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2024年4月9日火曜日

【第140話】311後の日本社会と心中するのはバカバカしい(?)--地獄の季節(原発事故)に人権を!--(24.4.3)

2024年 3月31日(日)のイベント「福島原発事故、能登地震からの教訓 最悪の事態に備えて私達に出来ること」より
●第1部 柳原敏夫の話「12.18子ども脱被ばく裁判判決と1.15避難者追出し裁判判決による311後の日本社会のレントゲン診断」その1


プレゼン資料

「12.18子ども脱被ばく裁判判決と1.15避難者追出し裁判判決による311後の日本社会のレントゲン診断」その2


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2つの仙台高裁判決が明るみにした311後の日本社会のレントゲン診断

1、311後の日本社会と心中するのはバカバカしい


もし、今の日本で普通に生きれると思っている人がいたら、その人はおそらく311後の日本社会を「異常」だと思っていない。しかし、311後の日本社会は戦後経験したことのない「異常」さの中にある。その異常ぶりは数々あるが、その双璧は311直後の文科省20mSv通知と山下俊一発言である。なぜならこの2つはその後に異常事態として是正されたのではなく、むしろ311後の日本社会を形成する母体となったから。そして、この異常さの増殖の果てに私たちに待ち受けているのは日本社会の崩壊である。

それと心中するのはバカバカしい。

だからといって、これを食い止めることができるのか。できる。ではどうやって?

その可能性は311後の日本社会の「異常性」の中にあるし、その中にしかない。311後の日本社会の「異常性」と向き合い、その異常性の極限状態の果てに初めて誕生するもの、それが原発事故から命を守る人権であり、この人権が311後の日本社会の崩壊を食い止める力、おそらく唯一の力となる。

このことを最も鮮やかに映し出したのが(昨年12月18日の子ども脱被ばく裁判と今年1月15日の避難者追出し裁判の)2つの仙台高裁判決である。以下、紙面の許す限りで紹介する。


2、311後の日本社会の異常さを象徴する2つの裁判

(1)、子ども脱被ばく裁判
 子ども脱被ばく裁判は、311直後の原発救済について行政の対応が人権侵害であった事を追及した。その人権侵害は次の文科省20mSv通知と山下俊一発言に象徴されている。

(ア)、20mSv通知とは法律が許容しない放射能安全基準の引き上げであり、「法律による行政の原則」のあからさまな逸脱、一言で言えば法的クーデタである。同時に、福島県の子どもだけ放射能安全基準を20倍に引き上げる差別であり、合理的理由が認められない差別として憲法の平等原則違反である。のみならず、さらにこの違憲の基準が福島県のみならず日本全国に拡大、学校安全基準ばかりか原発事故の救済政策の様々な基準に変更・拡大していく異常事態の全面化、日常化だった。その結果、半世紀前、公害日本から命を守るために導入された公害の安全基準との間で完全な破綻、つまり7千倍という説明のつかない異常な格差が生じた。それまで公害の基準は「10万人中1人の健康被害」だったのが、放射性物質は「10万人中7000人ががん死」が基準とされたから。311後の日本社会は一気に7千倍危険な社会に変貌した。

(イ)、山下俊一氏は福島入り直後の記者会見で「この数値(毎時20μSv)で安定ヨウ素剤を今すぐ服用する必要はありません」と断言した。しかし、311前、チェルノブイリ事故直後にポーランドでは安定ヨウ素剤をすぐ配布したため、子どもの甲状腺がんの発生はゼロだった。この事実を指摘したのは山下俊一氏その人である。また、山下氏は直後の二本松市講演で、「何度もお話しますように、100mSv以下では明らかに発ガンリスクは起こりません」と安全性を断言した。しかし、311前、講演で、チェルノブイリ事故について「放射線降下物の影響により‥‥セシウム137などによる慢性持続性低線量被ばくの問題が危惧される」、医療被ばくについて「主として20歳未満の人たちで、過剰な放射線を被ばくすると、10~100mSvの間で発がんが起こりうるというリスクを否定できません」と、危惧とリスクを指摘したのは山下俊一氏その人である。子ども脱被ばく裁判は、311後の山下発言と311前の山下発言を「比較した時、その正反対とも言うべき矛盾した内容に、果して同一人物の発言なのかといぶかざるを得ない」と、子どもでも分かる明快な矛盾の「異常」さを指摘した。

