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2026年1月28日水曜日

【第179話】避難者追出し裁判1​.​9最高裁判決の理由書&多数意見&少数意見の対比表から見えてきたこと(26.1.27)

以下の表は、避難者追出し裁判1​.​9最高裁判決の上告受理申立ての理由書と多数意見と少数意見を対比したもの。
この対比だけからでもただちに次の重要な事実が判明するーー多数意見の正体、それは本裁判の実質的争点である「内掘県知事決定の違法性」について「上告不受理」=原判決を是認しただけで、実質的判断を何も示していないこと、その意味で、この争点について積極的な判断を初めて示したのが
三浦少数意見だということである。

上告受理申立て理由書(1)全文>PDF 多数意見
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争点

上告受理申立て理由書

多数意見

三浦少数意見

実体法

国際人権法の位置づけ

(1)、応急仮設住宅供与打切り問題は「現実の紛争事実に対して、法律から具体的な判断基準が直接引き出せない場合」すなわち「法の欠缺」状態にある。
(2)
、原発事故の救済に関して、「法の支配」「法律による行政の原理」が正しく機能するためには適用すべき「法律」が存在していることが大前提であるところ、福島原発事故発生後において、原発事故の救済に関して適用すべき「法律」は全面的な「法の欠缺」状態にあった。それゆえ、そこで実際に行われた行政裁量が、果して「法律」の枠内で行政庁に認められた適法な判断なのかどうかを判断するためには司法が「欠缺の補充」を積極的に行うことが求められている。
(3)
、最も重要な「欠缺の補充の法理」の1つが「法体系における序列論」つまり、法の欠缺が発生している当該法律の上位規範に着目して、「当該法律は上位規範に適合するように解釈される必要がある」という法の基本原理を応用し、「当該『法の欠缺』部分は上位規範に基づいて、なおかつこれに適合するように当該欠缺部分が補充される必要がある」という方法で補充を実行することである。
(4)
、本件においては法律の上位規範として憲法よりむしろ国際人権法が重要である。なぜなら、最上位に位置する憲法に定められている社会権の規定は本件に適用するには今なお抽象的すぎるきらいがあるのに対し、国際人権法(社会権規約11条1項や「国内避難に関する指導原則」など)は過去の様々な人権問題への取組みの中から社会権の規定の内容を具体的に豊かにしてきて、本件に適用するに相応しい具体的な規定が豊富に盛り込まれているからである。(理由書(1)40~57頁)

ノーコメント

1 国際約束等
(1)
経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約(以下「社会権規約」という。)111項は、締約国に対し、 自己及びその家族のための相当な食糧、衣類及び住居を内容とする相当な生活水準についての並びに生活条件の不断の改善についての全ての者の権利を認め、この権利の実現を確保するために適当な措置をとることを義務付けている。
(2)
国内避難に関する指導原則 (E/CN. 4/1998/53/Add.2) は、国内避難民を保護するための重要な国際的枠組みと認識され、 その保護を増加させるための効果的な方策をとる旨の国際社会の決意が表明されているところ (2005(平成17) 世界サミット(国際連合首脳会合) 成果文書132項参照)、同指導原則は、 災害により避難を余儀なくされた者を含む国内避難民について、国内当局は、 国内避難民に保護及び人道的援助を提供する一義的な義務及び責 任を有し、国内避難民は、これらの当局による保護及び人道的援助を要請し、及び受ける権利を有すること(原則3) 国内避難民は、移動の自由及び居住地の選択 の自由についての権利、自らの生命、安全、 自由若しくは健康が危険にさらされる可能性のある場所への強制的な帰還又は再定住から保護される権利、適切な生活水準に対する権利等を有すること (原則141518)、権限のある当局は、状況に関係なく、 及び差別することなく、 国内避難民に対し最低限、基本的な避難所及び住居等を提供し、これらの安全な利用を確保すること(原則18)、権限のある当局は、国内避難民が自らの意思で、安全に、尊厳を維持しつつ、自らの住居若しくは常居所地に帰還できるようにし、又は自らの意思で国内の別の場所に再定住できるようにする条件を整え、及びそのための手段を提供する、 一義的な義務及び 責任を有すること(原則28) 等を定めている。
(3)
本件事故の被災者の保護に関する関係法令の解釈適用については、 社会権規約及び国内避難に関する指導原則の趣旨を踏まえてこれを行うことが相当である(13~14頁)。

内掘決定の位置づけ

災害救助法施行令3条2項に基づき、被災県である福島県の知事が仮設住宅の提供の延長の有無を決定し、その決定内容に基づいて、東京都が、国の要請で管理する都下の国家公務員宿舎の仮設住宅の提供の事務処理を担当した。つまり、仮設住宅提供の打切りを決定した「行政庁の決断」は福島県知事であったことを福島県も東京都も認めた。その結果、もし福島県知事の仮設住宅提供打切りの決定が違法の場合、東京都の上記事務処理も違法、同決定が適法の場合、東京都の同事務処理も適法になるという影響関係にあった。この影響関係を前提に一審・二審裁判所は判決を下した。
(原告準備書面(2)第1、3、(1)など)

福島県知事決定が違法なものであるか否かは、上告人の占有権原の有無に影響を及ぼすものではない(4頁)。

従って、多数意見は福島県知事決定の違法性についてノーコメント=違法とも適法とも判断しない。

4 法令の解釈適用の誤り
被上告人知事は、 本件措置等を踏まえ、東京都知事に対し、区域外避難者について、平成294月以降に係る救助の応援を要請せず、東京都知事は、同年3月末日をもって上告人に対する応急仮設住宅の供与を終了した。 その際、 被上告人知事及び東京都知事が、 応急仮設住宅を使用する必要性に関し、 広域における住宅の供給状況等を踏まえ、上告人の具体的な事情を適切に考慮したことほうかがわれない。
国は、東京都知事による応急仮設住宅の供与に関する事務についても、その適正な処理を特に確保するため、適切と認める技術的な助言又は勧告等の関与をすることができる立場にある上、本件建物は、東京都知事が、国から国有財産使用許可を受けて、上告人に応急仮設住宅として供与するものであり、その使用許可と供与の期間は、同様に取り扱われるものであった。
以上によれば、上告人に対する応急仮設住宅の供与に関し、上告人に関する具体的な事情が適切に考慮されないまま、 平成293月末日をもって上記供与が終了したことは、国の関与の下に行われた被上告人知事及び東京都知事による上記供与に関する事務の処理によるものであるが、それらは、国の関与及び同意の下に行われた被上告人の本件措置等が、 社会通念上著しく妥当性を欠くものであって、各裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したことに起因するものというべきである。(24頁)

内掘決定の違法性

(1)、行政裁量の審査の方式として、司法が行政庁の判断に代わって自らあるべき政策決定を下す(判断代置方式)のではなく、あくまでも人権保障の観点から行政判断の結果およびその判断過程(「判断過程審査」方式)における政治的行政的な不均衡及び不備をチェックし、それらの均衡及び不備を是正するという限りで積極的に判断することが必要かつ適切である。

(2)、判断過程の過誤の具体論として事実認定の過誤があり、その事実認定の過誤のうちの筆頭が事実認定のための調査の過程において必要な調査を尽くしていない場合すなわち調査義務違反である(最高裁平成4年10月29日伊方原発事件判決参照)。

(3)、これはさらに行政手続の適正さという観点からもその過誤が問題となる。すなわち、福島県知事は、区域外避難者の命、健康、暮しに重大な影響を及ぼす「応急仮設住宅の供与の打切り」を決定するに当たっては、事前に、当事者である区域外避難者からヒアリングをして、彼等の実情、要望、今後の見通しについて十分な調査を踏まえた上で行うのが、本来の適正手続きのあり方であった。しかし、福島県知事はこうした適正手続きを一切実行しなかった。(理由書(1)63~65頁)

 

(4)、避難者住まいの権利裁判(関連訴訟と略)の2025年10月20日の進行協議において、関連訴訟原告らが主張した「県知事決定にあたって県知事が考慮すべき事項として以下の8つの考慮事項の具体的な事実がある」に東京地方裁判所が注目し、関連訴訟被告(福島県)に対しその認否を求めた。

