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2024年6月6日木曜日

【第146話】5月25日出版のブックレット「わたしたちは見ているーー原発事故の落とし前のつけ方をーー」の紹介動画

 先月5月25日に新曜社(>HP)から発売されたブックレット「わたしたちは見ているーー原発事故の落とし前のつけ方をーー」のさわりについて、2人の編集者が語る動画が出来た。

本編(9分)→文字起しの文は末尾に。


番外編(3分)→文字起しの文は末尾に。

動画収録の直前になって、急にこれも入れたいと言いだしたもので、番外編として収録。

 

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柳原:皆さん、こんにちは。「市民が育てるチェルノブイリ法日本版の会」の協同代表の柳原です。このたび、今画面に出ているブックレットを、私と協同代表の小川さんとで、編集して、「わたしたちは見ている:原発事故の落とし前のつけ方を」というタイトルで、新曜社という出版社から5月25日に発売となりました。漫画家のちばてつやさんから表紙のイラストを寄せていただきました。まずは、小川さんの方から、このブックレットのについて、少し話して下さい。

小川:皆さん、こんにちは。「市民が育てるチェルノブイリ法日本版の会」の小川晃弘です。このブックレットの肝ですか。それは、このブックレットは、原発事故の問題について、新しい解き方を提示したことだと思います。私たちの会で、ここ数年、メーリングリストや学習会などで、ずっと議論を重ねてきて、たどり着いた一つの結論です。

これまで、原発をめぐる話は、原発を推進するのか、原発に反対するのか。敵と味方に分かれて正当性を問う政治運動の話でした。そんなふうに、対立して、分断して、争い続けるのはやめよう。原発が存在する限り、原発事故が起きる。事故が起きたら、その被害・影響は、原発推進・原発反対に関係なく、皆に等しく襲いかかります。ですから、対立の関係で捉えるのはなく、「人権」の問題として考えようという提案です。

「人権」というと、何か難しくて、抽象的な感じがするかもしれないですが、このブックレットでは、「人権」を、「自分の命を守る権利」、そして、「他の人の命も等しく守る権利」と、分かりやすく定義しています。

 

柳原:ただ、最初はちょっとちがったと思います。私は最初、人権というと何か立派なお題目を唱える感じがして、道徳や倫理を説くみたいで、何とも気持ちが悪く、正直、嫌でした。でも、或る時点で思ってもみなかった変化が起きたのです。それは、人権をそれまでとはちがった風に捉え直せるんじゃないかと気がついたからです。現実の耐え難い、反吐が出るような悪事、その闇や暗黒の世界に対して、そのような理不尽、不条理を自分はどうしても受け入れることができないんだという思いが心の底から沸き上がってきた時、その叫びが人権なんだと思うようになったのです。

それなら、理不尽を受け入れられない、服従できないという思いを誰よりも抱いているのは子どもたちではないか。それがこのブックレットの「わたしたちは見ている」というタイトルです。それは「わたしたちは絶望している」けれど、「その絶望に絶対、甘んじない」という叫びです。それが表紙のイラストです。この絵は「人権の誕生」の瞬間を描いたものではないかと思うようになりました。

この子どもたちの叫びは理不尽な世界を作り出した大人たちに向けられています。それは第1にこの政治や経済を牛耳っている権力者たちです。けれど、それだけではない。この理不尽な世界を作り直そうとしている市民運動にも向けられています。市民運動はなぜこんなに分断され、行き詰っているのか。それは子どもたちを絶望させるだけの十分な理由があります。けれど、子どもたちはただ絶望しない、その先をじっと見ている。彼らには未来しかないのだから。だから、理不尽な社会にも、そして、分断され行き詰っている市民運動にも甘んじるわけにはいかない。

「理不尽、不条理を自分はどうしても受け入れることができないんだ」という、子どもたちのこの叫び、それが「人権の誕生」の瞬間です。絶望をくぐり抜けた先に子どもたちが見出したもの、それが私にこのブックレットを書かせたんだと思います。

 

小川:「人権」というと、少し構えてしまうかもしれないですが、そんなものではない。もっとリアルな私たちの生活に密着した権利のことですよね。

 

