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2026年1月28日水曜日

【第179話】三浦少数意見その可能性の中心(2):避難者追出し裁判1​.​9最高裁判決の上告受理申立て理由書&多数意見&少数意見の対比表から見えてきたもの(26.1.27)

これは、三浦少数意見その可能性の中心(1)の続き。

以下の表は、避難者追出し裁判1​.​9最高裁判決の上告受理申立ての理由書と多数意見と少数意見を対比したもの。
そこから次のことが見えてきた。
1、中心論点
「内掘県知事決定の違法性」について「多数意見不在」
過去の有名事件の最高裁判決において、多数意見と少数意見は、争点をめぐって双方の主張が激しくぶつかりあった(その典型である全逓東京中郵事件最高裁判決全農林警職法事件最高裁判決参照)。
それらと比較した時、今回の対比だけからでもただちに次の顕著な事実が判明するーー多数意見の正体、それは本裁判の実質的争点である「内掘県知事決定の違法性」について「上告不受理」=原判決を是認しただけで、実質的判断を何も示していないこと、その意味で、この争点について今回の最高裁判決で積極的な判断を初めて示したのが唯一、
三浦少数意見しかない、「多数意見不在」という極めて異例な事態である。
その結果、
「内掘県知事決定の違法性」について、これが違法であることを詳細に明らかにした三浦少数意見に、現時点において、先例としての価値、模範的な意義を見出すことができる。なぜなら、もしも多数意見が三浦少数意見に異議があるのなら、自ら堂々と反論意見を展開すればよかったのに、それをしなかった。ということは、そのこと自体に、三浦少数意見に敢えて異を唱えるものではないことを多数意見は自ら暗黙のうちに示していると言えるからである。
2、被告(上告人)の主張を全面的に支持した三浦少数意見
上告人の上告受理申立て理由書と三浦少数意見を対比する中で、三浦少数意見が上告人の主張を全面的に支持したことが分かる。つまり、上告人の主張が現時点において、先例としての価値、模範的な意義を有することを三浦少数意見が認めたのである。
3、原発事故の救済をめぐって日本の法体系が「法の欠缺」状態にあり、立法による解決が不可欠であると締め括った
三浦少数意見
 
三浦少数意見のラストは、原発事故の救済をめぐって日本の法体系が「法の欠缺」状態にあり、立法による解決が不可欠であることを強調した。それに応えたのが市民立法の「チェルノブイリ法日本版」である(>その呼びかけ文)。

上告受理申立て理由書(1)全文>PDF 多数意見全文PDF 少数意見全文PDF

争点

上告受理申立て理由書

多数意見

三浦少数意見

実体法

法の欠缺

(5)、応急仮設住宅供与打切り問題は「法の欠缺」状態か
ア、仮設住宅無償提供打切り問題は「現実の紛争事実に対して、法律から具体的な判断基準が直接引き出せない場合」すなわち「法の欠缺」状態にあるか。その答えはイエスである。
被告準備書面(2)第1、2(3~4頁)で前述した通り、福島原発事故発生の2011年3月以前に、わが国は原発事故という大災害(カタストロフィ)の発生を想定していなかった。その結果、原発事故直後の応急期における応急救助のみならず、低線量・内部被ばくの影響を想定した応急期以後の長期間にわたる救助においても、災害救助法をはじめとする日本の法体系は原発事故に対応した具体的な救助の定めは何も法定していなかった。その結果、2011年の福島原発事故発生時において、災害救助法をはじめとする災害救助に関する日本の法体系は、原発事故の救済(①応急期における応急救助及び②低線量・内部被ばくの影響を想定した応急期以後の長期間にわたる救助)に関する行政庁の規制権限について具体的には何も法定されておらず、本件の原発事故の避難者の救済に直接適用すべき法令はなかったからである。これらの法令が原発事故を想定していないことは、災害救助法等の立法理由に関する資料中に原発事故に言及した記述がないことからして明らかであるのみならず、日本政府が1986年のチェルノブイリ事故のあと、「日本はソ連とちがい、高度の技術を持っており、原発の構造の型もちがう。チェルノブイリのような事故は絶対起きない」旨断言し(乙C1。22頁)、原発事故を想定したICRP2007年勧告も国内法に取り入れなかったことからも明らかである。 
  さらにまた、我が国の災害対策法制の柱は、次頁の図1(末尾)の通り、災害の予防、発災後の応急期の対応及び災害からの復旧・復興の各ステージを網羅的にカバーする「災害対策基本法」と、発災後の応急期における応急救助に対応する主要な法律である「災害救助法」からなるところ、「災害対策基本法」については、1999年の東海村JCO臨界事故を契機として、原子力災害が放射能を伴う災害である特性に鑑みて、その特別法として「原子力災害対策特別措置法」が制定された(すなわち、「災害対策基本法」が原子力災害について「法の欠缺」状態であることを認め、立法的解決により欠缺の補充をおこなった)のに対し、災害発生直後の応急期における応急救助を定めた「災害救助法」のほうは今なお、原子力災害対策特別措置法に匹敵するような特別法(いわば原子力災害救助特別措置法なるもの)を制定しておらず、その意味で、「災害救助法」は依然、原発事故をはじめとする原子力災害について「法の欠缺」状態にある。イ、小括
 以上の通り、応急仮設住宅供与打切り問題は「現実の紛争事実に対して、法律から具体的な判断基準が直接引き出せない場合」すなわち「法の欠缺」状態にある。
 これに対し、本件で「法の欠缺」を認めようとしない立場の理由のひとつは、本件で問題となっている申立人らの本件建物の「占有権限」を単純に「被災者の居住に関する利益・権利」と考えているからである。すなわち「被災者」の利益の問題なのだから、「被災者」の救助を目的とする災害救助法を適用すれば足りる、と。しかし、申立人らは決して単なる「被災者」ではない。従来の災害の「被災者」ではない。放射能災害という災害救助法が想定していなかった未曾有の災害の「被災者」なのである。「放射能災害の被災者」という申立人らの本質的特徴さえ正しく認識すれば、応急仮設住宅供与打ち切り問題が「法の欠缺」状態にあることが無条件で肯定できる。