①.区域外避難者の避難先での生活再建の現状と今後の見通しについて、当事者の区域外避難者からヒアリングした情報             

②.もし仮設住宅の提供打切りを決定した場合、それが区域外避難者の生活再建にどのような悪影響を及ぼすのかについて、当事者の区域外避難者からヒアリングした情報

③.仮設住宅の提供打切りを決定する場合、代替住居の提供についてのどのような検討(当事者の区域外避難者からヒアリングも含めて)をおこなったのか

④.そもそも国家公務員宿舎から区域外避難者を退去させる必要があったのか

⑤.どのような目的のために区域外避難者の退去が必要とされたのか

⑥.退去の必要性が認められるとしても、その必要性と区域外避難者が国家公務員宿舎に居住し続ける必要性との比較衡量が不可欠であるので、この比較衡量のための調整手段・方法(例えば、県外に復興公営住宅を建設する)について、どのような調査・検討(当事者の区域外避難者からヒアリングも含めて)を行なったのか‥‥(中略)

すると、翌11月12日の弁論期日で、福島県はこれに対しすべて争う旨の答弁をした上で、かつて裁判所の釈明に応えて主張した以下の3つの考慮要素さえ考慮すれば足りることを重ねて主張した。

①.国との協議状況

②.災害公営住宅の整備状況

③.除染作業の進捗状況

しかし、一方で、関連訴訟原告らが主張する上記の8つの事項は申立人らをはじめ県外に避難した区域外避難者にとって、いずれも生存の存亡にも関わる切実な問題に関するものばかりであり、従って、仮設住宅の提供打切りの県知事決定に当たっては、打切りにより仮設住宅から退去を余儀なくされる申立人ら区域外避難者の人権が侵害されることがないように十分な考慮が求められるのが当然であり、その意味で、これら8つの事項は県知事が真摯に吟味検討すべき考慮事項であることは当然と思われたところ、関連訴訟被告(福島県)は考慮事項であることを否認し、真っ向から対立する訴訟状態にある。(理由書 ()の補充書(2)2~4頁)

