カール・シュミット「例外状況において決断者として主権者が露出する」
なぜ、これが新たな法律判断かというと、「内掘決定が違法かどうかは福島県の仮設住宅明渡し請求の前提問題か否か」という論点(以下、本件論点という)については、一審判決も二審判決も自主避難者の被告(控訴人・上告人)の主張を受け入れて、「内掘決定が違法かどうかは福島県の仮設住宅明渡し請求の前提問題である」と判断して、その上で、内掘決定には違法はなく、それゆえ、福島県の仮設住宅明渡し請求も認められると判断したのに対し、今回、最高裁判決の多数意見は、この中の最初の判断を覆し、「内掘決定が違法かどうかは福島県の仮設住宅明渡し請求の前提問題ではない」と判断したからだ。
この判断が誤りであることは本件紛争の「真相解明」が曲がりなりにも追及された事実審を審理した地裁、高裁には分かっていた。以下、一審の審理の中で、どのような経過を経て、本件紛争の真相が解明され、「内掘決定が違法かどうかは福島県の仮設住宅明渡し請求の前提問題である」ことが明らかにされたかを、重要な点なので少々詳しくなるのをいとわず、以下に報告する。
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1、本件紛争の真相
本件紛争の真相が解明されたなら、本件論点の答えは直ちに明らかになる。
ところが、本訴訟では本件紛争の「真相解明」に大変手間取った。そのため、本件紛争の真相が解明されるまで、本件論点の答えが明らかにならなった。
では、なぜ本件紛争の「真相解明」に手間取ったのか。それは福島県と福島地裁のせいである。
2、本件紛争の「真相解明」の最大の妨害者は福島県、その最大の協力者は福島地裁だった。
なぜなら、本件紛争の被告である自主避難者は単なる「不法占拠者」ではなく、当初「適法に仮設住宅の使用許可を得て占有を開始し、継続してきた」のに、2017年3月末を境に、彼らが占有の継続を強く望んだにも関わらず無視され、意に反して一方的に「仮設住宅の使用許可」が与えられなくなり、その結果、占有権限喪失により彼らは不本意にも「不法占拠者」に転落させられてしまったという複雑な経過を辿ったにもかかわらず、本件紛争の原告である福島県は提訴にあたってこの占有権限喪失に至るプロセスを全く明らかにしようとせず、以下のとおり、訴状において仮設住宅提供打切りの決定の内容や根拠となった法令の説明すらなく、彼らを占有権原のないただの「不法占拠者」として扱ったためである。
《被告については平成29年3月31日をもって応急仮設住宅としての本件建物の供与が終了になり本件建物の占有権限がなくなった》(訴状請求原因2(2))
しかも、本件紛争の「真相」が全く示されていないきつねにつままれた訴状に対し、一審の福島地方裁判所もまた、福島県に仮設住宅提供打切りの決定の内容や根拠となった法令を明らかにするように指示(釈明)を出そうともせず、福島県が「真相解明」に蓋をすることに惜しみない支援を注いだからである。
3、本件紛争の「真相解明」のフタが開いた経過
(1)、福島県と裁判所による水も漏らさぬ緊密なタッグによって本件紛争の「真相解明」に蓋がされていたにもかかわらず、「理論は灰色だが、現実は緑だ」の言葉通り、現実の審理の中で、「真相解明」の蓋は思いも寄らないカタチで開いてしまい、真相が姿を見せてしまったのである。
(2)、その「真相解明」の蓋を開けたキッカケになったアイデアはカール・シュミットの独特かつリアリティを持つ主権者論だったーー権力を持つ者とは、例外状態において決断をする者のことであると。この言葉が私の中でリアリティを持ったのは、想定外の過酷事故である311を経験し、その直後に混乱の極みの中にほおり出されたときの権力の状態、例えば班目春樹を委員長とする原子力安全委員会が機能不全状態に陥ったのを目の当たりにして、「決断」のできない班目春樹のような人物では権力者となれないと実感したからだ。
(3)、そこで、この「決断」をキーワードにして、福島県が蓋をする行政権力の「真相」に次のように切り込もうとした。
1、本裁判の法律問題の謎
