囲の地域は、依然として、 環境大臣が、 法令に基づき、その地域内の事故由来放射性物質による環境の汚染が著しいと認める地域、又はその環境の汚染状態が上記環境省令で定める要件に適合しないと認め若しくはそのおそれが著しいと認める地域であったということができる。
平成29年3月までに、福島県内の各市町村において除染が実施され、災害公営住宅の整備、公共インフラの復旧等が進んでいたとしても、上記のような環境の汚染状態が続いている居住地から避難している被災者にとって、その避難の継続は、放射線障害防止法3条の定める基本方針に照らし、自らの受ける放射線量が障害を及ぼすおそれのないようにするという点で、法令に基づく合理的な根拠があるというべきである。
もとより、 区域外避難者は、自らの意思で元の居住地等に帰還することもできるが、避難を継続するか帰還するかは、ひとえに個人の選択の問題である。 本件事故により放出された放射性物質が広く拡散し、当該放射性物質による放射線が人の健康に及ぼす危険について科学的に十分に解明されたとはいえない状況において (東京電力原子力事故により被災した子どもをはじめとする住民等の生活を守り支えるための被災者の生活支援等に関する施策の推進に関する法律1条参照)、法令に基づく合理的な根拠をもって避難の継続を選択する者について、区域内避難者と異なり、平成29年4月以降は、当該被災者の具体的な事情を考慮するまでもなく、 一律に、応急仮設住宅を使用する必要性を否定すべき理由はない。
(3)
ア 災害救助法による応急仮設住宅の供与は、現に救助を必要とする被災者に対し、 応急的に、必要な救助として行うものであるが、この「応急的」という概念は、救助の必要性に関する当該被災者の具体的な事情を離れた画一的な期限を意味するものではない。 取り分け、 応急仮設住宅の入居者の居住の安定に資するための措置を講ずることが特に必要と認められる特定非常災害において、所定の期間を超えて応急仮設住宅を使用する必要性についての判断に当たり、応急的救助という考え方を重視して、当該被災者の具体的な事情を適切に考慮しないことは、むしろ、 特定非常災害特措法等の趣旨に反するというべきである。
なお、一般に、法令上 「応急」という用語に係る措置は、その規定の趣旨を踏まえ必要に応じ長期に及ぶことが稀ではない。現に、区域内避難者については、平成29年4月以降も、 応急仮設住宅を供与できる期間が延長され、 福島県大熊町及び双葉町からの避難者については、 現在も、 応急仮設住宅の供与が続いている。
イ 阪神・淡路大震災の例並びに宮城県及び岩手県の取扱いとの比較についても、区域外避難者が、区域内避難者と異なり、当該被災者の具体的な事情を考慮するまでもなく、応急仮設住宅を供与できる期間の延長を一律に否定する理由となるものではない。
ウ 応急仮設住宅の供与に代わる新たな支援策については、セーフティネット契約等が平成31年3月31日までの2年間に限定され、公営住宅の公募における専用枠等もその入居が確保されるものではないなど、 上記支援策によって、 必ずしも、安定した住宅を確保できるとはいえない。これらも、区域外避難者について、区域内避難者と異なり、当該被災者の具体的な事情を考慮するまでもなく、 応急仮設住宅を供与できる期間の延長を一律に否定する理由となるものではない。
(4)
被上告人知事が災害救助法2条により行う救助は、地方自治法2条9項1号に規定する第1号法定受託事務であり(災害救助法17条)、国が本来果たすべき役割に係るものであって、国においてその適正な処理を特に確保する必要があるものである。国(内閣総理大臣) は、 被上告人知事による応急仮設住宅の供与に関する事務について、その適正な処理を特に確保するため、適切と認める技術的な助言又は勧告等の関与をすることができる立場にある (地方自治法245条の4第1項等)。
また、被上告人知事が、 応急仮設住宅を供与できる期間を延長する措置をとるに当たっては、内閣総理大臣に協議しその同意を得る必要があるから (災害救助法施行令3条2項)、その同意が得られない限り、 上記措置をとることができない。そして、本件措置等において、 平成29年3月末日までは、 全ての避難者に係る上記期間の延長について上記同意が得られたが、同年4月以降は、上記期間の延長について上記同意を得ることが極めて困難となっていたことから、この点に関する協議を経て、区域内避難者と区域外避難者を一律に区別して取り扱い、区域内避難者に係る上記期間の延長について上記同意がされたものということができる。
以上によれば、本件措置等は、 国 (内閣総理大臣)の関与と同意の下に被上告人知事が行ったものということができる。
(5)
以上のとおりであり、本件措置等において、 応急仮設住宅を供与できる期間に関し、平成29年4月以降は、本件事故当時の被災者の居住地が避難指示区域に含まれるか否かを基準として、一律に、区域内避難者に係る上記期間を延長する一方で、区域外避難者に係る上記期間を延長しないことについては、同月以降は、区域外避難者について、 当該被災者の具体的な事情を考慮するまでもなく、 応急仮設住宅を使用する必要がないことが、合理的な根拠に基づいて認められるものでないことは明らかである。
避難先での生活の継続を望む区域外避難者が数多く存在する状況において、本件措置等は、応急仮設住宅の使用を必要とする区域外避難者の居住の安定に係る利益等を損なうという点で、本質的な瑕疵を有するものであったといわざるを得ない。