ノーコメント

2 災害救助法等の法令の解釈
(1)
災害対策は、被災者の年齢、性別、障害の有無その他の被災者の事情を踏まえ、その時期に応じて適切に被災者を援護すること等を基本理念とし、国は、上記基本理念にのっとり、国民の生命、身体及び財産等を災害から保護する使命を有することに鑑み、 組織及び機能の全てを挙げて防災に関し万全の措置を講ずる責務を有し、また、都道府県は、上記基本理念にのっとり、住民の生命、身体及び財産等を災害から保護するため、関係機関及び他の地方公共団体の協力を得て、当該都道府県の地域に係る防災に関する計画を作成し、法令に基づきこれを実施すること等の責務を有する(災害対策基本法2条の25号、 31項、 41項等)
(2)
災害救助法 (平成30年法律第52号による改正前のものをいう。以下同じ。)は、災害に際して、国が地方公共団体等及び国民の協力の下に、応急的に、必要な救助を行い、被災者の保護と社会の秩序の保全を図ることを目的とするところ(1)、この救助は、国が本来果たすべき役割に係る事務であるが、 同法により、都道府県知事が、 当該災害により被害を受け、現に救助を必要とする者に対して行うものとされ、 その事務は、 地方自治法291号に規定する第1号法定受託事務とされる (同法2条、 17) そして、 災害救助法41項各号に掲げる救助について、救助の程度、 方法及び期間に関し必要な事項は、政令で定めるものとされ(同条3) 災害救助法施行令(平成30年政令第359号による改正前のものをいう。以下同じ。)は、救助の程度、方法及び期間は、 応急救助に必要な範囲内において、 内閣総理大臣が定める基準に従い、 あらかじめ、 都道府県知事がこれを定め、内閣総理大臣が定める基準によっては救助の適切な実施が困難な場合には、都道府県知事は、 内閣総理大臣に協議し、その同意を得た上で、 救助の程度、方法及び期間を定めることができるものとする (3)
災害救助法による救助のうち、 応急仮設住宅の供与 (同法411) は、 応急仮設住宅の供与(同法411)は、 「住家が全壊、全焼又は流出し、 居住する住家がない者であって、自らの資力では住家を得ることができないもの」 を対象とするところ ( 「災害救助法による救助の程度、方法及び期間並びに実費弁償の基準」(平成25年内閣府告示第228 (平成30年内閣府告示第51号による改正前のものをいう。以下「平成25年内閣府告示」という。) 22))、原子力災害において、住家は失われていないものの、放出された放射性物質により汚染されている居住地からの避難を余儀なくされている被災者は、 住家が失われた者に準じて、 その対象となるものと解される。
応急仮設住宅を供与できる期間は、 建築基準法(平成30年法律第67号による改正前のものをいう。以下同じ。)853項又は4項に規定する期限までとされ (平成25年内閣府告示 22) 最長で23か月である。 しかし、 著しく異常かつ激甚な非常災害であって、 当該非常災害に係る応急仮設住宅の入居者の居住の安定に資するための措置を講ずることが特に必要と認められるものが発生した場合において、当該非常災害が特定非常災害として政令で指定されたときは、 建築基準法235号の特定行政庁は、被災者の住宅の需要に応ずるに足りる適当な住宅が不足するため同法854項の期間を超えて当該被災者の居住の用に供されている応急仮設建築物である住宅を存続させる必要があり、かつ、 安全上、防火上及び衛生上支障がないと認めるときは、更に1年を超えない範囲内において同項の許可の期間を延長することができ、 当該延長に係る期間が満了した場合において、これを更に延長しようとするときも同様とされている(特定非常災害の被害者の権利利益の保全等を図るための特別措置に関する法律 (平成30年法律第67号による改正前のものをいう。以下「特定非常災害特措法」という。) 2条、 8)。民間賃貸住宅を借り上げて供与するなど適切な方法により供与する応急仮設住宅についても、上記に準じて取り扱われるものと解され、都道府県知事は、 内閣総理大臣に協議し、その同意を得た上で、 応急仮設住宅を供与できる期間を延長することができる(災害救助法施行令32)
本件事故に係る災害は、著しく異常かつ激甚な非常災害であって、当該非常災害に係る応急仮設住宅の入居者の居住の安定に資するための措置を講ずること等が特に必要と認められるものとして政令で指定された (東日本大震災についての特定非常災害及びこれに対し適用すべき措置の指定に関する政令(4年政令第203号による改正前のものをいう。) 1条、2)
(3)
 災害救助法による応急仮設住宅の供与は、 災害により居住する住家を失い自らの資力では住家を得ることができない被災者に対し、応急的に住宅を供与することにより、当該被災者の居住の安定に係る利益の保護等を図るものと解される。そして、上記供与は、その間、できる限り早期に安定した住宅の確保が図られるよう、被災者の住宅の需要を的確に把握するとともに、その需要に応ずるに足りる適当な住宅を確保し、 十分な情報を提供するなど、 必要な支援を行うことを前提にするものと解される。
また、特定非常災害特措法8条等により応急仮設住宅を供与できる期間を延長する措置は、応急仮設住宅の入居者の居住の安定に資するための措置を講ずることが特に必要と認められる特定非常災害において、被災者の住宅の需要に応ずるに足りる適当な住宅が不足するため、所定の期間を超えて、当該被災者の居住の用に供されている応急仮設住宅を使用する必要がある場合に、上記措置により、当該被災者の居住の安定に係る利益の保護等を図るものと解される。
都道府県知事が、 内閣総理大臣に協議しその同意を得た上で、応急仮設住宅を供与できる期間を延長する措置についての都道府県知事及び内閣総理大臣の各判断は、被災者の住宅の需要に応ずるに足りる適当な住宅が不足する状況その他災害における救助等に関する専門的、技術的な知見を要すること等に鑑み、都道府県知事及び内閣総理大臣の合理的な裁量に委ねられるものと解される。 また、 被災者の住宅の需要に応ずるに足りる適当な住宅が不足する状況その他の事情を考慮して、 一定の要件を定め、一律に、これに適合するものに係る上記期間を延長する一方で、これに適合しないものに係る上記期間を延長しないことは、 上記各裁量の範囲内において許されるものと解される。
もっとも、災害により居住する住家を失い自らの資力では住家を得ることができない被災者は、それぞれ、 被災及び避難の状況、 避難の継続又は帰還についての意向、家族関係・健康状態・就労状況その他生活の状況、安定した住宅の確保に関する事情等は様々であり、当該被災者の居住の用に供されている応急仮設住宅を使用する必要性も大きく異なる。
取り分け、著しく異常かつ激甚な非常災害であって、 当該非常災害に係る応急仮設住宅の入居者の居住の安定に資するための措置を講ずることが特に必要と認められる特定非常災害においては、多数の被災者の避難が広域かつ長期に及ぶなどして、被災者の安定した住宅の需要が被災地域及びその周辺 (以下「被災地域等」という。)に限られないこと等にも鑑みると、 所定の期間を超えて応急仮設住宅を使用する必要性に関し、被災地域等における住宅の供給状況等を重視して一律に判断することは困難である。
被災者にとって、生活の基盤を失って避難するという経済的にも精神的にも困難な状況の下で、その居住の安定に係る利益は、生存の基礎であって個人の尊厳及び幸福追求に関わる。 社会権規約及び国内避難に関する指導原則の趣旨を踏まえ、災害対策基本法の定める基本理念及び責務にも鑑みると、 応急仮設住宅を供与できる期間を延長する措置についての判断に当たっては、応急仮設住宅を使用する必要性に関し、広域における住宅の供給状況等を踏まえ、 当該被災者の具体的な事情を適切に考慮して判断しなければならないものと解される。
また、上記期間を延長する措置に関し、 一定の要件を定め、一律に、これに適合するものに係る上記期間を延長する一方で、これに適合しないものに係る上記期間を延長しないこととするに当たっては、上記要件に適合しないものについて、当該被災者の具体的な事情を考慮するまでもなく、 応急仮設住宅を使用する必要がないことが、合理的な根拠に基づいて認められなければならないものと解される。
3
応急仮設住宅の供与に関する措置についての判断の瑕疵
(1)
本件建物は、 被上告人知事から災害救助法に基づく救助を行うことについての応援の要請を受けた東京都知事が、国から国有財産使用許可を受けた上で、上告人に対し、応急仮設住宅として供与したものである。
被上告人知事は、内閣総理大臣の同意の下に、応急仮設住宅を供与できる期間に関し、2年を超えて1年ごとに上記期間を延長していたところ、 被上告人(知事) は、平成276月、 (内閣総理大臣) に協議しその同意を得た上で、平成29 3月末日まで上記期間を延長するとともに、 区域外避難者については、同日をもって応急仮設住宅の供与を終了し、同年4月以降は、 災害救助法に基づく救助から新たな支援策へ移行していくこととした(以下、この措置を「本件措置」という。)。その後、被上告人知事は、内閣総理大臣に協議しその同意を得た上で、避難指示区域からの避難者(以下「区域内避難者」という。)について、 平成294月以降も上記期間を延長することとした(以下、この措置と本件措置を併せて 「本件措置等」という。) 。本件措置等は、 応急仮設住宅を供与できる期間に関し、 平成293月末日までは、全ての避難者に係る上記期間を延長するとともに、同年4月以降は、本件事故当時の被災者の居住地が避難指示区域に含まれるか否かを基準として、一律に、区城内避難者に係る上記期間を延長する一方で、 区域外避難者に係る上記期間を延長しないこととするものと解される。
原審が適法に確定した事実関係によれば、 本件措置等については、本件事故から平成293月までに約6年が経過し、 その間、 福島県内の各市町村においては除染が実施され、 災害公営住宅の整備、 公共インフラの復旧等が進んでいること、応急救助という災害救助の基本的な考え方、 阪神・淡路大震災の例、 宮城県及び岩手県において全て一律に供与の期間を延長することについて国から厳しい見方が示され、平成294月以降の延長について国の同意を得ることが極めて困難となったこと等の事情が考慮された。
また、応急仮設住宅の供与に代わる新たな支援策は、 借上げ住宅等から福島県内の恒久的な住宅への移転費用の支援、 低所得世帯等に対する民間賃貸住宅の家賃の支援、避難者のための住宅確保 (公営住宅等)への取組みなどの検討を進めることを新規・重点施策とし、 生活再建支援策の継続・拡充も実施していくこととされた。そして、被上告人は、各都道府県に対し、住宅確保等についての協力を依頼し、東京都は、都営住宅公募に当たり専用枠を設定するなどした。 また、 被上告人は、前記のとおり、 セーフティネット契約の締結等の措置を講じた。
(2)
ア放射線障害防止の技術的基準に関する法律(以下「放射線障害防止法」という。)は、法令に基づく放射線障害の防止に関する技術的基準の斉一を図ることを目的とし(1条、22)、上記技術的基準を策定するに当たっては、放射線を発生する物を取り扱う従業者及び一般国民の受ける放射線の線量をこれらの者に障害を及ぼすおそれのない線量以下とすることをもって、その基本方針としなければならないものとした上で (3) 放射線障害の防止に関し学識経験のある者のうちから任命される委員で組織する放射線審議会を設置し (4条、 72)、関係行政機関の長が上記技術的基準を定めようとするときは、同審議会に諮問しなければならないものとする (6)。放射線審議会は、国際放射線防護委員会 (ICRP)1990(平成2) の勧告を踏まえ、 公衆の被ばくに関する限度に関し、 実効線量については年1mSvとするなどとして、これを規制体系の中で担保することが適当であるとし(平成10610日同審議会決定「ICRP1990年勧告 (Pub. 60)の国内制度等への取入れについて (意見具申))、関連する法令の規定は、これに従って技術的基準の斉一が図られている。
避難指示区域は、原子力災害対策特別措置法に基づき、 住民の避難や立入りの制限等に関する指示がされた区域であるが、 その設定及び解除については、住民が1年間に被ばくする放射線量が20mSvを超えるか否かが、一つの基準とされている(平成231226日原子力災害対策本部決定 「ステップ2の完了を受けた警戒区域及び避難指示区域の見直しに関する基本的考え方及び今後の検討課題について」等)
上記避難等に関する指示は、原子力災害対策本部長が、 緊急事態応急対策等を的確かつ迅速に実施するため特に必要がある措置として、地方公共団体の長に対して行ったものであり(平成24年法律第47号による改正前の原子力災害対策特別措置法203項、 同改正後の同条2)、その一つの基準とされる上記放射線量は、法令に基づく放射線障害の防止に関する技術的基準ではなく、 公衆の被ばくに関する限度について、 放射線障害防止法3条の定める基本方針の下に技術的基準の斉一が図られたものでもない。
「平成23311日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物質による環境の汚染への対処に関する特別措置「法」 (以下「放射性物質環境汚染対処法」という。)は、本件事故により放出された放射性物質(以下「事故由来放射性物質」という。)による環境の汚染が生じていることに鑑み、 上記汚染が人の健康又は生活環境に及ぼす影響を速やかに低減することを目的として、事故由来放射性物質により汚染された廃棄物の処理及び土壌等の除染等の措置等について規定する。
そして、放射性物質環境汚染対処法に基づく土壌等の除染等の措置は、除染特別地域(環境大臣が同法251項に基づき指定する地域をいう。以下同じ。)及び汚染状況重点調査地域(環境大臣が同法321項に基づき指定する地域をいう。以下同じ。)において実施されるが、このうち、 汚染状況重点調査地域の指定及び同地域内の除染実施区域の指定に係る「環境省令で定める要件」 (同法321項、361)については、その地域又は区域の追加被ばく線量が年間1mSv未満であることを基準として、これを空間線量率に換算し、1時間当たり0.23μSv未満の放射線量と定められている (汚染廃棄物対策地域の指定の要件等を定める省令(平成23年環境省令第34) 4条、5)
汚染状況重点調査地域の指定等の要件とされる上記放射線量は、法令に基づく放射線障害の防止に関する技術的基準であり、放射線障害防止法6条に基づく環境大臣の諮問に対する放射線審議会の答申 (平成231213日付け)に基づいて定められている。 これは、公衆の被ばくに関する限度について、同法3条の定める基本方針の下に技術的基準の斉一が図られたものということができる。
エ 環境大臣は、 平成242月までに、 福島県の41市町村(いわゆる浜通り及び中通りの全ての市町村と会津地方の一部の町村)の全域を除染特別地域又は汚染状況重点調査地域に指定したが、 そのうち、 平成293月末日までにその指定を解除したのは5町村にとどまる。 この時点において、 福島市 郡山市 いわき市及び南相馬市(同市は、本件事故当時における上告人の居住地である。)を含む36 市町村に及ぶ広範囲の地域は、依然として、 環境大臣が、 法令に基づき、その地域内の事故由来放射性物質による環境の汚染が著しいと認める地域、又はその環境の汚染状態が上記環境省令で定める要件に適合しないと認め若しくはそのおそれが著しいと認める地域であったということができる。
平成293月までに、福島県内の各市町村において除染が実施され、災害公営住宅の整備、公共インフラの復旧等が進んでいたとしても、上記のような環境の汚染状態が続いている居住地から避難している被災者にとって、その避難の継続は、放射線障害防止法3条の定める基本方針に照らし、自らの受ける放射線量が障害を及ぼすおそれのないようにするという点で、法令に基づく合理的な根拠があるというべきである。
もとより、 区域外避難者は、自らの意思で元の居住地等に帰還することもできるが、避難を継続するか帰還するかは、ひとえに個人の選択の問題である。 本件事故により放出された放射性物質が広く拡散し、当該放射性物質による放射線が人の健康に及ぼす危険について科学的に十分に解明されたとはいえない状況において (東京電力原子力事故により被災した子どもをはじめとする住民等の生活を守り支えるための被災者の生活支援等に関する施策の推進に関する法律1条参照)、法令に基づく合理的な根拠をもって避難の継続を選択する者について、区域内避難者と異なり、平成294月以降は、当該被災者の具体的な事情を考慮するまでもなく、 一律に、応急仮設住宅を使用する必要性を否定すべき理由はない。
(3)
災害救助法による応急仮設住宅の供与は、現に救助を必要とする被災者に対し、 応急的に、必要な救助として行うものであるが、この「応急的」という概念は、救助の必要性に関する当該被災者の具体的な事情を離れた画一的な期限を意味するものではない。 取り分け、 応急仮設住宅の入居者の居住の安定に資するための措置を講ずることが特に必要と認められる特定非常災害において、所定の期間を超えて応急仮設住宅を使用する必要性についての判断に当たり、応急的救助という考え方を重視して、当該被災者の具体的な事情を適切に考慮しないことは、むしろ、 特定非常災害特措法等の趣旨に反するというべきである。
なお、一般に、法令上 「応急」という用語に係る措置は、その規定の趣旨を踏まえ必要に応じ長期に及ぶことが稀ではない。現に、区域内避難者については、平成294月以降も、 応急仮設住宅を供与できる期間が延長され、 福島県大熊町及び双葉町からの避難者については、 現在も、 応急仮設住宅の供与が続いている。
  阪神・淡路大震災の例並びに宮城県及び岩手県の取扱いとの比較についても、区域外避難者が、区域内避難者と異なり、当該被災者の具体的な事情を考慮するまでもなく、応急仮設住宅を供与できる期間の延長を一律に否定する理由となるものではない。
ウ 応急仮設住宅の供与に代わる新たな支援策については、セーフティネット契約等が平成31331日までの2年間に限定され、公営住宅の公募における専用枠等もその入居が確保されるものではないなど、 上記支援策によって、 必ずしも、安定した住宅を確保できるとはいえない。これらも、区域外避難者について、区域内避難者と異なり、当該被災者の具体的な事情を考慮するまでもなく、 応急仮設住宅を供与できる期間の延長を一律に否定する理由となるものではない。
(4)
被上告人知事が災害救助法2条により行う救助は、地方自治法291号に規定する第1号法定受託事務であり(災害救助法17)、国が本来果たすべき役割に係るものであって、国においてその適正な処理を特に確保する必要があるものである。国(内閣総理大臣) は、 被上告人知事による応急仮設住宅の供与に関する事務について、その適正な処理を特に確保するため、適切と認める技術的な助言又は勧告等の関与をすることができる立場にある (地方自治法245条の41項等)
また、被上告人知事が、 応急仮設住宅を供与できる期間を延長する措置をとるに当たっては、内閣総理大臣に協議しその同意を得る必要があるから (災害救助法施行令32)、その同意が得られない限り、 上記措置をとることができない。そして、本件措置等において、 平成293月末日までは、 全ての避難者に係る上記期間の延長について上記同意が得られたが、同年4月以降は、上記期間の延長について上記同意を得ることが極めて困難となっていたことから、この点に関する協議を経て、区域内避難者と区域外避難者を一律に区別して取り扱い、区域内避難者に係る上記期間の延長について上記同意がされたものということができる。
以上によれば、本件措置等は、 (内閣総理大臣)の関与と同意の下に被上告人知事が行ったものということができる。
(5)
以上のとおりであり、本件措置等において、 応急仮設住宅を供与できる期間に関し、平成294月以降は、本件事故当時の被災者の居住地が避難指示区域に含まれるか否かを基準として、一律に、区域内避難者に係る上記期間を延長する一方で、区域外避難者に係る上記期間を延長しないことについては、同月以降は、区域外避難者について、 当該被災者の具体的な事情を考慮するまでもなく、 応急仮設住宅を使用する必要がないことが、合理的な根拠に基づいて認められるものでないことは明らかである。
避難先での生活の継続を望む区域外避難者が数多く存在する状況において、本件措置等は、応急仮設住宅の使用を必要とする区域外避難者の居住の安定に係る利益等を損なうという点で、本質的な瑕疵を有するものであったといわざるを得ない。
そうすると、 平成294月以降に係る応急仮設住宅の供与に関し、 国の関与及び同意の下に行われた被上告人の本件措置等は、 社会通念上著しく妥当性を欠くものと認められ、各裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものというべきである(14~24頁)。