‥‥原告の被告らへの請求(訴状物)は、本件建物を無権限で占有する者に対する所有者の所有権に基づく明渡し請求権である。この訴訟物の構成だと、本件建物を無断で占拠した不法占拠者を立ち退かせる裁判と変わらない。しかし、被告らは本件建物を無断で占拠したのではない。適法に本件建物の使用許可を得て占有を開始し、継続してきたものである。ところが、当初「適法に本件建物の使用許可を得て占有を開始し、継続してきた」のに、2017年3月31日を境に、被告らが占有の継続を望んだにも関わらずその望みは無視され、その意に反して一方的に「本件建物の使用許可」が与えられなくなり、その結果、被告らは不本意にも「本件建物を無権限で占有する者」という不法占拠者の地位に転落させられてしまったものである。
ところで、この時点で発生した事態について訴状はどのように記載しているか。こうである――《被告については平成29年3月31日をもって応急仮設住宅としての本件建物の供与が終了になり本件建物の占有権限がなくなった》と(請求原因2(2))。
「本件建物の供与が終了になった」というのは、秋になって葉が色づき落ちてなくなったかのように、まるで自然に発生した現象みたいに書かれている。しかし、実態は全くちがう。それまで占有権限を有していた被告らを占有無権限者とするためには、そこに行政過程における厳然たる「行政庁の決断」が存在しなければ不可能だからである。だが、訴状には、いったい、どの行政庁(WHO)がいかなる手続を経て(HOW)どういう決断を下したのか(WHAT)、肝心なこれらの基本的な事実がすべて消されている。その結果、不本意にも占有権限者から占有無権限者におとしめられた被告らが、それを決定した「行政庁の決断」の不当性を訴えようにも、どの行政庁に向かって、どのような行政過程の不当性について訴えたらよいのか、それすら知ることもできないまま、「最初から建物を不法占拠した者」さながらに、問答無用で追出されそうになっているのである。こうした、人を煙に巻き、途方に暮れさせるやり方というものに対しては、思わず、詐欺師という名称を献上しないではおれないほどである。
いずれにせよ、このような明渡し請求のやり方は明らかにおかしい。30年近く前の行政手続法、情報公開法の制定の結果、行政の公正・透明性の原則が確立している現代にあって、上記の訴状の請求原因3の記載のように、これほど透明性の原則に違背する記載は見たことがない。そして、この不透明極まりない提訴の結果、「行政庁の決断」の不当性に反論するすべも不透明のまま、被告らの基本的人権(生存権・居住権)が脅かされている。こうした透明性の原則に著しく違背した原告の提訴に改めて抗議せざるを得ない。
《あくまでも被告らに対し本件建物を仮設住宅として供与していたのは東京都である。
原告は、東京都に対して、被告らを含む原発事故の避難者について、災害救助法上の救助の応援を要請し(災害救助法20条参照)、その結果、東京都が供与主体となって被告らに本件建物を仮設住宅として供与していたのである(甲15参照)。
原告としては、被告らを含む被告らを含む原発事故の避難者については、災害救助法施行令3条2項に基づいて国と協議のうえ、平成29年3月末をもって応急仮設住宅の供与を終了するとの政策決定をし、それに伴い、東京都に対して、上記の救助の応援を要請しなかったのである。》(2021年11月26日付準備書面(2)第1、3、(1)2~3頁)
(5)、つまり、ここで初めて《原告は区域外避難者については、国と協議のうえ、平成29年3月末をもって応急仮設住宅の供与を終了するとの政策決定をした》と「原告の決断」を明らかにしたからである。また、上記原告書面で原告が引用した東京都の文書(甲15)にも次の通り書かれていて、「行政庁の決断」をしたのは福島県側だと表明していた。
《東京都では、東日本大震災による避難者の方々に対し、被災県(注:福島県)からの要請に基づき、応急仮設住宅として都営住宅等及び民間賃貸住宅を提供してきました。》
(6)、そこで、原告の尻尾をつかまえた被告らは、トドメを刺すために、さらに次の質問(求釈明)に出た。
《(1)、原告準備書面(2)2~3頁
《原告としては、被告らを含む避難指示区域外の避難者については、‥‥国と協議のうえ、平成29年3月末をもって応急仮設住宅の供与を終了するとの政策決定をし》
①.いつ、上記政策決定をしたのか。
②.原告のどの組織(会議・部署など)において上記政策決定をしたのか。