(6)、「法の欠缺」状態の発生の際立った事例(環境基本法及び個別法令) 災害救助法等が福島原発事故発生時点において、原発事故の救済に関して「法の欠缺」状態であったことは前記(3)で詳述した通りであるが、それ以外にも、福島原発事故の発生により「法の欠缺」状態が発生した極めて重要な事例として環境基本法及び個別法令の事例があり、以下、これについてその概略を紹介する。ア、環境基本法及び個別法令の構成
 もともと環境基本法は、都市・生活公害や身近な自然の減少、更には地球環境問題の進行に対応するため、「公害対策基本法」を発展的に継承し、環境に関する分野についての国の政策の基本的な方向を示す法律として1993年に公布・施行されたものである。この環境基本法が定めた基本理念(環境の恵沢の継受と承継〔3条〕、持続可能な社会の構築〔4条〕、国際協調による地球環境保全の積極的推進〔5条〕)を踏まえて、地球環境の根幹をなす「空気」、「水」、「大地」の汚染防止を目的とした大気汚染防止法、水質汚濁防止法、土壌汚染対策法等といった個別法が定められた。
 環境基本法により、政府は、大気の汚染、水質の汚濁、土壌の汚染及び騒音に係る環境上の条件について、「人の健康を保護し、及び生活環境を保全する上で維持されることが望ましい基準」を定めるものとされ(第16条第1項。以下、「環境基準」という。)、「公害の防止に関する施策を総合的かつ有効適切に講ずることにより、環境基準が確保されるように努めなければならない。」とされている(同条第4項)。環境基本法は、国に対し、環境基準を踏まえて、「大気の汚染、水質の汚濁、土壌の汚染等の原因となる物質の排出等の行為に関し、事業者等の遵守すべき基準(これを「規制基準」という。)を定めること等により行う公害を防止するために必要な規制の措置」を講じることを義務付けている(第21条第1項第1号)。環境基準は環境省が分野ごとに告示で定めている。「大気汚染にかかる環境基準」、「二酸化窒素に係る環境基準」、「水質汚濁に係る環境基準」、「土壌環境基準」、「騒音に係る環境基準」等である。
イ、環境基本法及び個別法令の改正(放射性物質の規制)
 ところで、福島原発事故前、放射性物質は、「大気の汚染、水質の汚濁、土壌の汚染の原因となる物質」(環境基本法第21条第1項第1号、以下「公害原因物質」という。)に該当するにもかかわらず、環境基本法は、同法13条で本法の規制の対象外とし、個別法令においても同様の扱いとした。国が、原子力発電を推進する政策と度を越した安全神話から、放射性物質に対する必要な規制法令の策定を回避していたからであった。 しかし、福島原発事故後、その姿勢が批判され、2012年6月20日、環境基本法の改正により同法13条は削除され、放射性物質も環境基本法の規制の体系下に組み込まれることとなり、2013年に「放射性物質による環境の汚染の防止のための関係法律の整備に関する法律」(平成25年法律第60号)が制定され、個別法令における放射性物質の規制除外規定も削除された。ウ、国のサボタージュによる「法の欠缺」状態の放置
  したがって、国は、改正された環境基本法等にしたがい、放射性物質についての「環境基準」をすみやかに定める義務があった。にもかかわらず、本日現在に至るまで、これらを定める法律は制定されていない。その結果、放射性物質についての「環境基準」は今なお空白のまますなわち「法の欠缺」状態のままである。放射性物質の「環境基準」について法の「欠缺の補充」がなされないまま放置されているのは国の明白なサボタージュであり、違法と言わざるを得ない。
 福島原発事故によって放射性物質が大気、水、土壌が広範囲に汚染された。「学校における教育活動が安全な環境において実施され、児童生徒等の安全の確保」を図るという学校保健安全法の目的に照らせば、国は、学校環境衛生基準の一つとして、放射性物質についての具体的な「環境基準」をすみやかに設けなければならないのに「欠缺の補充」を怠り続け、その結果、放射能汚染地に住む子どもらの安全に教育を受ける権利を侵害するという深刻な人権侵害を引き起こしているのである。
エ、小括
  以上の事例が示す通り、「法の欠缺」状態が発生したにもかかわらず、立法作用であれ司法作用であり、「欠缺の補充」をせず放置していることが、いかに被災者の人権侵害を招来するものであるかが明白である。(理由書(1)50~55頁)

ノーコメント

 

我が国においては、国及び原子力事業者が、 原子力の利用に関する安全神話に陥り(原子力基本法23項参照) 原子力発電所についてチェルノブイリ原子力発電所事故(1986 (昭和61) ) と同様の事態になることは考え難いとして、原子力発電所の敷地外において中長期的な防護措置や土壌等の除染等の措置などが必要となるような過酷事故を想定していなかった (昭和 556月原子力安全委員会 「原子力施設等の防災対策について」、 平成24322日原子力安全委員会原子力施設等防災専門部会防災指針ワーキンググループ 「「原子力施設等の防災対策について」についての見直しに関する考え方について 中間とりまとめ」等参照)
  このような状況において、本件事故に係る災害は、 応急仮設住宅の入居者の居住の安定に資するための措置を講ずることが特に必要と認められる特定非常災害として政令で指定されたが、本件措置等は、区域内避難者と区域外避難者を一律に区別して取り扱うことについて合理的な根拠を欠き、 応急仮設住宅の使用を必要とする区域外避難者の居住の安定の利益等を損なったものである。

  原子力災害か否かに関わらず、著しく異常かつ激甚な非常災害により、多数の被災者の避難が広域かつ長期に及ぶ場合において、被災者の支援が、 個別の事情を踏まえ、その必要性が継続する間確実に実施されるよう、 その居住の安定に資するための措置について適切な仕組みの構築が望まれる。(25~26頁)

国際人権法の位置づけ

(1)、応急仮設住宅供与打切り問題は「現実の紛争事実に対して、法律から具体的な判断基準が直接引き出せない場合」すなわち「法の欠缺」状態にある。
(2)
、原発事故の救済に関して、「法の支配」「法律による行政の原理」が正しく機能するためには適用すべき「法律」が存在していることが大前提であるところ、福島原発事故発生後において、原発事故の救済に関して適用すべき「法律」は全面的な「法の欠缺」状態にあった。それゆえ、そこで実際に行われた行政裁量が、果して「法律」の枠内で行政庁に認められた適法な判断なのかどうかを判断するためには司法が「欠缺の補充」を積極的に行うことが求められている。