手続法

原告適格

(1)、問題の所在――本裁判の最大の謎――
本来、「第三者に使用させるため」に国から本件各建物の使用許可を得るものであるのに(現実にも、福島原発事故発生後、全国各地の自治体が国からこのような使用許可を得て、避難者に供与した)、今回は、これとは正反対の「第三者に使用させない(=退去させる)ため」に国から本件各建物の使用許可を得て、これを根拠に債権者代位権を行使するのは、債権者代位権の本来の用法もしくは転用として許された範囲を逸脱した違法なものではないかという問題に直面せざるを得ない。

問題は、本件の相手方の被保全権利の内容である。それは相手方が国から本件各建物の使用許可を得た内容によって決められる。すなわちその内容とは「申請書に記載の住宅及びこれに入居する者の便益のために供しなければならない」(甲12許可書2条)というものである。上記申請書(甲11)1頁の「2 使用しようとする理由」に、「以下のいずれかに該当する世帯の住宅の用に供するため」と書かれていて、2番目が「(2)県との使用貸付契約を締結していない世帯(未契約世帯)」である。この世帯については、別紙の「2 未契約世帯」のNo2及びNo4に本件各建物が表示されている。これらの記載から明らかなように、本件各建物については、相手方は本件各建物に入居する申立人らの住居の用に供するために使用許可を申請したのであり、国はその申請を認め、「本件各建物に入居する申立人らの便益のために供しなければならない」としたのである。
従って、もし福島県が債権者代位権を行使するのであれば、それは「本件各建物に入居する申立人らの便益のために供しなければならない」という債権を保全するためである。それにもかかわらず、「本件各建物を申立人に使用させない(退去させる)ために」債権者代位権を行使するのは明らかに本来の用法もしくは転用として許された範囲を逸脱し、違法なものと言わざるを得ない。
(理由書(1)72~73頁ほか理由書(2)、補充書(1)

(1)、被上告人が上記建物明渡請求権の代位行使をすることができると した原審の判断は、結論において是認することができ、原判決に所論の違法はない。原審の判断は、所論引用の判例(最高裁昭和28 () 812号同29924日第二小法廷判決・民集 891658)と抵触するものではない。

(2)、裁判官岡村和美及び同尾島明の共同意見
1
私たちは、被上告人が債権者代位権に基づいて国の上告人に対する本件建物の明渡請求権を行使することはできない旨主張する論旨には理由がないと考える。 その理由は、次のとおりである。