柳原:学校では「人権は人に優しくすること」だとか教えているようですが、それはちがうと思います。「理不尽にNO!と言って抗(あらが)うこと、それが人権だ」というのがアメリカ独立宣言などの人権の歴史が教えることです。ただし、放射能はその先が問題です。見えない、臭わない、味もしない、理想的な毒だからです。そのため、放射能に関する差別がどんな時にどれほど理不尽なのか、「目に見える、例えば肌の色で差別するのが理不尽だ」と言うほど簡単ではありません。しかし、注意深く冷静に検討していく中で放射能の健康への影響が否定できないと判断された場合には「理不尽がゆえにどうしても受け入れることができない」と抵抗すること、これが人権の行使です。この理不尽に対する抵抗、不服従を正面から認めたのが人権です。この理(ことわり)を、放射能について認めたのがチェルノブイリ法であり、その日本版です。

 もともと平和安泰の世の中では人権は要りません。世界共和国ができれば憲法9条も不要です。人権が必要になるのは理不尽が世にあふれ、暗黒社会が到来した時です。あれだけの甚大な被害をもたらした福島原発事故を経験しながら、今なお原発事故の救済について何一つ解決されておらず、福島原発事故後の日本社会は暗黒です。それは人権が最も必要とされる社会です。

とはいっても、人権は特効薬ではありません。すべての人に人権を認めようとすれば、今度は全ての人たちの間に人権をめぐる衝突が発生することは避けられないからです。しかし、その衝突を調整するために、これまでの政治の論理(それは人々と敵と味方に仕訳し、敵を追い込んで自分たちの主張に有無を言わせず従わせる論理です)を用いるのではなく、人権の論理を導入することがとても重要です。なぜなら、人権の論理というのは人権同士の衝突を、すべての人の人権が最大限尊重されるように、出来る限り平等の原則に従って対話と譲り合いでもって衝突の調整を目指すものだからです。2つの、一見たいしてちがわないように見える衝突の解決方法を政治の論理から人権の論理に意識的にシフトすることによって、市民運動は分断と行き詰まりから間違いなく一歩前に出ることができるとひそかに確信するようになりました。それを具体化したのがチェルノブイリ法日本版であり、そのことをこのブックレットの中に書き込みました。

 

小川:このブックレットには、本会の会員ほか、小出裕章さんや牛山元美さんにも、原稿を寄せていただきました。自分の地元でも、チェルノブイリ法日本版」条例を作ってみたいと思われた方、ぜひ、こちらのEメールまでご連絡ください。

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番外編

柳原:スミマセン、あと1つ言わせて下さい。一昨日、ブックレットを読んだ知り合いからこう言われました「民主主義の機能不全が言われて久しいけれど、それは個々の政治家のせいではないと思う。そもそも多数者による支配というデモクラシーのシステムそのものに原因がある。民主主義のシステムそのものを見直す必要がある。そのとき、キーワードになるのが人権。どんなに多数でも決しておかすことが許されない限界、それが人権だから。だから、今、必要なのは民主主義の永久革命ではなく、人権の永久革命だ、と。

全く同感です。そして、民主主義の機能不全は市民運動の機能不全も含んでいます。人権を基本原理として市民運動を再建することで、市民運動は一歩前に出ることができる。それを実行しようというのがチェルノブイリ法日本版の運動です。

 そして、スミマセン最後にもう1つだけ、言わせて下さい。福島原発事故まで、日本の法律の体系は福島原発事故級の放射能災害を実際には想定していなかった。だから、原発事故の救済に関して、法の備えが全くなかった。いわば、巨大なブラックホールみたいな状態でした。実はこれと似た事態が半世紀前に発生しました。当時、日本は深刻な公害が発生し、市民運動の正しい圧力で政府を猛反省させ、1970年の公害国会で矢継ぎ早に抜本的な公害対策法を制定して法の穴埋めをやりました。しかし、それから半世紀たった311後、原発事故の救済に関して政府は法の穴埋めをやろうとしない。いわばブラックホールをネグレクトするという態度に陥った。これはゴミ屋敷に住む人々が「セルフ・ネグレクト」に陥っているのと同じです。日本政府も原発事故の救済に関して「セルフ・ネグレクト」に陥って、日本をゴミ屋敷にして放置しているのです。それによる最大の被害者は子どもたちです。未来しかなく、「セルフ・ネグレクト」とは正反対の自己決定(セルフ・デタミネーション)をしたくてしょうがない子どもたちです。チェルノブイリ法日本版はこのブラックホールを人権秩序で穴埋めしようとするものです。私たちの市民運動は日本版の制定によって原発事故の救済に関してゴミ屋敷のままに放置されている日本社会を、命、健康、暮しが守られ、人が安心して住める人権屋敷に再建するために、一歩前に出る運動です。



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