そうすると、 平成29年4月以降に係る応急仮設住宅の供与に関し、 国の関与及び同意の下に行われた被上告人の本件措置等は、 社会通念上著しく妥当性を欠くものと認められ、各裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものというべきである(14~24頁)。

手続法

原告適格

(1)、問題の所在――本裁判の最大の謎――
本来、「第三者に使用させるため」に国から本件各建物の使用許可を得るものであるのに(現実にも、福島原発事故発生後、全国各地の自治体が国からこのような使用許可を得て、避難者に供与した)、今回は、これとは正反対の「第三者に使用させない(=退去させる)ため」に国から本件各建物の使用許可を得て、これを根拠に債権者代位権を行使するのは、債権者代位権の本来の用法もしくは転用として許された範囲を逸脱した違法なものではないかという問題に直面せざるを得ない。
問題は、本件の相手方の被保全権利の内容である。それは相手方が国から本件各建物の使用許可を得た内容によって決められる。すなわちその内容とは「申請書に記載の住宅及びこれに入居する者の便益のために供しなければならない」(甲12許可書2条)というものである。上記申請書(甲11)1頁の「2 使用しようとする理由」に、「以下のいずれかに該当する世帯の住宅の用に供するため」と書かれていて、2番目が「(2)県との使用貸付契約を締結していない世帯(未契約世帯)」である。この世帯については、別紙の「2 未契約世帯」のNo2及びNo4に本件各建物が表示されている。これらの記載から明らかなように、本件各建物については、相手方は本件各建物に入居する申立人らの住居の用に供するために使用許可を申請したのであり、国はその申請を認め、「本件各建物に入居する申立人らの便益のために供しなければならない」としたのである。
従って、もし福島県が債権者代位権を行使するのであれば、それは「本件各建物に入居する申立人らの便益のために供しなければならない」という債権を保全するためである。それにもかかわらず、「本件各建物を申立人に使用させない(退去させる)ために」債権者代位権を行使するのは明らかに本来の用法もしくは転用として許された範囲を逸脱し、違法なものと言わざるを得ない。
(理由書(1)72~73頁ほか理由書(2)、補充書(1))

(1)、被上告人が上記建物明渡請求権の代位行使をすることができると した原審の判断は、結論において是認することができ、原判決に所論の違法はない。原審の判断は、所論引用の判例(最高裁昭和28年 (オ) 第812号同29年9月24日第二小法廷判決・民集 8巻9号1658頁)と抵触するものではない。
(2)、裁判官岡村和美及び同尾島明の共同意見
1 私たちは、被上告人が債権者代位権に基づいて国の上告人に対する本件建物の明渡請求権を行使することはできない旨主張する論旨には理由がないと考える。 その理由は、次のとおりである。
2 原審が適法に確定した事実によれば、 (1) 被上告人は、本件建物の応急仮設住宅としての供与期間終了後、本件建物以外に住宅の確保が見込めないために継続入居の要件に該当すると判断した世帯の住宅の用に供することを使用理由として、国に対して本件建物について国有財産使用許可申請を行い、国は、その申請に基づき国有財産使用許可をしている、(2)その国有財産使用許可においては、上告人に対して本件建物を使用させることが本件建物の指定用途とされているわけではない、 (3) 上告人は本件建物を占有しているが、被上告人と上告人の間には本件建物の使用に関するセーフティネット契約が締結されておらず、上告人は本件建物の占有権原を喪失しているというのである。 上告裁判所は、これらの原審確定事実に拘束されるところ、上記の事実関係の下においては、被上告人は上告人に対し債権者代位権に基づいて本件建物の明渡しを求めることができるというべきである(最高裁昭和28年 (オ) 第812号同29年9月24日第二小法廷判決・民集 8巻9号1658頁参照) 。論旨は債権者代位権の行使を基礎付ける原審の上記認定が誤っていることを前提とするものであって、採用することができない。