(3)、最も重要な「欠缺の補充の法理」の1つが「法体系における序列論」つまり、法の欠缺が発生している当該法律の上位規範に着目して、「当該法律は上位規範に適合するように解釈される必要がある」という法の基本原理を応用し、「当該『法の欠缺』部分は上位規範に基づいて、なおかつこれに適合するように当該欠缺部分が補充される必要がある」という方法で補充を実行することである。
(4)
、本件においては法律の上位規範として憲法よりむしろ国際人権法が重要である。なぜなら、最上位に位置する憲法に定められている社会権の規定は本件に適用するには今なお抽象的すぎるきらいがあるのに対し、国際人権法(社会権規約11条1項や「国内避難に関する指導原則」など)は過去の様々な人権問題への取組みの中から社会権の規定の内容を具体的に豊かにしてきて、本件に適用するに相応しい具体的な規定が豊富に盛り込まれているからである。

(理由書(1)40~57頁)

ノーコメント

 

1 国際約束等
(1)
経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約(以下「社会権規約」という。)111項は、締約国に対し、 自己及びその家族のための相当な食糧、衣類及び住居を内容とする相当な生活水準についての並びに生活条件の不断の改善についての全ての者の権利を認め、この権利の実現を確保するために適当な措置をとることを義務付けている。
(2)
国内避難に関する指導原則 (E/CN. 4/1998/53/Add.2) は、国内避難民を保護するための重要な国際的枠組みと認識され、 その保護を増加させるための効果的な方策をとる旨の国際社会の決意が表明されているところ (2005(平成17) 世界サミット(国際連合首脳会合) 成果文書132項参照)、同指導原則は、 災害により避難を余儀なくされた者を含む国内避難民について、国内当局は、 国内避難民に保護及び人道的援助を提供する一義的な義務及び責 任を有し、国内避難民は、これらの当局による保護及び人道的援助を要請し、及び受ける権利を有すること(原則3) 国内避難民は、移動の自由及び居住地の選択 の自由についての権利、自らの生命、安全、 自由若しくは健康が危険にさらされる可能性のある場所への強制的な帰還又は再定住から保護される権利、適切な生活水準に対する権利等を有すること (原則141518)、権限のある当局は、状況に関係なく、 及び差別することなく、 国内避難民に対し最低限、基本的な避難所及び住居等を提供し、これらの安全な利用を確保すること(原則18)、権限のある当局は、国内避難民が自らの意思で、安全に、尊厳を維持しつつ、自らの住居若しくは常居所地に帰還できるようにし、又は自らの意思で国内の別の場所に再定住できるようにする条件を整え、及びそのための手段を提供する、 一義的な義務及び 責任を有すること(原則28) 等を定めている。
(3)
本件事故の被災者の保護に関する関係法令の解釈適用については、 社会権規約及び国内避難に関する指導原則の趣旨を踏まえてこれを行うことが相当である(13~14頁)。

内掘決定の位置づけ

災害救助法施行令3条2項に基づき、被災県である福島県の知事が仮設住宅の提供の延長の有無を決定し、その決定内容に基づいて、東京都が、国の要請で管理する都下の国家公務員宿舎の仮設住宅の提供の事務処理を担当した。つまり、仮設住宅提供の打切りを決定した「行政庁の決断」は福島県知事であったことを福島県も東京都も認めた。その結果、もし福島県知事の仮設住宅提供打切りの決定が違法の場合、東京都の上記事務処理も違法、同決定が適法の場合、東京都の同事務処理も適法になるという影響関係にあった。この影響関係を前提に一審・二審裁判所は判決を下した。
(原告準備書面(2)第1、3、(1)など)

 

福島県知事決定が違法なものであるか否かは、上告人の占有権原の有無に影響を及ぼすものではない(4頁)。

従って、多数意見は福島県知事決定の違法性についてノーコメント=違法とも適法とも判断しない。


4 法令の解釈適用の誤り
 被上告人知事は、 本件措置等を踏まえ、東京都知事に対し、区域外避難者について、平成294月以降に係る救助の応援を要請せず、東京都知事は、同年3月末日をもって上告人に対する応急仮設住宅の供与を終了した。 その際、 被上告人知事及び東京都知事が、 応急仮設住宅を使用する必要性に関し、 広域における住宅の供給状況等を踏まえ、上告人の具体的な事情を適切に考慮したことほうかがわれない。
国は、東京都知事による応急仮設住宅の供与に関する事務についても、その適正な処理を特に確保するため、適切と認める技術的な助言又は勧告等の関与をすることができる立場にある上、本件建物は、東京都知事が、国から国有財産使用許可を受けて、上告人に応急仮設住宅として供与するものであり、その使用許可と供与の期間は、同様に取り扱われるものであった。
以上によれば、上告人に対する応急仮設住宅の供与に関し、上告人に関する具体的な事情が適切に考慮されないまま、 平成293月末日をもって上記供与が終了したことは、国の関与の下に行われた被上告人知事及び東京都知事による上記供与に関する事務の処理によるものであるが、それらは、国の関与及び同意の下に行われた被上告人の本件措置等が、 社会通念上著しく妥当性を欠くものであって、各裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したことに起因するものというべきである。
(24頁)