2 原審が適法に確定した事実によれば、 (1) 被上告人は、本件建物の応急仮設住宅としての供与期間終了後、本件建物以外に住宅の確保が見込めないために継続入居の要件に該当すると判断した世帯の住宅の用に供することを使用理由として、国に対して本件建物について国有財産使用許可申請を行い、国は、その申請に基づき国有財産使用許可をしている、(2)その国有財産使用許可においては、上告人に対して本件建物を使用させることが本件建物の指定用途とされているわけではない、 (3) 上告人は本件建物を占有しているが、被上告人と上告人の間には本件建物の使用に関するセーフティネット契約が締結されておらず、上告人は本件建物の占有権原を喪失しているというのである。 上告裁判所は、これらの原審確定事実に拘束されるところ、上記の事実関係の下においては、被上告人は上告人に対し債権者代位権に基づいて本件建物の明渡しを求めることができるというべきである(最高裁昭和28 () 812号同29924日第二小法廷判決・民集 891658頁参照) 。論旨は債権者代位権の行使を基礎付ける原審の上記認定が誤っていることを前提とするものであって、採用することができない。

1 被上告人の上告人に対する本件建物の明渡請求は、 被上告人が、 国に対して有する本件建物の使用に関する債権を保全するため、 国の上告人に対する所有権に基づく建物明渡請求権を代位行使するものである。
被上告人は、平成292月、 区域外避難者について応急仮設住宅の供与を終了するに当たり、避難者の住宅確保のための更なる方策として、各都道府県知事が避難者に応急仮設住宅として供与している国家公務員宿舎について、 被上告人が、国から使用許可を受けることを前提として、住宅確保の見込みの立っていない避難者のうち一定の条件を満たした者との間で、セーフティネット契約を締結し、貸付料の支払を受けて、上記宿舎を提供することとした。
被上告人が本件建物について国から受けている本件使用許可は、平成29年以降、毎年4月1日から翌年331日までを使用期間とするものであるところ、平成2941日から平成31331日までの使用に係る本件使用許可は、上告人が本件建物の継続入居を希望していることを踏まえ、セーフティネット契約の締結を前提としていたものと解される。 そして、上告人が同契約の締結に応じないまま、その貸付期限である同日を経過したため、被上告人が上告人との間で同契約を締結する余地はなくなったが、 その後も、被上告人は、上告人が継続入居していることを前提として、 毎年、41日から翌年331日までを使用期間とする本件使用許可を受け、国に対し使用料を納付している。
原審において、上告人が本件建物から退去した場合に、 被上告人が他の被災者に本件建物を使用させるための新たな貸付に関する制度や仕組みは認定されておらず、その存在はうかがわれない。 被上告人も、上告人らの意向の下に国から本件使用許可を受けた立場として適切に明渡しを求める等の対応をしていくために許可申請を行っている旨の主張をしており、本件使用許可に至る経緯等に照らしても本件使用許可が、 被上告人が上告人以外の被災者に本件建物を使用させることを前提とするものとは解されない。

そうすると、本件使用許可は、継続入居している上告人が退去するまでの間、上告人の住宅の用に供することを目的とするものと解され、それ以外の用途を有するものということはできない。
原審は、国有財産使用許可上、被上告人知事が使用を認めていない上告人に対し本件建物を使用させることが指定用途とされているとはいえないものとする。しかし、その一方で、 原審は、本件使用許可に関し、その使用は、 継続入居の要件に該当すると判断した世帯の住宅の用に供する目的に限定され、 それ以外の用途に供してはならないものとしており、本件建物について、上告人以外に継続入居の要件に該当する世帯はあり得ないから、上告人の住宅の用に供する目的を否定することは、論理的に矛盾し不合理である。
2
被上告人の上告人に対する本件建物の明渡請求は、被上告人が、国に対して有する本件建物の使用に関する債権を保全するため、 国の上告人に対する建物明渡請求権を代位行使するものであるところ、 その被保全債権は、本件使用許可に基づくものであるから、上告人の住宅の用に供することができる状態にすることを求める債権であると解される。
そうすると、上告人が本件建物の居住を継続している限り、被上告人の被保全債権は実現しており、国が上告人に対し建物明渡請求権を行使しないことが、 被保全債権の実現を妨げるという関係にもないから、上記建物明渡請求権の代位行使を基礎づける原告適格に関し、 被保全債権を保全する必要性を認めることはできない。
原審は、被上告人が占有権原を有しない占有者に対し明渡しを求めることは、本件建物につき国から使用許可を受けている被上告人の権利であるとともに国に対する義務でもあるとして、 上記権利を行使し義務を果たすために、国の上告人に対する明渡請求権を代位行使することができるものとしている。
しかし、被上告人の国に対する義務が債権者代位権の原告適格を基礎づけるものでないことは明らかである。 また、 仮に、 被上告人が国との関係で上告人に対し明渡しを求めるべき立場にあり、国に対しその協力を求める債権を有すると考えるにしても、国が上告人に対し建物明渡請求権を行使しないことが、 上記債権の実現を妨げるという関係にもない。 このような債権者代位権の行使は、債権者代位制度の目的を逸脱するものというべきである。
3
以上のとおりであり、 被上告人は、上告人に対する債権者代位権に基づく建物明渡請求訴訟の原告適格を有しないから、 原判決中、 被上告人の上告人に対する建物明渡請求に関する部分を破棄し、同部分につき第1審判決を取り消し、被上告人の訴えを却下するのが相当である(11~13頁)。

 

2026年1月20日火曜日

【第178話】「我ここに立つ。これ以外に仕方がない」の決断の中で書かれた三浦少数意見(26.1.20)

  原発避難者追出し裁判2026年1月9日言渡しの最高裁判決全文>こちら

      多数意見>


   三浦守少数意見>全文


 以下は、仙台のいずみニュースレターへ寄稿した1.9避難者追い出し裁判最高裁判決に対するコメントです。

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「我ここに立つ。これ以外に仕方がない」の決断の中で書かれた三浦少数意見

1、僭越ですが、311原発事故を経験したあと、ユダヤ教徒になってもいいと思った。モーセなど旧約聖書に登場する預言者たちに震撼させられたから。
福島の子どもたちの避難を求める「ふくしま集団疎開裁判」は出エジプトのモーセが念頭にあった。
原発事故の救済を求める訴訟は何度も起こされたが、その都度惨敗し、連敗を重ねた。
避難者を仮設住宅から追出す今回の裁判もそうだった。避難者の訴えに全く耳を傾けないので、一審と二審の裁判官の交代(忌避)を求めた5回に及ぶ申立てはことごとく無視され、まともな審理を受けられないまま全面敗訴の判決が続いた。
それは311後に人権侵害のゴミ屋敷と化した日本社会に相応しい暗黒裁判だった。
その闇の中で、2年前、私自身の過去を振り返り、人権法律家として完全失格だったことを知り、新米法律家として出直した。それが「政治・政策から人権にシフト」し、「ジワジワと人権保障を1ミリでも前進させるための法理論の構築」に全力を注ぐこと――その最初が今回の裁判で最高裁に提出する上告受理申立て理由書(>全文)の作成だった。
今までは、権力のイヌとなった最高裁につばを吐き、断罪する書面しか書けなかった。今度からつばを吐くのをやめ花を盛ろうと思った。
どの最高裁判事も国家権力の重圧、プレッシャーの中にいて、彼らに国策に逆らう避難者の声に耳を傾けさせるのは至難の技だが、だが、ルターの「我ここに立つ。これ以外に仕方がない」程ではなくても、最高裁判事もまた彼らなりに判決を下す直前、「暗闇の中の命がけの決断」の瞬間に立つ。その時、彼らが勇気ある決断を下せるようにそっと背中を押したい、そう願って彼らも賛成せずにはおれない命題からスタートして正しく論を展開しようと心がけたのが今回の理由書だった。それはソクラテスの問答(対話)にならった最高裁に宛てたラブレターだった。

2、その理由書の冒頭は、
本裁判の特徴を一言で言い表わすと、それは原発事故の救済の法律が存在しないという「真空地帯」で災害弱者の基本的人権が問われた裁判である。その本裁判に対して避難者らが最高裁に望むこと、それは司法が一歩前に出ることである。