1 被上告人の上告人に対する本件建物の明渡請求は、 被上告人が、 国に対して有する本件建物の使用に関する債権を保全するため、 国の上告人に対する所有権に基づく建物明渡請求権を代位行使するものである。
被上告人は、平成29年2月、 区域外避難者について応急仮設住宅の供与を終了するに当たり、避難者の住宅確保のための更なる方策として、各都道府県知事が避難者に応急仮設住宅として供与している国家公務員宿舎について、 被上告人が、国から使用許可を受けることを前提として、住宅確保の見込みの立っていない避難者のうち一定の条件を満たした者との間で、セーフティネット契約を締結し、貸付料の支払を受けて、上記宿舎を提供することとした。
被上告人が本件建物について国から受けている本件使用許可は、平成29年以降、毎年4月1日から翌年3月31日までを使用期間とするものであるところ、平成29年4月1日から平成31年3月31日までの使用に係る本件使用許可は、上告人が本件建物の継続入居を希望していることを踏まえ、セーフティネット契約の締結を前提としていたものと解される。 そして、上告人が同契約の締結に応じないまま、その貸付期限である同日を経過したため、被上告人が上告人との間で同契約を締結する余地はなくなったが、 その後も、被上告人は、上告人が継続入居していることを前提として、 毎年、4月1日から翌年3月31日までを使用期間とする本件使用許可を受け、国に対し使用料を納付している。
原審において、上告人が本件建物から退去した場合に、 被上告人が他の被災者に本件建物を使用させるための新たな貸付に関する制度や仕組みは認定されておらず、その存在はうかがわれない。 被上告人も、上告人らの意向の下に国から本件使用許可を受けた立場として適切に明渡しを求める等の対応をしていくために許可申請を行っている旨の主張をしており、本件使用許可に至る経緯等に照らしても本件使用許可が、 被上告人が上告人以外の被災者に本件建物を使用させることを前提とするものとは解されない。
そうすると、本件使用許可は、継続入居している上告人が退去するまでの間、上告人の住宅の用に供することを目的とするものと解され、それ以外の用途を有するものということはできない。
原審は、国有財産使用許可上、被上告人知事が使用を認めていない上告人に対し本件建物を使用させることが指定用途とされているとはいえないものとする。しかし、その一方で、 原審は、本件使用許可に関し、その使用は、 継続入居の要件に該当すると判断した世帯の住宅の用に供する目的に限定され、 それ以外の用途に供してはならないものとしており、本件建物について、上告人以外に継続入居の要件に該当する世帯はあり得ないから、上告人の住宅の用に供する目的を否定することは、論理的に矛盾し不合理である。
2
被上告人の上告人に対する本件建物の明渡請求は、被上告人が、国に対して有する本件建物の使用に関する債権を保全するため、 国の上告人に対する建物明渡請求権を代位行使するものであるところ、 その被保全債権は、本件使用許可に基づくものであるから、上告人の住宅の用に供することができる状態にすることを求める債権であると解される。
そうすると、上告人が本件建物の居住を継続している限り、被上告人の被保全債権は実現しており、国が上告人に対し建物明渡請求権を行使しないことが、 被保全債権の実現を妨げるという関係にもないから、上記建物明渡請求権の代位行使を基礎づける原告適格に関し、 被保全債権を保全する必要性を認めることはできない。
原審は、被上告人が占有権原を有しない占有者に対し明渡しを求めることは、本件建物につき国から使用許可を受けている被上告人の権利であるとともに国に対する義務でもあるとして、 上記権利を行使し義務を果たすために、国の上告人に対する明渡請求権を代位行使することができるものとしている。
しかし、被上告人の国に対する義務が債権者代位権の原告適格を基礎づけるものでないことは明らかである。 また、 仮に、 被上告人が国との関係で上告人に対し明渡しを求めるべき立場にあり、国に対しその協力を求める債権を有すると考えるにしても、国が上告人に対し建物明渡請求権を行使しないことが、 上記債権の実現を妨げるという関係にもない。 このような債権者代位権の行使は、債権者代位制度の目的を逸脱するものというべきである。
以上のとおりであり、 被上告人は、上告人に対する債権者代位権に基づく建物明渡請求訴訟の原告適格を有しないから、 原判決中、 被上告人の上告人に対する建物明渡請求に関する部分を破棄し、同部分につき第1審判決を取り消し、被上告人の訴えを却下するのが相当である(11~13頁)。