内掘決定の違法性

(1)、行政裁量の審査の方式として、司法が行政庁の判断に代わって自らあるべき政策決定を下す(判断代置方式)のではなく、あくまでも人権保障の観点から行政判断の結果およびその判断過程(「判断過程審査」方式)における政治的行政的な不均衡及び不備をチェックし、それらの均衡及び不備を是正するという限りで積極的に判断することが必要かつ適切である。
(2)
、判断過程の過誤の具体論として事実認定の過誤があり、その事実認定の過誤のうちの筆頭が事実認定のための調査の過程において必要な調査を尽くしていない場合すなわち調査義務違反である(最高裁平成4年10月29日伊方原発事件判決参照)。
(3)、これはさらに行政手続の適正さという観点からもその過誤が問題となる。すなわち、福島県知事は、区域外避難者の命、健康、暮しに重大な影響を及ぼす「応急仮設住宅の供与の打切り」を決定するに当たっては、事前に、当事者である区域外避難者からヒアリングをして、彼等の実情、要望、今後の見通しについて十分な調査を踏まえた上で行うのが、本来の適正手続きのあり方であった。しかし、福島県知事はこうした適正手続きを一切実行しなかった。(理由書(1)63~65頁)
(4)
、避難者住まいの権利裁判(関連訴訟と略)の2025年10月20日の進行協議において、関連訴訟原告らが主張した「県知事決定にあたって県知事が考慮すべき事項として以下の8つの考慮事項の具体的な事実がある」に東京地方裁判所が注目し、関連訴訟被告(福島県)に対しその認否を求めた。
①.区域外避難者の避難先での生活再建の現状と今後の見通しについて、当事者の区域外避難者からヒアリングした情報            
②.もし仮設住宅の提供打切りを決定した場合、それが区域外避難者の生活再建にどのような悪影響を及ぼすのかについて、当事者の区域外避難者からヒアリングした情報
③.仮設住宅の提供打切りを決定する場合、代替住居の提供についてのどのような検討(当事者の区域外避難者からヒアリングも含めて)をおこなったのか
④.そもそも国家公務員宿舎から区域外避難者を退去させる必要があったのか
⑤.どのような目的のために区域外避難者の退去が必要とされたのか
⑥.退去の必要性が認められるとしても、その必要性と区域外避難者が国家公務員宿舎に居住し続ける必要性との比較衡量が不可欠であるので、この比較衡量のための調整手段・方法(例えば、県外に復興公営住宅を建設する)について、どのような調査・検討(当事者の区域外避難者からヒアリングも含めて)を行なったのか‥‥(中略)
すると、翌11月12日の弁論期日で、福島県はこれに対しすべて争う旨の答弁をした上で、かつて裁判所の釈明に応えて主張した以下の3つの考慮要素さえ考慮すれば足りることを重ねて主張した。
①.国との協議状況
②.災害公営住宅の整備状況
③.除染作業の進捗状況

しかし、一方で、関連訴訟原告らが主張する上記の8つの事項は申立人らをはじめ県外に避難した区域外避難者にとって、いずれも生存の存亡にも関わる切実な問題に関するものばかりであり、従って、仮設住宅の提供打切りの県知事決定に当たっては、打切りにより仮設住宅から退去を余儀なくされる申立人ら区域外避難者の人権が侵害されることがないように十分な考慮が求められるのが当然であり、その意味で、これら8つの事項は県知事が真摯に吟味検討すべき考慮事項であることは当然と思われたところ、関連訴訟被告(福島県)は考慮事項であることを否認し、真っ向から対立する訴訟状態にある。(理由書 ()の補充書(2)2~4頁)