そこで「司法が一歩前に出ること」とは何か。
それは《司法は一歩前に出て積極的に審査すべきであるとしても、その趣旨はあくまでも人権保障という法的観点から人権侵害の審査を行なうことであって、それ以上、政策の当否といった政策論争の審査ではない》ことを自覚することである。

本裁判の避難者とは何者か。
それは《彼らは災害弱者である。彼らはもともと福島原発事故以前から社会的、経済的弱者に属する人たちであったところ、福島原発事故のあと政府が勝手に線引きした強制避難区域の網から漏れ、谷間に落ち、本人には何の責任もないのに、たまたま谷間に落ちてしまった。その結果、政府により救済されない中を、放射能のリスクから命をかけて「子どもを守る」或いは「自分や家族を守る」と決断して自主避難を選択し、仮設住宅の提供以外に国と相手方から真っ当な生活再建の支援もない中を、この間ずっと、慣れない都会の中、自力で努力し続けてきた人たちである。このように過去に経験したことのない「さ迷える市民」にされた彼らの過酷な現実を踏まえて、彼らの救済について、最高裁みずからが原発事故の救済の法律が存在しないという法の穴埋めを真摯に実行すること、それが彼らの切なる願いである。
その上で、次の通り締めくくった。
本裁判で避難者らが最も望んだことは、自分たちを金銭で救済せよと求めているのではなく、これは人間の命、健康に関わる最も重要な基本的人権の問題である、だから、福島県による人権侵害を何としてでも是正して欲しい。今月に福島県がやった仮設住宅の強制執行を含め、この間に福島県により避難者らが受けた精神的苦痛は筆舌に尽くし難く、その苦痛はあくまでも避難者らが受けた人権侵害を回復する中でしか癒されない。上告をした避難者らのこの真意を最高裁は真摯に受け止めて、「個々の孤立した少数者である災害弱者の地位に落とされ、苦しみの中で救いを求めている人たちの基本的人権」の問題を積極的に審査して欲しいと切に願うものである。そして、最高裁が「欠缺の補充」を実行するにあたっては、とりわけ国際人権法が明らかにした「国内避難民の人権」という観点から真摯に実行すること、それが避難者らのもうひとつの切なる願いである。

3、すると、これまで殆どの上告受理申立て事件を門前払いしてきた最高裁は、昨年暮れ、避難者の上告を門前払いせず、避難者の上告理由(福島県知事の住宅提供の打切りの違法性)に判断を示すと応答してきた。
これは青天の霹靂だった、311以来、原発事故の救済について固く閉ざしていた司法がいま初めて扉を一歩開いた瞬間だったから。
1月9日、その判断を示された。
結論は上告棄却。
その理由について多数意見は上記上告理由には応答する必要がないからと避難者の申立てを完全にスルーし黙殺した。
これに対し、三浦少数意見は100%応答して、避難者の申立てを全面的に認めた――第1に災害救助法などの解釈にあたっては国際人権法に基づいてこれを行なうべし、第2に区域外避難者について彼らの具体的な事情を考慮せずに、 応急仮設住宅を使用する必要がないと判断することは是認できない、避難先での生活の継続を望む区域外避難者が数多く存在する状況において、仮設住宅の提供を打切った福島県知事決定は避難者の居住の安定に係る利益を損なうもので本質的瑕疵を有するから、社会通念上著しく妥当性を欠き、裁量権の逸脱濫用にあたり、違法であると。

4、これに対し、こう言う人が必ずいる――三浦意見がたとえどんな素晴らしくてもしょせん少数意見、負けたことには変わりないと。
その通りである。しかし、人権運動はいつも少数者の声から始まる。そして人権運動は少数者の声がその声をあげた瞬間にその声がどう評価されたかではなくて、その声に(たとえ時間がかかろうが)その後、周りの市民がどう反応したかで決まり、さらにその評価も関が原の決戦みたいな一発勝負ではなくて、long and winding roadのジグザグの漸進的なプロセスである。
この人権運動の実相に目を向けるとき、今回の少数者の声である三浦少数意見がどれほど重要であるか、多数意見の側に三浦少数意見が放った輝きを否定・批判するような反論がひとつも書けなかったことも含めて、これは、311後の人権侵害のゴミ屋敷に化した日本社会を人権屋敷に再建する突破口となるような、原発事故の救済に関する人権宣言のスタートとなるような画期的な最高裁判決である。

この判決がまいた一粒のタネが芽を吹き、葉をつけ、花を咲かせ、豊かな実りをもたらすかどうかは、ひとえに死力を尽した三浦裁判官からバトンを受け取った私たち市民の手にかかっている。人権への道は人類全員の協同労働なのだから。

                            (26.1.20柳原敏夫)                                       

2026年1月17日土曜日

【177話】避難者追出し裁判のふり返り:内掘決定が違法かどうかが福島県の仮設住宅明渡し請求の前提問題であることが判明した経過(26.1.16)

    カール・シュミットが「例外状況において決断者として主権者が露出する」を論じた書物。

避難者追出し裁判1.9最高裁判決の多数意見は、一審判決も二審判決も採らなかった新たな法律判断に基づいて福島県の仮設住宅明渡し請求を認めた。それが「内掘決定(※1)が違法かどうかという判断は福島県の仮設住宅明渡し請求に影響を及ぼさない」つまり「内掘決定が違法かどうかは福島県の仮設住宅明渡し請求の前提問題にならない」という判断。

1)内掘福島県知事が2015年6月に、区域外避難者に対する仮設住宅提供を2017年3月末をもって打切るとした決定をここでは内掘決定という。

なぜ、これが新たな法律判断かというと、「内掘決定が違法かどうかは福島県の仮設住宅明渡し請求の前提問題か否か」という論点(以下、本件論点という)については、一審判決も二審判決も自主避難者の被告(控訴人・上告人)の主張を受け入れて、「内掘決定が違法かどうかは福島県の仮設住宅明渡し請求の前提問題である」と判断して、その上で、内掘決定には違法はなく、それゆえ、福島県の仮設住宅明渡し請求も認められると判断したのに対し、今回、最高裁判決の多数意見は、この中の最初の判断を覆し、「内掘決定が違法かどうかは福島県の仮設住宅明渡し請求の前提問題ではない」と判断したからだ。
この判断が誤りであることは本件紛争の「真相解明」が曲がりなりにも追及された事実審を審理した地裁、高裁には分かっていた。以下、一審の審理の中で、どのような経過を経て、本件紛争の真相が解明され、「内掘決定が違法かどうかは福島県の仮設住宅明渡し請求の前提問題である」ことが明らかにされたかを、重要な点なので少々詳しくなるのをいとわず、以下に報告する。

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 1、本件紛争の真相
本件紛争の真相が解明されたなら、本件論点の答えは直ちに明らかになる。

ところが、本訴訟では本件紛争の「真相解明」に大変手間取った。そのため、本件紛争の真相が解明されるまで、本件論点の答えが明らかにならなった。
では、なぜ本件紛争の「真相解明」に手間取ったのか。それは福島県と福島地裁のせいである。

2、本件紛争の「真相解明」の最大の妨害者は福島県、その最大の協力者は福島地裁だった
なぜなら、本件紛争の被告である自主避難者は単なる「不法占拠者」ではなく、当初「適法に仮設住宅の使用許可を得て占有を開始し、継続してきた」のに、2017年3月末を境に、彼らが占有の継続を強く望んだにも関わらず無視され、意に反して一方的に「仮設住宅の使用許可」が与えられなくなり、その結果、占有権限喪失により彼らは不本意にも「不法占拠者」に転落させられてしまったという複雑な経過を辿ったにもかかわらず、本件紛争の原告である福島県は提訴にあたってこの占有権限喪失に至るプロセスを全く明らかにしようとせず、以下のとおり、訴状において仮設住宅提供打切りの決定の内容や根拠となった法令の説明すらなく、彼らを占有権原のないただの「不法占拠者」として扱ったためである。

被告については平成29年3月31日をもって応急仮設住宅としての本件建物の供与が終了になり本件建物の占有権限がなくなった》(訴状請求原因2(2))