 ※ 図1


2026年1月20日火曜日

【第178話】「我ここに立つ。これ以外に仕方がない」の決断の中で書かれた三浦少数意見(26.1.20)

  原発避難者追出し裁判2026年1月9日言渡しの最高裁判決全文>こちら

      多数意見>全文


   三浦守少数意見>全文


 以下は、仙台のいずみニュースレターへ寄稿した1.9避難者追い出し裁判最高裁判決に対するコメントです。

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「我ここに立つ。これ以外に仕方がない」の決断の中で書かれた三浦少数意見

1、僭越ですが、311原発事故を経験したあと、ユダヤ教徒になってもいいと思った。モーセなど旧約聖書に登場する預言者たちに震撼させられたから。
福島の子どもたちの避難を求める「ふくしま集団疎開裁判」は出エジプトのモーセが念頭にあった。
原発事故の救済を求める訴訟は何度も起こされたが、その都度惨敗し、連敗を重ねた。
避難者を仮設住宅から追出す今回の裁判もそうだった。避難者の訴えに全く耳を傾けないので、一審と二審の裁判官の交代(忌避)を求めた5回に及ぶ申立てはことごとく無視され、まともな審理を受けられないまま全面敗訴の判決が続いた。
それは311後に人権侵害のゴミ屋敷と化した日本社会に相応しい暗黒裁判だった。
その闇の中で、2年前、私自身の過去を振り返り、人権法律家として完全失格だったことを知り、新米法律家として出直した。それが「政治・政策から人権にシフト」し、「ジワジワと人権保障を1ミリでも前進させるための法理論の構築」に全力を注ぐこと――その最初が今回の裁判で最高裁に提出する上告受理申立て理由書(>全文)の作成だった。
今までは、権力のイヌとなった最高裁につばを吐き、断罪する書面しか書けなかった。今度からつばを吐くのをやめ花を盛ろうと思った。
どの最高裁判事も国家権力の重圧、プレッシャーの中にいて、彼らに国策に逆らう避難者の声に耳を傾けさせるのは至難の技だが、だが、ルターの「我ここに立つ。これ以外に仕方がない」程ではなくても、最高裁判事もまた彼らなりに判決を下す直前、「暗闇の中の命がけの決断」の瞬間に立つ。その時、彼らが勇気ある決断を下せるようにそっと背中を押したい、そう願って彼らも賛成せずにはおれない命題からスタートして正しく論を展開しようと心がけたのが今回の理由書だった。それはソクラテスの問答(対話)にならった最高裁に宛てたラブレターだった。

2、その理由書の冒頭は、
《本裁判の特徴を一言で言い表わすと、それは原発事故の救済の法律が存在しないという「真空地帯」で災害弱者の基本的人権が問われた裁判である。その本裁判に対して避難者らが最高裁に望むこと、それは司法が一歩前に出ることである。》

そこで「司法が一歩前に出ること」とは何か。
それは《司法は一歩前に出て積極的に審査すべきであるとしても、その趣旨はあくまでも人権保障という法的観点から人権侵害の審査を行なうことであって、それ以上、政策の当否といった政策論争の審査ではない》ことを自覚することである。