ノーコメント

2 災害救助法等の法令の解釈
(1)
災害対策は、被災者の年齢、性別、障害の有無その他の被災者の事情を踏まえ、その時期に応じて適切に被災者を援護すること等を基本理念とし、国は、上記基本理念にのっとり、国民の生命、身体及び財産等を災害から保護する使命を有することに鑑み、 組織及び機能の全てを挙げて防災に関し万全の措置を講ずる責務を有し、また、都道府県は、上記基本理念にのっとり、住民の生命、身体及び財産等を災害から保護するため、関係機関及び他の地方公共団体の協力を得て、当該都道府県の地域に係る防災に関する計画を作成し、法令に基づきこれを実施すること等の責務を有する(災害対策基本法2条の25号、 31項、 41項等)
(2)
災害救助法 (平成30年法律第52号による改正前のものをいう。以下同じ。)は、災害に際して、国が地方公共団体等及び国民の協力の下に、応急的に、必要な救助を行い、被災者の保護と社会の秩序の保全を図ることを目的とするところ(1)、この救助は、国が本来果たすべき役割に係る事務であるが、 同法により、都道府県知事が、 当該災害により被害を受け、現に救助を必要とする者に対して行うものとされ、 その事務は、 地方自治法291号に規定する第1号法定受託事務とされる (同法2条、 17) そして、 災害救助法41項各号に掲げる救助について、救助の程度、 方法及び期間に関し必要な事項は、政令で定めるものとされ(同条3) 災害救助法施行令(平成30年政令第359号による改正前のものをいう。以下同じ。)は、救助の程度、方法及び期間は、 応急救助に必要な範囲内において、 内閣総理大臣が定める基準に従い、 あらかじめ、 都道府県知事がこれを定め、内閣総理大臣が定める基準によっては救助の適切な実施が困難な場合には、都道府県知事は、 内閣総理大臣に協議し、その同意を得た上で、 救助の程度、方法及び期間を定めることができるものとする (
)
災害救助法による救助のうち、 応急仮設住宅の供与 (同法411) は、 応急仮設住宅の供与(同法411)は、 「住家が全壊、全焼又は流出し、 居住する住家がない者であって、自らの資力では住家を得ることができないもの」 を対象とするところ ( 「災害救助法による救助の程度、方法及び期間並びに実費弁償の基準」(平成25年内閣府告示第228 (平成30年内閣府告示第51号による改正前のものをいう。以下「平成25年内閣府告示」という。) 22))、原子力災害において、住家は失われていないものの、放出された放射性物質により汚染されている居住地からの避難を余儀なくされている被災者は、 住家が失われた者に準じて、 その対象となるものと解される。応急仮設住宅を供与できる期間は、 建築基準法(平成30年法律第67号による改正前のものをいう。以下同じ。)853項又は4項に規定する期限までとされ (平成25年内閣府告示 22) 最長で23か月である。 しかし、 著しく異常かつ激甚な非常災害であって、 当該非常災害に係る応急仮設住宅の入居者の居住の安定に資するための措置を講ずることが特に必要と認められるものが発生した場合において、当該非常災害が特定非常災害として政令で指定されたときは、 建築基準法235号の特定行政庁は、被災者の住宅の需要に応ずるに足りる適当な住宅が不足するため同法854項の期間を超えて当該被災者の居住の用に供されている応急仮設建築物である住宅を存続させる必要があり、かつ、 安全上、防火上及び衛生上支障がないと認めるときは、更に1年を超えない範囲内において同項の許可の期間を延長することができ、 当該延長に係る期間が満了した場合において、これを更に延長しようとするときも同様とされている(特定非常災害の被害者の権利利益の保全等を図るための特別措置に関する法律 (平成30年法律第67号による改正前のものをいう。以下「特定非常災害特措法」という。) 2条、 8)。民間賃貸住宅を借り上げて供与するなど適切な方法により供与する応急仮設住宅についても、上記に準じて取り扱われるものと解され、都道府県知事は、 内閣総理大臣に協議し、その同意を得た上で、 応急仮設住宅を供与できる期間を延長することができる(災害救助法施行令32)
本件事故に係る災害は、著しく異常かつ激甚な非常災害であって、当該非常災害に係る応急仮設住宅の入居者の居住の安定に資するための措置を講ずること等が特に必要と認められるものとして政令で指定された (東日本大震災についての特定非常災害及びこれに対し適用すべき措置の指定に関する政令(4年政令第203号による改正前のものをいう。) 1条、2)
(3)
 災害救助法による応急仮設住宅の供与は、 災害により居住する住家を失い自らの資力では住家を得ることができない被災者に対し、応急的に住宅を供与することにより、当該被災者の居住の安定に係る利益の保護等を図るものと解される。そして、上記供与は、その間、できる限り早期に安定した住宅の確保が図られるよう、被災者の住宅の需要を的確に把握するとともに、その需要に応ずるに足りる適当な住宅を確保し、 十分な情報を提供するなど、 必要な支援を行うことを前提にするものと解される。
また、特定非常災害特措法8条等により応急仮設住宅を供与できる期間を延長する措置は、応急仮設住宅の入居者の居住の安定に資するための措置を講ずることが特に必要と認められる特定非常災害において、被災者の住宅の需要に応ずるに足りる適当な住宅が不足するため、所定の期間を超えて、当該被災者の居住の用に供されている応急仮設住宅を使用する必要がある場合に、上記措置により、当該被災者の居住の安定に係る利益の保護等を図るものと解される。
都道府県知事が、 内閣総理大臣に協議しその同意を得た上で、応急仮設住宅を供与できる期間を延長する措置についての都道府県知事及び内閣総理大臣の各判断は、被災者の住宅の需要に応ずるに足りる適当な住宅が不足する状況その他災害における救助等に関する専門的、技術的な知見を要すること等に鑑み、都道府県知事及び内閣総理大臣の合理的な裁量に委ねられるものと解される。 また、 被災者の住宅の需要に応ずるに足りる適当な住宅が不足する状況その他の事情を考慮して、 一定の要件を定め、一律に、これに適合するものに係る上記期間を延長する一方で、これに適合しないものに係る上記期間を延長しないことは、 上記各裁量の範囲内において許されるものと解される。
もっとも、災害により居住する住家を失い自らの資力では住家を得ることができない被災者は、それぞれ、 被災及び避難の状況、 避難の継続又は帰還についての意向、家族関係・健康状態・就労状況その他生活の状況、安定した住宅の確保に関する事情等は様々であり、当該被災者の居住の用に供されている応急仮設住宅を使用する必要性も大きく異なる。
取り分け、著しく異常かつ激甚な非常災害であって、 当該非常災害に係る応急仮設住宅の入居者の居住の安定に資するための措置を講ずることが特に必要と認められる特定非常災害においては、多数の被災者の避難が広域かつ長期に及ぶなどして、被災者の安定した住宅の需要が被災地域及びその周辺 (以下「被災地域等」という。)に限られないこと等にも鑑みると、 所定の期間を超えて応急仮設住宅を使用する必要性に関し、被災地域等における住宅の供給状況等を重視して一律に判断することは困難である。
被災者にとって、生活の基盤を失って避難するという経済的にも精神的にも困難な状況の下で、その居住の安定に係る利益は、生存の基礎であって個人の尊厳及び幸福追求に関わる。 社会権規約及び国内避難に関する指導原則の趣旨を踏まえ、災害対策基本法の定める基本理念及び責務にも鑑みると、 応急仮設住宅を供与できる期間を延長する措置についての判断に当たっては、応急仮設住宅を使用する必要性に関し、広域における住宅の供給状況等を踏まえ、 当該被災者の具体的な事情を適切に考慮して判断しなければならないものと解される。
また、上記期間を延長する措置に関し、 一定の要件を定め、一律に、これに適合するものに係る上記期間を延長する一方で、これに適合しないものに係る上記期間を延長しないこととするに当たっては、上記要件に適合しないものについて、当該被災者の具体的な事情を考慮するまでもなく、 応急仮設住宅を使用する必要がないことが、合理的な根拠に基づいて認められなければならないものと解される。
3
応急仮設住宅の供与に関する措置についての判断の瑕疵
(1)
本件建物は、 被上告人知事から災害救助法に基づく救助を行うことについての応援の要請を受けた東京都知事が、国から国有財産使用許可を受けた上で、上告人に対し、応急仮設住宅として供与したものである。
被上告人知事は、内閣総理大臣の同意の下に、応急仮設住宅を供与できる期間に関し、2年を超えて1年ごとに上記期間を延長していたところ、 被上告人(知事) は、平成276月、 (内閣総理大臣) に協議しその同意を得た上で、平成29 3月末日まで上記期間を延長するとともに、 区域外避難者については、同日をもって応急仮設住宅の供与を終了し、同年4月以降は、 災害救助法に基づく救助から新たな支援策へ移行していくこととした(以下、この措置を「本件措置」という。)。その後、被上告人知事は、内閣総理大臣に協議しその同意を得た上で、避難指示区域からの避難者(以下「区域内避難者」という。)について、 平成294月以降も上記期間を延長することとした(以下、この措置と本件措置を併せて 「本件措置等」という。)
本件措置等は、 応急仮設住宅を供与できる期間に関し、 平成293月末日までは、全ての避難者に係る上記期間を延長するとともに、同年4月以降は、本件事故当時の被災者の居住地が避難指示区域に含まれるか否かを基準として、一律に、区城内避難者に係る上記期間を延長する一方で、 区域外避難者に係る上記期間を延長しないこととするものと解される。
原審が適法に確定した事実関係によれば、 本件措置等については、本件事故から平成293月までに約6年が経過し、 その間、 福島県内の各市町村においては除染が実施され、 災害公営住宅の整備、 公共インフラの復旧等が進んでいること、応急救助という災害救助の基本的な考え方、 阪神・淡路大震災の例、 宮城県及び岩手県において全て一律に供与の期間を延長することについて国から厳しい見方が示され、平成294月以降の延長について国の同意を得ることが極めて困難となったこと等の事情が考慮された。
