【第179話】で、避難者追出し裁判1.9最高裁判決を主に「形式」面から分析した。これは、三浦少数意見を「内容」面から分析したもの。
なお、多数意見を「内容」面から分析したのは>【第177話】・オンライン署名
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※ 内掘福島県知事が2015年6月に、区域外避難者に対する仮設住宅提供を2017年3月末をもって打切るとした決定を以下では本件県知事決定という。
以下、この本件県知事決定が違法であるか否か(以下の第1)、もし違法である場合に、それが被告(上告人)の仮設住宅からの退去を求める明渡請求権にどのような影響を及ぼすか(以下の第2、第3)について、三浦少数意見を紹介したもの(少数意見のPDF>こちら)。
第1、本件県知事決定の違法性について
(上告人の主張)
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1、最高裁における裁量判断の司法審査の方式 最高裁における裁量判断の司法審査は最高裁平成18年2月7日学校施設使用許可国賠事件判決以降、「判断過程審査」方式が積み重ねられ、近時はこれが通例となり定着している。「判断過程審査」方式は行政庁の判断過程において、本来考慮に容れるべき要考慮事項を考慮したか、本来考慮に容れるべきでない考慮禁止事項を考慮に容れなかったか(他事考慮)、重視すべきでない考慮要素を重視し(過大評価)、当然考慮すべき事項を十分考慮しない(過小評価)などの吟味により裁量判断の方法ないしその過程に誤りがあるかどうかを審査するものである。 |
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2、考慮事項の具体化(その1:方法論一般) 最初の問題は、特定の案件の裁量判断に際し、何を手がかりにどのようにして考慮事項を導くか、という方法論の問題である。 |
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3、考慮事項の具体化(その2:類型化一般) 次の問題は、上記2の方法論に基づいて、特定の案件の裁量判断に際し、いかなる項目を考慮事項として類型化するかである。 |
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4、考慮事項の具体化(その3:本件) 次の問題は、上記3の6個の類型化に基づいて、本件県知事決定の裁量判断に際し、いかなる項目を考慮事項とするかである。本件に即して、さしあたり次のように考えることができる。 |
(これに対する三浦少数意見)
三浦少数意見は、本件県知事決定の裁量判断に際しいかなる項目を考慮事項とするかについて、一般論として次の通り判示した。これは最高裁が国際人権法に言及して初めて示した画期的な判断基準である。
1、一般論:上記4③.本件県知事決定によって失われる利益=延長して居住する必要性(自主避難者の居住権、生活再建権、「帰還による被ばくの健康影響」の回避など)について
(1)、(被災地域を越えた)広域における住宅の供給状況等を踏まえ、当該被災者の具体的な事情すなわち「当該被災者に関し、被災及び避難の状況、 避難の継続又は帰還についての意向、家族関係・健康状態・就労状況その他生活の状況、安定した住宅の確保に関する事情等」(24頁下から4行目~)を適切に考慮して判断しなければならないこと。
なぜなら、被災者にとって、生活の基盤を失って避難するという経済的にも精神的にも困難な状況の下で、その居住の安定に係る利益は、生存の基礎であって個人の尊厳及び幸福追求に関わるものであり、被災者が延長して居住する必要性については、社会権規約及び国内避難に関する指導原則の趣旨を踏まえ、災害対策基本法の定める基本理念(被災者の年齢、性別、障害の有無その他の被災者の事情を踏まえ、その時期に応じて適切に被災者を援護すること等[6])及び責務(国民の生命、身体及び財産等を災害から保護する使命[7])にも鑑みるべきものだから(17頁17~23行目)。
すなわち、もともと災害救助法による応急仮設住宅の提供は「被災者の居住の安定に係る利益」等を保護するために認められたものである[8]。この「被災者の居住の安定に係る利益」は被災者にとって生存の基礎であって個人の尊厳及び幸福追求に関わるものであり、その内容は社会権規約及び国内避難に関する指導原則の趣旨を踏まえて解釈されるべきものである。そうだとしたら、そこから論理必然的に、応急仮設住宅の提供を延長するかどうかの判断にあたっても「被災者の居住の安定に係る利益」について、上記国際人権法が保障する被災者ひとりひとりの人権問題として、当該被災者の具体的な事情を適切に考慮せざるを得ない。
その際、取り分け、著しく異常かつ激甚な非常災害であって、 当該非常災害に係る応急仮設住宅の入居者の居住の安定に資するための措置を講ずることが特に必要と認められる特定非常災害においては、多数の被災者の避難が広域かつ長期に及ぶなどして、被災者の安定した住宅の需要が被災地域及びその周辺(以下「被災地域等」)に限られないこと等にも鑑みると、 所定の期間を超えて応急仮設住宅を使用する必要性に関し、被災地域等における住宅の供給状況等を重視して一律に判断することは困難である(17頁10~16行目)。
すなわち、福島県内に災害公営住宅が整備されたことを重視して延長しない理由にすることは困難である。
(2)、(1)の裏返しとして、「本件県知事決定によって失われる利益=延長して居住する必要性」がないことが認められること。
「当該被災者の具体的な事情を考慮するまでもなく、一律に、応急仮設住宅を延長して使用する必要がないこと」が合理的な根拠に基づいて認められること(17頁下から2行目~18頁2行目)。
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2、本件(具体論)