 しかも、本件紛争の「真相」が全く示されていないきつねにつままれた訴状に対し、一審の福島地方裁判所もまた、福島県に仮設住宅提供打切りの決定の内容や根拠となった法令を明らかにするように指示(釈明)を出そうともせず、福島県が「真相解明」に蓋をすることに惜しみない支援を注いだからである。

 3、本件紛争の「真相解明」のフタが開いた経過
(1)、福島県と裁判所による水も漏らさぬ緊密なタッグによって本件紛争の「真相解明」に蓋がされていたにもかかわらず、「理論は灰色だが、現実は緑だ」の言葉通り、現実の審理の中で、「真相解明」の蓋は思いも寄らないカタチで開いてしまい、真相が姿を見せてしまったのである。

(2)、その「真相解明」の蓋を開けたキッカケになったアイデアはカール・シュミットの独特かつリアリティを持つ主権者論だったーー権力を持つ者とは、例外状態において決断をする者のことであると。この言葉が私の中でリアリティを持ったのは、想定外の過酷事故である311を経験し、その直後に混乱の極みの中にほおり出されたときの権力の状態、例えば班目春樹を委員長とする原子力安全委員会が機能不全状態に陥ったのを目の当たりにして、「決断」のできない班目春樹のような人物では権力者となれないと実感したからだ。

(3)、そこで、この「決断」をキーワードにして、福島県が蓋をする行政権力の「真相」に次のように切り込もうとした。

1、本裁判の法律問題の謎
‥‥原告の被告らへの請求(訴状物)は、本件建物を無権限で占有する者に対する所有者の所有権に基づく明渡し請求権である。この訴訟物の構成だと、本件建物を無断で占拠した不法占拠者を立ち退かせる裁判と変わらない。しかし、被告らは本件建物を無断で占拠したのではない。適法に本件建物の使用許可を得て占有を開始し、継続してきたものである。ところが、当初「適法に本件建物の使用許可を得て占有を開始し、継続してきた」のに、2017年3月31日を境に、被告らが占有の継続を望んだにも関わらずその望みは無視され、その意に反して一方的に「本件建物の使用許可」が与えられなくなり、その結果、被告らは不本意にも「本件建物を無権限で占有する者」という不法占拠者の地位に転落させられてしまったものである。

 ところで、この時点で発生した事態について訴状はどのように記載しているか。こうである――《被告については平成29年3月31日をもって応急仮設住宅としての本件建物の供与が終了になり本件建物の占有権限がなくなった》と(請求原因2(2))。
「本件建物の供与が終了になった」というのは、秋になって葉が色づき落ちてなくなったかのように、まるで自然に発生した現象みたいに書かれている。しかし、実態は全くちがう。それまで占有権限を有していた被告らを占有無権限者とするためには、そこに行政過程における厳然たる「行政庁の決断」が存在しなければ不可能だからである。だが、訴状には、いったい、どの行政庁(WHO)がいかなる手続を経て(HOW)どういう決断を下したのか(WHAT)、肝心なこれらの基本的な事実がすべて消されている。その結果、不本意にも占有権限者から占有無権限者におとしめられた被告らが、それを決定した「行政庁の決断」の不当性を訴えようにも、どの行政庁に向かって、どのような行政過程の不当性について訴えたらよいのか、それすら知ることもできないまま、「最初から建物を不法占拠した者」さながらに、問答無用で追出されそうになっているのである。こうした、人を煙に巻き、途方に暮れさせるやり方というものに対しては、思わず、詐欺師という名称を献上しないではおれないほどである。

いずれにせよ、このような明渡し請求のやり方は明らかにおかしい。30年近く前の行政手続法、情報公開法の制定の結果、行政の公正・透明性の原則が確立している現代にあって、上記の訴状の請求原因3の記載のように、これほど透明性の原則に違背する記載は見たことがない。そして、この不透明極まりない提訴の結果、「行政庁の決断」の不当性に反論するすべも不透明のまま、被告らの基本的人権(生存権・居住権)が脅かされている。こうした透明性の原則に著しく違背した原告の提訴に改めて抗議せざるを得ない。

(4)、また、たまたま、被告は第二次的に、予備的反論として福島県の「権利濫用論」を主張し、その中で、《原告が、2017年3月末で本件建物の使用関係を更新しないと決定したことが信義誠実に反する》(2021年10月7日付準備書面(被告第4))と主張したところ、これが原告の癇に障ったらしく、建物明渡しを求める「行政庁の決断」をしたのは東京都であって、オレたち福島県ではない、文句があるなら東京都に言ってくれ、と言わんばかりに次の通り、思い切り反論する中で馬脚もあらわしてしまった。

あくまでも被告らに対し本件建物を仮設住宅として供与していたのは東京都である。
原告は、東京都に対して、被告らを含む原発事故の避難者について、災害救助法上の救助の応援を要請し(災害救助法20条参照)、その結果、東京都が供与主体となって被告らに本件建物を仮設住宅として供与していたのである(甲15参照)。
原告としては、被告らを含む被告らを含む原発事故の避難者については、災害救助法施行令3条2項に基づいて国と協議のうえ、平成29年3月末をもって応急仮設住宅の供与を終了するとの政策決定をし、それに伴い、東京都に対して、上記の救助の応援を要請しなかったのである。
》(2021年11月26日付準備書面(2)第1、3、(1)2~3頁)

(5)、つまり、ここで初めて《原告は区域外避難者については、国と協議のうえ、平成29年3月末をもって応急仮設住宅の供与を終了するとの政策決定をした》と「原告の決断」を明らかにしたからである。また、上記原告書面で原告が引用した東京都の文書(甲15)にも次の通り書かれていて、「行政庁の決断」をしたのは福島県側だと表明していた。

東京都では、東日本大震災による避難者の方々に対し、被災県(注:福島県)からの要請に基づき、応急仮設住宅として都営住宅等及び民間賃貸住宅を提供してきました。

(6)、そこで、原告の尻尾をつかまえた被告らは、トドメを刺すために、さらに次の質問(求釈明)に出た。
(1)、原告準備書面(2)2~3頁
《原告としては、被告らを含む避難指示区域外の避難者については、‥‥国と協議のうえ、
平成29年3月末をもって応急仮設住宅の供与を終了するとの政策決定をし
①.いつ、上記政策決定をしたのか。

②.原告のどの組織(会議・部署など)において上記政策決定をしたのか。
③.この時の②の当該組織の長は誰か。
 以上、いずれも被告の次回反論準備にとって必要不可欠な事実であるので、速やかな対応を希望する。》(2022年2月7日準備書面(被告第7)

(7)、しかし、原告は己の勇み足をマズイと気がついたのか、この質問にだんまりを決め込んで回答拒否してきた。そこで、被告は、原告とタッグを組む裁判所に、貴方が福島県に回答させず、グルになって真相に蓋をし続けるのであれば、裁判所による「裁判の拒絶」にひとしい憲法上の権利の侵害行為であり、それだけでも二審で判決の破棄は免れないし、これだけ改善是正の必要性を強く求めているにも関わらず、裁判所がこれに背を向け続けるのであれば、被告らに残された手段は裁判官の忌避の申立てしかないという申入れをした(準備書面(被告第8)(※2))。そしたら、その翌日、福島県から以下の回答が届けられた。

 《2015年6月15日、内掘福島県知事が議長をつとめる新生ふくしま復興推進本部会議で決定した2022年2月22日付準備書面(3)1~2頁)

 もっとも、災害救助法施行令3条2項によれば政策決定の主体は「都道府県知事」だから、本件では福島県知事であり、新生ふくしま復興推進本部会議は県知事決定を了承したにすぎず、以上の政策決定を決断したのは内掘知事その人であることがようやく明らかにされた。

(8)、ここに至り、福島県も東京都も、災害救助法施行令3条2項に基づき、被災県である福島県の知事が仮設住宅の提供の延長の有無を決定し、その決定内容に基づいて、東京都が現実の仮設住宅の提供の事務処理を担当したことを認めた。つまり、仮設住宅の提供の有無を決定するという「行政庁の決断」は専ら福島県知事の手に委ねられていた。その結果、福島県知事が仮設住宅の提供を延長する場合には東京都もこの決定に沿って現実の仮設住宅の提供を延長し、その反面、福島県知事が仮設住宅の提供を延長しない場合には、東京都もこの決定に沿って現実の仮設住宅の提供も終了した。 