また、応急仮設住宅の供与に代わる新たな支援策は、 借上げ住宅等から福島県内の恒久的な住宅への移転費用の支援、 低所得世帯等に対する民間賃貸住宅の家賃の支援、避難者のための住宅確保 (公営住宅等)への取組みなどの検討を進めることを新規・重点施策とし、 生活再建支援策の継続・拡充も実施していくこととされた。そして、被上告人は、各都道府県に対し、住宅確保等についての協力を依頼し、東京都は、都営住宅公募に当たり専用枠を設定するなどした。 また、 被上告人は、前記のとおり、 セーフティネット契約の締結等の措置を講じた。
(2)
ア放射線障害防止の技術的基準に関する法律(以下「放射線障害防止法」という。)は、法令に基づく放射線障害の防止に関する技術的基準の斉一を図ることを目的とし(1条、22)、上記技術的基準を策定するに当たっては、放射線を発生する物を取り扱う従業者及び一般国民の受ける放射線の線量をこれらの者に障害を及ぼすおそれのない線量以下とすることをもって、その基本方針としなければならないものとした上で (3) 放射線障害の防止に関し学識経験のある者のうちから任命される委員で組織する放射線審議会を設置し (4条、 72)、関係行政機関の長が上記技術的基準を定めようとするときは、同審議会に諮問しなければならないものとする (6)
放射線審議会は、国際放射線防護委員会 (ICRP)1990(平成2) の勧告を踏まえ、 公衆の被ばくに関する限度に関し、 実効線量については年1mSvとするなどとして、これを規制体系の中で担保することが適当であるとし(平成10610日同審議会決定「ICRP1990年勧告 (Pub. 60)の国内制度等への取入れについて (意見具申))、関連する法令の規定は、これに従って技術的基準の斉一が図られている。
避難指示区域は、原子力災害対策特別措置法に基づき、 住民の避難や立入りの制限等に関する指示がされた区域であるが、 その設定及び解除については、住民が1年間に被ばくする放射線量が20mSvを超えるか否かが、一つの基準とされている(平成231226日原子力災害対策本部決定 「ステップ2の完了を受けた警戒区域及び避難指示区域の見直しに関する基本的考え方及び今後の検討課題について」等)
上記避難等に関する指示は、原子力災害対策本部長が、 緊急事態応急対策等を的確かつ迅速に実施するため特に必要がある措置として、地方公共団体の長に対して行ったものであり(平成24年法律第47号による改正前の原子力災害対策特別措置法203項、 同改正後の同条2)、その一つの基準とされる上記放射線量は、法令に基づく放射線障害の防止に関する技術的基準ではなく、 公衆の被ばくに関する限度について、 放射線障害防止法3条の定める基本方針の下に技術的基準の斉一が図られたものでもない。
「平成23311日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物質による環境の汚染への対処に関する特別措置「法」 (以下「放射性物質環境汚染対処法」という。)は、本件事故により放出された放射性物質(以下「事故由来放射性物質」という。)による環境の汚染が生じていることに鑑み、 上記汚染が人の健康又は生活環境に及ぼす影響を速やかに低減することを目的として、事故由来放射性物質により汚染された廃棄物の処理及び土壌等の除染等の措置等について規定する。
そして、放射性物質環境汚染対処法に基づく土壌等の除染等の措置は、除染特別地域(環境大臣が同法251項に基づき指定する地域をいう。以下同じ。)及び汚染状況重点調査地域(環境大臣が同法321項に基づき指定する地域をいう。以下同じ。)において実施されるが、このうち、 汚染状況重点調査地域の指定及び同地域内の除染実施区域の指定に係る「環境省令で定める要件」 (同法321項、361)については、その地域又は区域の追加被ばく線量が年間1mSv未満であることを基準として、これを空間線量率に換算し、1時間当たり0.23μSv未満の放射線量と定められている (汚染廃棄物対策地域の指定の要件等を定める省令(平成23年環境省令第34) 4条、5)
汚染状況重点調査地域の指定等の要件とされる上記放射線量は、法令に基づく放射線障害の防止に関する技術的基準であり、放射線障害防止法6条に基づく環境大臣の諮問に対する放射線審議会の答申 (平成231213日付け)に基づいて定められている。 これは、公衆の被ばくに関する限度について、同法3条の定める基本方針の下に技術的基準の斉一が図られたものということができる。
エ 環境大臣は、 平成242月までに、 福島県の41市町村(いわゆる浜通り及び中通りの全ての市町村と会津地方の一部の町村)の全域を除染特別地域又は汚染状況重点調査地域に指定したが、 そのうち、 平成293月末日までにその指定を解除したのは5町村にとどまる。 この時点において、 福島市 郡山市 いわき市及び南相馬市(同市は、本件事故当時における上告人の居住地である。)を含む36 市町村に及ぶ広範囲の地域は、依然として、 環境大臣が、 法令に基づき、その地域内の事故由来放射性物質による環境の汚染が著しいと認める地域、又はその環境の汚染状態が上記環境省令で定める要件に適合しないと認め若しくはそのおそれが著しいと認める地域であったということができる。
平成293月までに、福島県内の各市町村において除染が実施され、災害公営住宅の整備、公共インフラの復旧等が進んでいたとしても、上記のような環境の汚染状態が続いている居住地から避難している被災者にとって、その避難の継続は、放射線障害防止法3条の定める基本方針に照らし、自らの受ける放射線量が障害を及ぼすおそれのないようにするという点で、法令に基づく合理的な根拠があるというべきである。
もとより、 区域外避難者は、自らの意思で元の居住地等に帰還することもできるが、避難を継続するか帰還するかは、ひとえに個人の選択の問題である。 本件事故により放出された放射性物質が広く拡散し、当該放射性物質による放射線が人の健康に及ぼす危険について科学的に十分に解明されたとはいえない状況において (東京電力原子力事故により被災した子どもをはじめとする住民等の生活を守り支えるための被災者の生活支援等に関する施策の推進に関する法律1条参照)、法令に基づく合理的な根拠をもって避難の継続を選択する者について、区域内避難者と異なり、平成294月以降は、当該被災者の具体的な事情を考慮するまでもなく、 一律に、応急仮設住宅を使用する必要性を否定すべき理由はない。
(3)
災害救助法による応急仮設住宅の供与は、現に救助を必要とする被災者に対し、 応急的に、必要な救助として行うものであるが、この「応急的」という概念は、救助の必要性に関する当該被災者の具体的な事情を離れた画一的な期限を意味するものではない。 取り分け、 応急仮設住宅の入居者の居住の安定に資するための措置を講ずることが特に必要と認められる特定非常災害において、所定の期間を超えて応急仮設住宅を使用する必要性についての判断に当たり、応急的救助という考え方を重視して、当該被災者の具体的な事情を適切に考慮しないことは、むしろ、 特定非常災害特措法等の趣旨に反するというべきである。
なお、一般に、法令上 「応急」という用語に係る措置は、その規定の趣旨を踏まえ必要に応じ長期に及ぶことが稀ではない。現に、区域内避難者については、平成294月以降も、 応急仮設住宅を供与できる期間が延長され、 福島県大熊町及び双葉町からの避難者については、 現在も、 応急仮設住宅の供与が続いている。
阪神・淡路大震災の例並びに宮城県及び岩手県の取扱いとの比較についても、区域外避難者が、区域内避難者と異なり、当該被災者の具体的な事情を考慮するまでもなく、応急仮設住宅を供与できる期間の延長を一律に否定する理由となるものではない。
ウ 応急仮設住宅の供与に代わる新たな支援策については、セーフティネット契約等が平成31331日までの2年間に限定され、公営住宅の公募における専用枠等もその入居が確保されるものではないなど、 上記支援策によって、 必ずしも、安定した住宅を確保できるとはいえない。これらも、区域外避難者について、区域内避難者と異なり、当該被災者の具体的な事情を考慮するまでもなく、 応急仮設住宅を供与できる期間の延長を一律に否定する理由となるものではない。
(4)
被上告人知事が災害救助法2条により行う救助は、地方自治法291号に規定する第1号法定受託事務であり(災害救助法17)、国が本来果たすべき役割に係るものであって、国においてその適正な処理を特に確保する必要があるものである。国(内閣総理大臣) は、 被上告人知事による応急仮設住宅の供与に関する事務について、その適正な処理を特に確保するため、適切と認める技術的な助言又は勧告等の関与をすることができる立場にある (地方自治法245条の41項等)
また、被上告人知事が、 応急仮設住宅を供与できる期間を延長する措置をとるに当たっては、内閣総理大臣に協議しその同意を得る必要があるから (災害救助法施行令32)、その同意が得られない限り、 上記措置をとることができない。そして、本件措置等において、 平成293月末日までは、 全ての避難者に係る上記期間の延長について上記同意が得られたが、同年4月以降は、上記期間の延長について上記同意を得ることが極めて困難となっていたことから、この点に関する協議を経て、区域内避難者と区域外避難者を一律に区別して取り扱い、区域内避難者に係る上記期間の延長について上記同意がされたものということができる。
以上によれば、本件措置等は、 (内閣総理大臣)の関与と同意の下に被上告人知事が行ったものということができる。
(5)
以上のとおりであり、本件措置等において、 応急仮設住宅を供与できる期間に関し、平成294月以降は、本件事故当時の被災者の居住地が避難指示区域に含まれるか否かを基準として、一律に、区域内避難者に係る上記期間を延長する一方で、区域外避難者に係る上記期間を延長しないことについては、同月以降は、区域外避難者について、 当該被災者の具体的な事情を考慮するまでもなく、 応急仮設住宅を使用する必要がないことが、合理的な根拠に基づいて認められるものでないことは明らかである。
避難先での生活の継続を望む区域外避難者が数多く存在する状況において、本件措置等は、応急仮設住宅の使用を必要とする区域外避難者の居住の安定に係る利益等を損なうという点で、本質的な瑕疵を有するものであったといわざるを得ない。