問題は、本件で、本件県知事決定はこの2つの判断基準を満たしているかどうか。
その結論は「満たしていない」。
主たる理由は以下の4つ。
①.2017年3月末日時点で土壌除染等の措置を定めた除染特別地域及び汚染状況重点調査地域は福島県の36市町村に及び、当該地域からの避難者にとって、避難の継続は法令に基づく合理的な根拠があるというべきである。なおかつ避難を継続するか帰還するかはもっぱら個人の選択の問題である。したがって、福島原発事故により拡散した放射性物質による被ばくが人の健康に及ぼす影響について科学的に十分に解明されたとはいえない状況及び避難の継続は法令に基づく合理的な根拠があるという状況において、個人の選択で避難の継続を決定した者についてはその自己決定が尊重されてしかるべきだから、「応急仮設住宅を使用する必要がないか否かについて、自己決定をした当該被災者の具体的な事情を考慮せずに一律に判断すること」はできない(21頁7行目~22頁4行目)。
②.「応急的」の意義
災害救助法による応急仮設住宅の供与は、現に救助を必要とする被災者に対し応急的に必要な救助として行うものであるところ、この「応急的」とは、救助の必要性に関する当該被災者の具体的な事情を離れた画一的な期限を意味するものではない。のみならず、本件に適用される特定非常災害においては、応急仮設住宅の入居者の居住の安定に資するための措置を講ずることが特に必要と認められるものであるから、応急仮設住宅を延長して使用する必要性についての判断に当たり、応急的救助という考え方を重視し当該被災者の具体的な事情を適切に考慮しないことは、むしろ特定非常災害特措法等の趣旨に反するものである(22頁5~12行目)。
③.阪神・淡路大震災の例並びに宮城県及び岩手県の取扱いとの比較について
この比較も、区域外避難者が、区域内避難者と異なり、当該被災者の具体的な事情を考慮するまでもなく、応急仮設住宅を供与できる期間の延長を一律に否定する理由とならない。
④.応急仮設住宅の供与に代わる新たな支援策について
セーフティネット契約等は2年間の限定であり、公営住宅の公募における専用枠等もその入居が確保されるものではないなど上記支援策によって必ずしも安定した住宅を確保できるとはいえない。従って、これが「当該被災者の具体的な事情を考慮するまでもなく一律に応急仮設住宅を使用する必要がない」という理由にはならない(22頁下から6~末行目)。
すなわち、上記支援策は、国際人権法が「例外的措置として許容される強制退去」の要件として要請する「代替住居の誠実な提供」に該当しない。
第2、さらに、2017年4月以降の応急仮設住宅の供与の終了について
(1)、内掘県知事及び東京都知事
2017年4月以降の応急仮設住宅の供与を終了するに際して、内堀知事及び東京都知事が、 応急仮設住宅を使用する必要性に関し、 広域における住宅の供給状況等を踏まえ、上告人の具体的な事情を適切に考慮したことはうかがわれない。
(2)、国
上告人に対する応急仮設住宅の供与に関し、上告人に関する具体的な事情が適切に考慮されないまま2017年3月末日をもって上記供与が終了したことは、国の関与の下に行われた内堀知事及び東京都知事による上記供与に関する事務の処理によるものである。
第3、本件明渡し請求の適否について
(1)、第2の2017年4月以降の応急仮設住宅の供与が終了したのは本件県知事決定に起因するものであるが、その本件県知事決定は社会通念上著しく妥当性を欠くものであって、各裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用するものである(24頁下から11行目以下)。
(2)、従って、このような事情の下において、上告人がその後本件建物に居住していることは、国との関係において単なる不法占拠とみることはできない。言い換えれば、
上告人に関し、被災及び避難の状況、避難の継続又は帰還についての意向、家族関係・健康状態・就労状況その他生活の状況、安定した住宅の確保に関する事情等の具体的な事情を総合的に考慮して、国が上告人に対し建物明渡請求権を行使することが、 正義 公平の理念に照らし容認できないときは、その行使は、権利の濫用として許されない。
(3)、原審は、上告人に関する上記具体的な事情を総合的に考慮して建物明渡請求権の行使が権利の濫用に当たるか否かについて必要な検討をしていない。
そうすると、 原審の判断(原判決)には、 災害救助法等の法令の解釈適用を誤った結果、 必要な審理を尽くさなかった違法があり、これは、 判決に影響を及ぼすことが明らかである。
従って、原判決中、 上記建物明渡請求に関する部分を破棄し、 同部分について事件を原裁判所に差し戻すのが相当である。
[1] 例えば、考慮禁止事項について、公務員に対する不利益取り扱いについての国家公務員法108条の7・地方公務員法56条。
[2] 塩野宏「行政法Ⅰ(第5版補訂版)」136頁14行目《要考慮事項(逆に不可考慮事項)が何であるかは法の解釈を通じて導き出されるものである。》。その例として、考慮禁止事項について、輸出制限に関するいわゆるココム訴訟の東京地裁昭和44年7月8日判決行裁例集20巻7号842頁。
[3] 「本件各処分の前示の性質にかんがみれば、本件各処分に至るまでに何らかの代替措置を採ることの是非、その方法、態様等について十分に考慮するべきであった」ところ、代替措置について何ら検討しなかった上告人の措置は「考慮すべき事項を考慮しておらず、」‥‥「本件各処分は、裁量権の範囲を超える違法なものといわざるを得ない。」(最高裁平成8年3月8日判決民集第50巻3号469頁)
[4] 塩野宏「行政法Ⅰ(第5版補訂版)」135頁。宇賀克也「行政法概説Ⅰ(第7版)」339頁。
[5] 目的を達成するため「より制限的でない他の選びうる手段」(less restrictive alternatives)の基準のこと。
[6] 判決14頁8~9行目。
[7] 判決14頁10行目。
[8] 判決16頁(3)




