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2020年9月10日木曜日

【第46話】6年間の脱被ばく子ども裁判の審理終結にあたって(その5) 想定外の証人採用をめぐるバトル(2020.9.10)

子ども脱被ばく裁判」が提訴審理された福島地方裁判所
                        裁判所のHPより

:想定外の証人採用をめぐるバトル

 
それが鈴木眞一教授の証人尋問申請の採用だった。

 2019月、裁判所は「10月から来年3月まで5回の期日をとり、各期日に終日を使い証人尋問を行う」という積極的な方針を示したものの、原告が内々に証人として打診した複数の大学教授からいずれもNGの返事。
 そこで、とっさの発案でダメもとで、鈴木眞一教授を証人申請に加えたところ、国と県の代理人の息がとまるほどの、我が耳を疑う出来事が起きた--裁判所が「(1回の尋問しか申請しなかった原告に)鈴木証人を2回の期日に分けて尋問しては?」と振ってきたからだ。
裁判所の「ご乱心」に国と県は猛然と反発。鈴木証人採用の必要がないことを強調し、さらに裁判所が予定した5つの期日に鈴木氏は手術等の所用のため全て出廷できないと、猛反発満載の意見書を次々と提出し、原告も負けじとばかりに全面的に対決する反論書を提出。
 他方、「過剰診断論で鈴木氏は内心証言の機会を望んでいる」と踏んだ原告は真意確認のため鈴木氏本人に面談申込みの手紙を送ったものの「黙殺」され、ついで、電話も秘書を通じて取次を拒否されたため、一計を案じ、秘書が退社する時刻を見計らって電話したら、或る時、鈴木氏が受話器を取った。それが彼の運の尽きだった。慌てふためいて、
答えるなと言われています。すみません。断っていいと言われていますので、それ以上は申し訳ございません。
と、県から圧力がかかっていることを窺わせる言葉を答えてしまったからである。
これら当事者双方の激しい応酬は、被告側にとって鈴木証人がいかに不都合な証人であるかを赤裸々に物語るかっこうの舞台となり、裁判所の好奇心を一段と掻き立てた。
 とはいえ、国と県の猛反発を忖度する必要から、裁判所は証人採用の決定をずるずる引き延ばした。しかし、その間に、原告に鈴木氏に尋問する質問一覧表の作成を、県に質問一覧表に基づいて鈴木氏の陳述書の作成を命じた。質問一覧表は実諸刃の刃だった。下手に質問すると、事前に、原告の手の内を被告に知らせることになるからだ。思案の末、原告は、鈴木氏が答えようが答えまいが関係なく、本番のための前提事実として事前に彼に確認したいと思う項目を全部書き出し、本番なら数時間を要する詳細を極めた質問一覧表を作成、提出した。
この詳細な質問にまたしても反発した県は、猛然と
「(改めて)鈴木氏の証人申請は採用する必要性はない。ゆえに、彼の陳述書も作成する必要がなく、原告提出の質問項目一覧表にも答える必要がない」とちゃぶ台返しという最後の賭けに出た。しかし、裁判所は県の不服従に屈せず、鈴木氏の証人採用を正式決定、県に尋問の日程調整に協力するように要請。県はしぶしぶ応答し、難産の末ようやく202014日に証人尋問が決定。すると、このあと想定外の出来事が起きた。

 鈴木眞一氏が原告の質問一覧表にほぼ全てに回答してきたからである。その中には「医師の守秘義務」を理由にした症例数の回答拒否という回答すらあったが、元々症例数は特定の個人を識別する個人情報でないから回答義務を自ら表明するものであり、本番の尋問で活用できる宝が埋もれている情報だった。

 とはいえ、これは甲状腺がん外科医という専門家証人の反対尋問であり、原告弁護団にとって容易ならざる難問だった。
 そこで、一方で、本番の尋問時間だけの「瞬間」甲状腺がん外科医でよいから、これに可能な限り接近することをめざし、関係者から指導・アドバイスを受け甲状腺がんの専門知識を頭に叩き込んだ。他方で、鈴木氏の個人史を書き下ろす積りで、彼の過去の言動の記録を読みあさり鈴木氏以上に鈴木氏の言動を知り尽すことを心がけ、専門知識を縦軸、鈴木氏個人史を横軸にしてこの間に手にした個別な情報(ピース)からジクソーパズルとして組み立てて行った時、どうしても収まりのつかない異質なピースが出てくるのをあぶり出し、これ鈴木氏の言動の矛盾・破綻として本番追及することをめざした。
 さらに、こうした孤独な探索作業に活を入れるため、尋問の2週間前、福島市で開催された、県立医大主催の甲状腺検査に関する国際シンポに泊りがけで参加し、目の前で鈴木氏や甲状腺検査関係者たちの自信タップリのおぞましくもリアルな肉声や雰囲気をつぶさに味わい、尋問当日への闘志を駆り立てる糧とした。
 これらの準備作業の集大成が本番の反対尋問であった。


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