そうすると、 平成294月以降に係る応急仮設住宅の供与に関し、 国の関与及び同意の下に行われた被上告人の本件措置等は、 社会通念上著しく妥当性を欠くものと認められ、各裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものというべきである(14~24頁)。

手続法

原告適格

(1)、問題の所在――本裁判の最大の謎――
本来、「第三者に使用させるため」に国から本件各建物の使用許可を得るものであるのに(現実にも、福島原発事故発生後、全国各地の自治体が国からこのような使用許可を得て、避難者に供与した)、今回は、これとは正反対の「第三者に使用させない(=退去させる)ため」に国から本件各建物の使用許可を得て、これを根拠に債権者代位権を行使するのは、債権者代位権の本来の用法もしくは転用として許された範囲を逸脱した違法なものではないかという問題に直面せざるを得ない。
問題は、本件の相手方の被保全権利の内容である。それは相手方が国から本件各建物の使用許可を得た内容によって決められる。すなわちその内容とは「申請書に記載の住宅及びこれに入居する者の便益のために供しなければならない」(甲12許可書2条)というものである。上記申請書(甲11)1頁の「2 使用しようとする理由」に、「以下のいずれかに該当する世帯の住宅の用に供するため」と書かれていて、2番目が「(2)県との使用貸付契約を締結していない世帯(未契約世帯)」である。この世帯については、別紙の「2 未契約世帯」のNo2及びNo4に本件各建物が表示されている。これらの記載から明らかなように、本件各建物については、相手方は本件各建物に入居する申立人らの住居の用に供するために使用許可を申請したのであり、国はその申請を認め、「本件各建物に入居する申立人らの便益のために供しなければならない」としたのである。
従って、もし福島県が債権者代位権を行使するのであれば、それは「本件各建物に入居する申立人らの便益のために供しなければならない」という債権を保全するためである。それにもかかわらず、「本件各建物を申立人に使用させない(退去させる)ために」債権者代位権を行使するのは明らかに本来の用法もしくは転用として許された範囲を逸脱し、違法なものと言わざるを得ない。
(理由書(1)72~73頁ほか理由書(2)、補充書(1)