(2)、自主避難者追出し裁判
 2020年3月、福島県が自主避難者を相手に、彼らに提供された応急仮設住宅からの立退きを求めて提訴した追出し裁判、これが現在最高裁に係属中にもかかわらず、本年3月、福島県は避難者に何の予告もなく、いきなり仮の強制執行に着手した。これが日頃、県民に寄り添い、県民の復興を最大限支援するという福島県のうたい文句とは正反対の強権的措置であること、のみならず、被告の避難者は日本政府も認める「国内避難民」であり、国内避難民として居住権が保障されており、行政の振舞いは国際人権法に照らしても最も慎重であるべきこと、そもそも、この提訴自体、一昨年秋、国連人権理事会から派遣されたダマリー特別報告者が「賛成できない。避難者への人権侵害になりかねない」と異例の警告をしたものであること、これらに対し、なぜ今、強制執行なのか、福島県は国内外に全く説明できない。国際世論に完全に背を向ける、この強権的、独善的態度は今日、「異常」と評するほかない。


3、2つの仙台高裁判決の意義
 もともと紛争は関係者すべての正体を情け容赦なく暴き出すリトマス試験紙である。裁判官も例外ではない。その結果、311後の日本社会がいかに異常であるかを可能な限り論証しようとしたこれら2つの裁判に関与した仙台高等裁判所も先頃の判決によって己の正体を白日の元にさらした。すなわち裁判所もまた311後の日本社会に完全に隷属する存在であることを余すところなく示し、みずから裁かれたのである。その判決内容をごく簡潔に紹介すると、
①.放射能の危険性(内部被ばく、疫学データ等)という事実問題には正面から向き合わず、とぼける、スルーする。
②.国や福島県の違法性という法律問題では、もっぱら行政の自由裁量の範囲内であるとして国や福島県の政策にお墨付きを与える。他方で、被災者・避難者からの国際人権法の主張は無視するか福島県の主張をそのまま是認するだけ。要するに、被災者・避難者が提起した論点とは向き合おうとせず、徹底的に逃げる(判決で判断しない。審理では証人全員却下。一発結審)。これは被災者・避難者が提起した論点とは何が何でも向き合おうとしない、311後の日本社会と軌を一つにする判決であり、暗黒裁判の名をほしいままにする天晴れ判決というほかない。


4、無権利と人権のあいだ

 以上の通り、311後の日本社会とは、一言で言って「無権利」状態。だとすれば、私たちに残されていることはただひとつ、この「無権利」状態を「権利」状態に作り変えること、すなわち人権を回復すること、これに尽きる。問題はいかにして人権を回復するか。そもそも人権は憲法に書かれているから存在しているのではない。もしそうなら、六法全書を焼いてしまったら人権もなくなってしまう。六法全書を焼き捨てても人権がなお残っているとしたら、それはどのようにして存在しているのか。そのためには、そもそも「人権はいかにして誕生するものなのか」、これを理解しておく必要がある。

それは空から降ってくるものでも、地の底から沸いてくるものでもなく、
また、議会が制定したからでも、国外の国際世論から導入されるものでもない。
それは、かつてガンジーの非暴力運動が「権力者の暴力対市民の暴力運動」の現実に対し、その否定と揚棄として生まれたように、人権もまた私たちの目の前の無権利(暗黒)状態の現実に対し、その否定と揚棄として生まれて来るもの、この現実との葛藤と止揚の中からしか生まれて来ない。

 それは、無生物しか存在しなかった地球に生物が誕生した瞬間と、あるいは情報がクローズドされた世界に情報がオープンにされるインターネットが誕生した瞬間と比すべきものである。事実はどんな思想・哲学より奇(跡)なりの通り、人権の誕生もまた世界史の奇跡の1つである。
くり返すと、人権は憲法に書かれたから存在するような単純なものではない。憲法に書かれていても、人権の誕生を反復しない限り、人権はいつでも死文化、空文化する。

世界で最初に人権が誕生したのは宗教の自由(宗教的寛容)とされる。それは信仰を異にする者同士の熾烈な宗教戦争の殺し合いという異常な極限状態の果てに初めて見出された。これが人権誕生の原点である。だとしたら、311後の日本ほど人権誕生に相応しい場所はない。なぜなら、311後の日本社会の特質は前述の「異常性」にあり、この「異常性」と向き合い、その異常性を極限まで突き詰める中で、ちょうど宗教戦争の成れの果てに「宗教的寛容」が見出されたように、異常性の成れの果てに人権を見出すことが可能になるからである それが原発事故から命を守る人権であり、この人権だけが311後の日本社会の崩壊を食い止める力、おそらく唯一の力である。この確信を授けてくれたのが2つの仙台高裁判決なのであり、その意味でこの暗黒判決は永久不滅の価値がある。


 

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