(9)、以上の結果、福島県知事と東京都の間にこのような影響関係がある以上、そこで、仮設住宅の提供を2017年3月末をもって打切るとした内掘決定がもし違法であれば内掘決定に沿って仮設住宅の提供を終了した東京都の事務処理もまた違法を免れず、その結果、本件明渡し請求は認められない。これに対し、内掘決定がもし適法であれば内掘決定に沿って仮設住宅の提供を終了した東京都の事務処理もまた適法となり、その結果、本件明渡し請求は認められることになる。
このような影響関係が存在することを前提にして、一審と二審判決は、
災害救助法に基づく応急仮設住宅の供与の期間を定める本件政策判断は、 その性質上、行政庁の広範な裁量に委ねられていると解するのが相当であり、前記(1)で説示した諸事情を勘案すると、原告知事に裁量の逸脱濫用があるとはいえない。》(31頁22~25行目)
という自由裁量論で内掘決定の適法性を導き、そこから東京都の事務処理の適法性を導き、最終的に本件明渡し請求を認めたのに対し、三浦少数意見は、
避難先での生活の継続を望む区域外避難者が数多く存在する状況において、本件措置は、応急仮設住宅の使用を必要とする区域外避難者の居住の安定に係る利益等を損なうという点で、本質的な瑕疵を有するものであったといわざるを得ない。
そうすると、 平成29年4月以降に係る応急仮設住宅の供与に関し、 国の関与及び同意の下に行われた被上告人の本件措置等は、 社会通念上著しく妥当性を欠くものと認められ、各裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものというべきである。
》(23~24頁)
で内掘決定の違法性を導き、そこから東京都の事務処理の違法性を導き、最終的に本件明渡し請求を認めなかった。

 以上の論理構成に対して、ひとり多数意見のみが、次の通り、福島県知事と東京都の間の影響関係を否定し、それゆえ、内掘決定の違法性を判断する必要がないとして判断しなかった。しかし、この判断が明らかに誤りであり、誤判であることは以上に明らかにした通りである。
本件判断が違法なものであるか否かは、上告人の占有権原の有無に影響を及ぼすものではな》い(4頁下から8~7行目)

(※2)2022年2月21日付準備書面(被告第8)――適正な釈明権の行使について――
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本書面は、前回期日に原告に回答を求めた原告主張事実の不明点について、本日現在、まだ未回答である現状を踏まえ、原告と裁判所に対し誠実なる対応を求めたものである。
              目 次
1、「裁判をうける権利」に適合する新民事訴訟法の解釈及び運用    2
2、充実した争点整理の実現のための積極的な釈明権の行使    2
3、適正な釈明権の不行使に対する法的制裁    4
4、本件その1(積極的な釈明権の行使の必要性)    4
5、本件その2(適正な釈明権の不行使に対する法的制裁)    6

(前略)

4、本件その1(積極的な釈明権の行使の必要性)
 原告は、自ら、原告準備書面(2)において、

《原告としては、被告らを含む避難指示区域外の避難者については、‥‥国と協議のうえ、平成29年3月末をもって応急仮設住宅の供与を終了するとの政策決定をし》(2~3頁)

と主張したが、にもかかわらず、上記政策決定の主張には、①いつの決定なのか(決定の時期)、②誰の決定なのか(決定の主体)、③それを決定した組織の長は誰か(決定の主体の最高責任者)といった基本的な事実関係が明らかでないため、いつ、誰が(どの機関が)、どのような手続経過のもとで意思形成と決定を重ねたのかという、上記政策決定をめぐる基本的かつ重要な事実関係にかかる主張が欠缺し不明なままであり(主張の欠缺)、それゆえ、このままではこれに対する被告らの反論準備が不可能である。

 そこで、被告らは前回期日の2月4日に口頭で、上記3点を明らかにするよう求め、念のため7日付準備書面(被告第7)にて書面化して原告に送付した。しかるに、このような極めて単純明快な事実関係に関する質問にもかかわらず、2週間以上経過した現在まで、原告より回答がない。これは明らかに、被告らの質問に対する原告の意図的な拒否と言わざるを得ない。その結果、被告らにとって、本裁判の争点整理の中で最重要な事実である上記政策決定の基本的な事実関係が欠缺・不明のままとなり、被告らにとってこれに対する反論の主張・立証を尽くそうにも尽くすことが叶わない。これは取りも直さず、本裁判において原告の明渡請求により脅かされている、被告らの生存権・居住権という基本的人権を確保するための不可欠の手段である被告らの「適正、公平な裁判を受ける権利」が保障されないという看過し難い違法状態にほかならない。

 そこで、被告らは被告らの「適正、公平な裁判を受ける権利」の保障を求めて、原告に対し、改めて、早急に、被告らの上記求釈明に対し回答することを求める。

と同時に、前述の通り、新民事訴訟法のもとでは、積極的な釈明権の行使に出ることが裁判所の責務とされている。のみならず、本件の当事者は片や地方公共団体、片や市井の一市民であり、両者の間に事実関係の調査収集分析や情報把握面で政治的、社会的及び情報的に圧倒的な格差が存在する。このような政治的、社会的及び情報的格差のもとで事案の解明と紛争の真の解決を図るためには、政治的社会的強者である福島県の不適切な訴訟行為に対し、裁判所は、上に述べた新民事訴訟法の基本理念及び原理に則して、一般的な事案以上により積極的に釈明権を行使して、この看過し難い違法状態の是正を図ることが強く要請されているのであり、この是正により初めて、実質的に適正公平な裁判が可能となるのである。そこで、被告らは被告らの「適正、公平な裁判を受ける権利」の保障を求めて、裁判所に対して、早急に、自ら不明な主張をしている原告に対し、当該不明部分を明確にするため被告らの上記求釈明に速やかに回答するよう、適切な「期日外における釈明権の行使」に出ることを求める(民事訴訟法規則63条)。

5、本件その2(適正な釈明権の不行使に対する法的制裁)
 以上の通り、被告らからの切なる求めにも関わらず、万が一、不幸にして、裁判所が適正な釈明権を行使せず、原告が被告らの上記求釈明に対し回答を拒否し続ける場合には、争点整理の中断のため被告らの反論準備に重大な障害をもたらし、その結果、裁判所が前回期日に指定した次回準備のスケジュールが狂うのは避けられない。そればかりか、被告らの「適正、公平な裁判を受ける権利」の保障からみれば、これは裁判所による「裁判の拒絶」(宮沢俊義「全訂日本国憲法』(芦部信喜補訂、日本評論社、1978年)」298頁)にひとしい憲法上の権利の侵害行為である。

そして、このような争点整理の中断の原因はひとえに原告の被告らの質問に対する意図的な回答拒否及び原告が起したこの不誠実な問題の解決に積極的に取り組まない裁判所の怠慢にあり、この問題を解決せずに被告らに主張・立証を尽くさせないまま結論を出すに至った場合には、上記で述べた通り、「釈明権行使を怠ったことによる審理不尽の違法がある」として判決の破棄は免れない[1]

のみならず、こうした争点整理の過程における違法状態の改善是正の必要性を被告らから強く求めているにも関わらず、裁判所がこれに背を向け続け、釈明権を行使しないことは許されないことであるから、かくなる場合には、上記で述べた通り、被告らの「適正、公平な裁判を受ける権利」を回復しその保障を実現するために被告らに残された手段は裁判官の忌避の申立てしかないことを申し添えておく。

以 上



[1] しかも、本件は最高裁が従来から不行使の違法を認めてきた消極的釈明の類型に属するものである。

【第179話】避難者追出し裁判1​.​9最高裁判決の理由書&多数意見&少数意見の対比表から見えてきたこと(26.1.27)

以下の表は、避難者追出し裁判1​.​9最高裁判決の上告受理申立ての理由書と多数意見と少数意見を対比したもの。 この対比だけからでもただちに次の重要な事実が判明するーー多数意見の正体、それは本裁判の実質的争点である「内掘県知事決定の違法性」について「上告不受理」=原判決を是認しただ...