避難者追出し訴訟(一審福島地裁)の報告です。
(なぜか国ではなく)福島県が原告となり、東京都東雲の国家公務員宿舎に避難している自主避難者を被告として、国家公務員宿舎からの退去を求めて訴えた追出し訴訟の中で、被告は、2021年9月29日、(これまで、福島県の明渡請求は理由がないと否定、反論していたのに対し、それにとどまらず)被告こそ福島県のこの間の一連の追い出し行為による被害者であり、福島県は加害者として謝罪し、被告が受けた精神的苦痛という損害を賠償する責任があると福島県を訴えた反訴状を提出(全文のPDF->こちら)。
◆反訴状の概要
被告避難者は福島県が住宅無償提供を打ち切った2017年4月以降も、避難した建物に国際人権法に基づき居住する権利が認められているにも関わらず、原告福島県は、
第1に、被告をあたかも不法占拠者であるかのように考え、追出しに関するさまざまな嫌がらせによる不法行為に出た、
第2に、福島原発事故により被告が余儀なくされた窮状に即して居住の確保について実質的平等の扱いをせず、法の下の平等に反する違憲行為に出て、被告を救済しようとしなかった。
その結果、被告は筆舌に尽くし難い苦しみを味わった。この重大な精神的な苦痛を与えたことに対し、福島県は被告に謝罪し、賠償する責任があると主張したもの。
◆具体的な主張
とりわけ次の事実は、国際人権法が保障する「国内避難民の居住権」に照らし、さらには憲法の平等原則に照らし、福島県の重大な違法行為を構成する。
①.「長期入居が可能な適切な代替住宅の誠実な提供」について
国際文書「国内避難民の指導原則」は、次の原則を明らかにしている。
(a)、国内避難民は、恣意的に強制移動されることのない権利を有すること(原則6)、
(b)、自らの生命、安全、自由もしくは健康が危険にさらされるおそれのあるあらゆる場所へ強制移動されることのない権利を有すること(原則15)、
(c)、政府などの当局は、国内避難民の強制移動につながるような状態を防止する義務を負うこと(原則5)、
(d)、強制移動を全面的に回避するため、すべての実行可能な代替案が検討する義務を負うこと(原則7)
最後の(d)が本件では「長期入居が可能な適切な代替住宅の誠実な提供」である。
しかし、福島県が2人の被告避難者に対し、現実に行ったことは次のことである。
(ⅰ)、被告1
2年間の避難生活の精神ストレスからバセドウ氏病・心臓病を発症、入院生活を余儀なくされた。そのため、退院後は定職に就く自信がなく、仕事をせず、預金を切り崩して何とか生活してきた。しかし、2017年3月の住宅の無償提供打ち切りを知り、福島県の職員に、「住宅を出されてもほかに行き場が見つからない、精神不安で職が安定せず経済的にやっていけない、」と窮状を訴え、被告1の条件の下で居住を確保できるよう対策を要望したが、福島県の職員が紹介する代替住居の物件は、いずれも2DKで最低月7万以上、といったインターネットで調べたものでどれも被告1の入居が実現不可能なものばかりであった。福島県の職員は、経済的窮状・精神不安定状態を訴える被告1にとって、はじめから、入居が到底実現不可能と分かっている情報を提供して憚らなかったのである。
(ⅱ)、被告2
被告2は、2016年に、翌2017年3月の住宅の無償提供打ち切りを知り、「本件建物から追い出されることになったら、とてもじゃないが民間賃貸住宅に入ることはできない、どうしようか」と悩んだ。2019年11月、福島県の職員から紹介された不動産関係者に従い代替住居の物件をいくつか下見に行ったが まだクリーニングも入ってない カビやホコリだらけの物件(複数)もあり 又 反訴原告2の家族構成や条件も伝えてあるにも関わらず バス停の場所、駅までの所要時間、スーパーの有無など生活必須情報を全く調べてなく 返答すらできないいい加減な態度だった。
この対応振りを目の当たりにした被告2は、福島県の職員は単に、自分たちの「避難者へ物件の紹介実績」を残すために事務的に紹介しただけと感じ、被告2に寄り添って探した物件とは到底思えなかった。福島県の職員は、経済的窮状を訴える被告2にとって、はじめから、入居が到底実現不可能と分かっている情報を提供して憚らなかったのである。
②.避難者向け300戸の都営住宅の募集と法の下の平等
憲法が保障する法の下の平等とは、あらゆる場合にルールを単に機械的に当てはめて差別しないという趣旨ではなく、民主主義の理念に照して不合理と考えられる差別を禁止する趣旨であり、民主主義の理念に照して合理と考えられる差別はむしろ実質的な平等を実現するものとして要請される(宮沢俊義「憲法Ⅱ」[法律学全集]288頁)。
この「民主主義的合理性」に基づく平等とは、人間を形式的にではなく実質的に尊重することであり、そこから、憲法上要請される平等も、単なる形式的平等ではなく、人間を実質的に尊重する実質的平等でなくてはならない(宮沢俊義「憲法Ⅱ」289頁)。
この原理に基づけば、一般市民と前例のない未曾有の過酷事故である福島原発事故により「国内避難民」となった人々に対する公営住宅の都営住宅の募集条件は形式的に同一である必然性はなく、むしろ「国内避難民」の惨状に即して、人間性の実質的尊重ないし個人の尊厳という観点から、募集条件の緩和が当然要請されると解すべきである。
(ⅰ)、被告2
被告2にとって、民間の賃貸住宅への入居は極めて厳しい状況だったため、残された道は、2016年夏の避難者向け300戸の都営住宅の募集だった。ただし、募集要件として母子世帯に該当するためには、同居家族が母と18歳未満の子であったが、被告2の家族は母と18歳未満の次女と18歳以上の長女であったため、上記母子世帯に該当しなかった。この母子世帯で暗礁に乗り上げた被告2は、何とか東京都に口ぞえをと福島県に相談したところ、福島県の職員は、単に「福島県の人達は一般の人達と違い枠を広げて設けてあるので 通常の申し込みで頑張って下さい」と言うだけで、それ以上 東京都に働きかけをすることは決してしなかった。その結果、採用されなかった。
この福島県の職員の振舞いこそ、一見、形式的な平等を貫いたように見えて、しかしその内実は、「国内避難民」の惨状に即して人間を実質的に尊重する実質的平等の実現に目を背けた非人間的な行為そのものであり、その意味で法の下の平等に違反する憲法違反と言わざるを得ない。
(ⅱ)、被告1
被告1にとって唯一のチャンスと思われた2016年夏の避難者向け300戸の都営住宅の募集についても、精神疾患を患っていた被告1が精神保健福祉手帳を取得すれば入居資格があったにもかかわらず、相談を受けた福島県の職員は、そうした必要適切な助言は一切行わず、単に「あなたは単身だから難しい」と一言回答するばかりで、そのため、被告1は居住を確保する絶好のチャンスを失ってしまった(その後精神保健福祉手帳を取得し、都営団地の入居資格を得て申込をしてきたが、これについて東京都に対する福島県からの具体的な働きかけが一切ないこともあり、15回、連続落選を余儀なくされている)。
この福島県の職員の振舞いは、前例のない未曾有の過酷事故である福島原発事故により「国内避難民」となった被告1に寄り添い、被告1の条件のもとで代替住居を何とか実現しようという誠実さのカケラもない
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