(1)、被上告人が上記建物明渡請求権の代位行使をすることができると した原審の判断は、結論において是認することができ、原判決に所論の違法はない。原審の判断は、所論引用の判例(最高裁昭和28年 (オ) 第812号同29年9月24日第二小法廷判決・民集 8巻9号1658頁)と抵触するものではない。
(2)、裁判官岡村和美及び同尾島明の共同意見
1 私たちは、被上告人が債権者代位権に基づいて国の上告人に対する本件建物の明渡請求権を行使することはできない旨主張する論旨には理由がないと考える。 その理由は、次のとおりである。
2 原審が適法に確定した事実によれば、 (1) 被上告人は、本件建物の応急仮設住宅としての供与期間終了後、本件建物以外に住宅の確保が見込めないために継続入居の要件に該当すると判断した世帯の住宅の用に供することを使用理由として、国に対して本件建物について国有財産使用許可申請を行い、国は、その申請に基づき国有財産使用許可をしている、(2)その国有財産使用許可においては、上告人に対して本件建物を使用させることが本件建物の指定用途とされているわけではない、 (3) 上告人は本件建物を占有しているが、被上告人と上告人の間には本件建物の使用に関するセーフティネット契約が締結されておらず、上告人は本件建物の占有権原を喪失しているというのである。 上告裁判所は、これらの原審確定事実に拘束されるところ、上記の事実関係の下においては、被上告人は上告人に対し債権者代位権に基づいて本件建物の明渡しを求めることができるというべきである(最高裁昭和28年 (オ) 第812号同29年9月24日第二小法廷判決・民集 8巻9号1658頁参照) 。論旨は債権者代位権の行使を基礎付ける原審の上記認定が誤っていることを前提とするものであって、採用することができない。

1 被上告人の上告人に対する本件建物の明渡請求は、 被上告人が、 国に対して有する本件建物の使用に関する債権を保全するため、 国の上告人に対する所有権に基づく建物明渡請求権を代位行使するものである。
被上告人は、平成292月、 区域外避難者について応急仮設住宅の供与を終了するに当たり、避難者の住宅確保のための更なる方策として、各都道府県知事が避難者に応急仮設住宅として供与している国家公務員宿舎について、 被上告人が、国から使用許可を受けることを前提として、住宅確保の見込みの立っていない避難者のうち一定の条件を満たした者との間で、セーフティネット契約を締結し、貸付料の支払を受けて、上記宿舎を提供することとした。
被上告人が本件建物について国から受けている本件使用許可は、平成29年以降、毎年4月1日から翌年331日までを使用期間とするものであるところ、平成2941日から平成31331日までの使用に係る本件使用許可は、上告人が本件建物の継続入居を希望していることを踏まえ、セーフティネット契約の締結を前提としていたものと解される。 そして、上告人が同契約の締結に応じないまま、その貸付期限である同日を経過したため、被上告人が上告人との間で同契約を締結する余地はなくなったが、 その後も、被上告人は、上告人が継続入居していることを前提として、 毎年、41日から翌年331日までを使用期間とする本件使用許可を受け、国に対し使用料を納付している。
原審において、上告人が本件建物から退去した場合に、 被上告人が他の被災者に本件建物を使用させるための新たな貸付に関する制度や仕組みは認定されておらず、その存在はうかがわれない。 被上告人も、上告人らの意向の下に国から本件使用許可を受けた立場として適切に明渡しを求める等の対応をしていくために許可申請を行っている旨の主張をしており、本件使用許可に至る経緯等に照らしても本件使用許可が、 被上告人が上告人以外の被災者に本件建物を使用させることを前提とするものとは解されない。
そうすると、本件使用許可は、継続入居している上告人が退去するまでの間、上告人の住宅の用に供することを目的とするものと解され、それ以外の用途を有するものということはできない。
原審は、国有財産使用許可上、被上告人知事が使用を認めていない上告人に対し本件建物を使用させることが指定用途とされているとはいえないものとする。しかし、その一方で、 原審は、本件使用許可に関し、その使用は、 継続入居の要件に該当すると判断した世帯の住宅の用に供する目的に限定され、 それ以外の用途に供してはならないものとしており、本件建物について、上告人以外に継続入居の要件に該当する世帯はあり得ないから、上告人の住宅の用に供する目的を否定することは、論理的に矛盾し不合理である。
2
被上告人の上告人に対する本件建物の明渡請求は、被上告人が、国に対して有する本件建物の使用に関する債権を保全するため、 国の上告人に対する建物明渡請求権を代位行使するものであるところ、 その被保全債権は、本件使用許可に基づくものであるから、上告人の住宅の用に供することができる状態にすることを求める債権であると解される。
そうすると、上告人が本件建物の居住を継続している限り、被上告人の被保全債権は実現しており、国が上告人に対し建物明渡請求権を行使しないことが、 被保全債権の実現を妨げるという関係にもないから、上記建物明渡請求権の代位行使を基礎づける原告適格に関し、 被保全債権を保全する必要性を認めることはできない。
原審は、被上告人が占有権原を有しない占有者に対し明渡しを求めることは、本件建物につき国から使用許可を受けている被上告人の権利であるとともに国に対する義務でもあるとして、 上記権利を行使し義務を果たすために、国の上告人に対する明渡請求権を代位行使することができるものとしている。
しかし、被上告人の国に対する義務が債権者代位権の原告適格を基礎づけるものでないことは明らかである。 また、 仮に、 被上告人が国との関係で上告人に対し明渡しを求めるべき立場にあり、国に対しその協力を求める債権を有すると考えるにしても、国が上告人に対し建物明渡請求権を行使しないことが、 上記債権の実現を妨げるという関係にもない。 このような債権者代位権の行使は、債権者代位制度の目的を逸脱するものというべきである。
以上のとおりであり、 被上告人は、上告人に対する債権者代位権に基づく建物明渡請求訴訟の原告適格を有しないから、 原判決中、 被上告人の上告人に対する建物明渡請求に関する部分を破棄し、同部分につき第1審判決を取り消し、被上告人の訴えを却下するのが相当である(11~13頁)。

  図1


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【第180話】三浦少数意見その可能性の中心(3):内掘決定の違法性と建物明渡請求の可否についての具体的内容(2026.1.30)

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