③.この時の②の当該組織の長は誰か。
以上、いずれも被告の次回反論準備にとって必要不可欠な事実であるので、速やかな対応を希望する。》(2022年2月7日準備書面(被告第7))
(7)、しかし、原告はだんまりを決め込んで回答拒否してきた。そこで、被告は、タッグを組む裁判所に、貴方が福島県に回答させず、グルになって真相に蓋をし続けるのであれば、裁判所による「裁判の拒絶」にひとしい憲法上の権利の侵害行為であり、それだけでも二審で判決の破棄は免れないし、これだけ改善是正の必要性を強く求めているにも関わらず、裁判所がこれに背を向け続けるのであれば、被告らに残された手段は裁判官の忌避の申立てしかないという申入れをしたら(準備書面(被告第8))、その翌日、福島県から以下の回答が届けられた。
《2015年6月15日、内掘福島県知事が議長をつとめる新生ふくしま復興推進本部会議で決定した》(2022年2月22日付準備書面(3)1~2頁)
もっとも、災害救助法施行令3条2項によれば政策決定の主体は「都道府県知事」だから、本件では福島県知事であり、新生ふくしま復興推進本部会議は県知事決定を了承したにすぎず、以上の政策決定を決断したのは内掘知事その人であることがようやく明らかにされた。
(8)、ここに至り、福島県も東京都も、災害救助法施行令3条2項に基づき、被災県である福島県の知事が仮設住宅の提供の延長の有無を決定し、その決定内容に基づいて、東京都が現実の仮設住宅の提供の事務処理を担当したことを認めた。つまり、仮設住宅の提供の有無を決定するという「行政庁の決断」は専ら福島県知事の手に委ねられていた。その結果、福島県知事が仮設住宅の提供を延長する場合には東京都もこの決定に沿って現実の仮設住宅の提供を延長し、その反面、福島県知事が仮設住宅の提供を延長しない場合には、東京都もこの決定に沿って現実の仮設住宅の提供も終了した。
(9)、以上の結果、福島県知事と東京都の間にこのような影響関係がある以上、そこで、仮設住宅の提供を2017年3月末をもって打切るとした内掘決定がもし違法であれば内掘決定に沿って仮設住宅の提供を終了した東京都の事務処理もまた違法を免れず、その結果、本件明渡し請求は認められない。これに対し、内掘決定がもし適法であれば内掘決定に沿って仮設住宅の提供を終了した東京都の事務処理もまた適法となり、その結果、本件明渡し請求は認められることになる。
このような影響関係が存在することを前提にして、一審と二審判決は、
《災害救助法に基づく応急仮設住宅の供与の期間を定める本件政策判断は、 その性質上、行政庁の広範な裁量に委ねられていると解するのが相当であり、前記(1)で説示した諸事情を勘案すると、原告知事に裁量の逸脱濫用があるとはいえない。》(31頁22~25行目)
という自由裁量論で内掘決定の適法性を導き、そこから東京都の事務処理の適法性を導き、最終的に本件明渡し請求を認めたのに対し、三浦少数意見は、
《避難先での生活の継続を望む区域外避難者が数多く存在する状況において、本件措置は、応急仮設住宅の使用を必要とする区域外避難者の居住の安定に係る利益等を損なうという点で、本質的な瑕疵を有するものであったといわざるを得ない。
そうすると、 平成29年4月以降に係る応急仮設住宅の供与に関し、 国の関与及び同意の下に行われた被上告人の本件措置等は、 社会通念上著しく妥当性を欠くものと認められ、各裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものというべきである。》(23~24頁)
で内掘決定の違法性を導き、そこから東京都の事務処理の違法性を導き、最終的に本件明渡し請求を認めなかった。
以上の論理構成に対して、ひとり多数意見のみが、次の通り、福島県知事と東京都の間の影響関係を否定し、それゆえ、内掘決定の違法性を判断する必要がないとして判断しなかった。しかし、この判断が明らかに誤りであり、誤判であることは以上に明らかにした通りである。
《本件判断が違法なものであるか否かは、上告人の占有権原の有無に影響を及ぼすものではな》い(4頁下から8~7行目)

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