本裁判の避難者とは何者か。
それは《彼らは災害弱者である。彼らはもともと福島原発事故以前から社会的、経済的弱者に属する人たちであったところ、福島原発事故のあと政府が勝手に線引きした強制避難区域の網から漏れ、谷間に落ち、本人には何の責任もないのに、たまたま谷間に落ちてしまった。その結果、政府により救済されない中を、放射能のリスクから命をかけて「子どもを守る」或いは「自分や家族を守る」と決断して自主避難を選択し、仮設住宅の提供以外に国と相手方から真っ当な生活再建の支援もない中を、この間ずっと、慣れない都会の中、自力で努力し続けてきた人たちである。このように過去に経験したことのない「さ迷える市民」にされた彼らの過酷な現実を踏まえて、彼らの救済について、最高裁みずからが原発事故の救済の法律が存在しないという法の穴埋めを真摯に実行すること、それが彼らの切なる願いである。》
その上で、次の通り締めくくった。
《本裁判で避難者らが最も望んだことは、自分たちを金銭で救済せよと求めているのではなく、これは人間の命、健康に関わる最も重要な基本的人権の問題である、だから、福島県による人権侵害を何としてでも是正して欲しい。今月に福島県がやった仮設住宅の強制執行を含め、この間に福島県により避難者らが受けた精神的苦痛は筆舌に尽くし難く、その苦痛はあくまでも避難者らが受けた人権侵害を回復する中でしか癒されない。上告をした避難者らのこの真意を最高裁は真摯に受け止めて、「個々の孤立した少数者である災害弱者の地位に落とされ、苦しみの中で救いを求めている人たちの基本的人権」の問題を積極的に審査して欲しいと切に願うものである。そして、最高裁が「欠缺の補充」を実行するにあたっては、とりわけ国際人権法が明らかにした「国内避難民の人権」という観点から真摯に実行すること、それが避難者らのもうひとつの切なる願いである。》

3、すると、これまで殆どの上告受理申立て事件を門前払いしてきた最高裁は、昨年暮れ、避難者の上告を門前払いせず、避難者の上告理由(福島県知事の住宅提供の打切りの違法性)に判断を示すと応答してきた。
これは青天の霹靂だった、311以来、原発事故の救済について固く閉ざしていた司法がいま初めて扉を一歩開いた瞬間だったから。
1月9日、その判断を示された。
結論は上告棄却。
その理由について多数意見は上記上告理由には応答する必要がないからと避難者の申立てを完全にスルーし黙殺した。
これに対し、三浦少数意見は100%応答して、避難者の申立てを全面的に認めた――第1に災害救助法などの解釈にあたっては国際人権法に基づいてこれを行なうべし、第2に区域外避難者について彼らの具体的な事情を考慮せずに、 応急仮設住宅を使用する必要がないと判断することは是認できない、避難先での生活の継続を望む区域外避難者が数多く存在する状況において、仮設住宅の提供を打切った福島県知事決定は避難者の居住の安定に係る利益を損なうもので本質的瑕疵を有するから、社会通念上著しく妥当性を欠き、裁量権の逸脱濫用にあたり、違法であると。

4、これに対し、こう言う人が必ずいる――三浦意見がたとえどんな素晴らしくてもしょせん少数意見、負けたことには変わりないと。
その通りである。しかし、人権運動はいつも少数者の声から始まる。そして人権運動は少数者の声がその声をあげた瞬間にその声がどう評価されたかではなくて、その声に(たとえ時間がかかろうが)その後、周りの市民がどう反応したかで決まり、さらにその評価も関が原の決戦みたいな一発勝負ではなくて、long and winding roadのジグザグの漸進的なプロセスである。
この人権運動の実相に目を向けるとき、今回の少数者の声である三浦少数意見がどれほど重要であるか、多数意見の側に三浦少数意見が放った輝きを否定・批判するような反論がひとつも書けなかったことも含めて、これは、311後の人権侵害のゴミ屋敷に化した日本社会を人権屋敷に再建する突破口となるような、原発事故の救済に関する人権宣言のスタートとなるような画期的な最高裁判決である。

この判決がまいた一粒のタネが芽を吹き、葉をつけ、花を咲かせ、豊かな実りをもたらすかどうかは、ひとえに死力を尽した三浦裁判官からバトンを受け取った私たち市民の手にかかっている。人権への道は人類全員の協同労働なのだから。

                            (26.1.20柳原敏夫)                                       

【第187話】新老年前夜:1999年「群像」4月号掲載の柄谷行人「トランスクリティーク」最終章が始まりだった(26.9.25)

1999年3月、「群像」4月号に柄谷行人の「 トランスクリティーク」最終章 が掲載された。そこには、労働者はいつも資本に隷属する運命にあるのではなく、労働者が唯一、主体としてあらわれる場がある、それが、労働者が「貨幣」が持つ能動性を発揮するとき、つまり「消費」の場に立つときである...