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2023年2月22日水曜日

【第98の2話】追出し裁判の1.13福島地裁判決に対する「弁護団の声明」(2023.1.16)

以下は、1月13日に、訴訟手続の停止に関する民事訴訟法の大原則を踏みにじって言渡された(その理由はー>こちらを参照)避難者追出し裁判の福島地裁判決に対する被告弁護団の声明です。

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              弁護団の声明
                            2023年1月16日
――「判決の体裁さえ放棄したエセ判決文」から「裁判を受ける権利」を取り戻すために――
1、概要
2023年1月13日、福島地裁は避難者追出し裁判の判決言渡しを行い、共同通信、NHKが速報として報道しました。しかし、この報道は判決のうわべをなぞったものでしかなく、何がこの裁判で問われたのか、何が判決で明らかにされたのか、その一番肝心な点は何ひとつ報じられませんでした。
まず、そもそもこの判決言渡し自体が民事訴訟法違反に違反した無効な行為です。なぜなら、被告らは昨年10月、裁判官の忌避申立を行い、この忌避申立は現在、最高裁に係属中で、民事訴訟法26条によって福島地裁は訴訟手続の停止を命じられていたからです。被告らは判決言渡しの前日、裁判所に法令遵守を求める警告文書を出しました。しかし、裁判所はこれを無視してコンプライアンス違反の無法行動に出ました。これは法治国家の自殺行為であり、その最大の被害者は被告ら福島原発事故の避難者です。
次に、この裁判の一番肝心な点とは――私たち被告らの次の主張、すなわち被告らには居住権が保障されており、追出しに応ずる義務はないこと、その居住権の最大の根拠は①国際人権法と②裁量権の逸脱濫用にある。この一番肝心な点に対し裁判所はせめて何か屁理屈でもこねて理由を書いてくるかと思いきやそれすらせず、13日の判決はこの肝心な問題を指一本検討、応答しないまま被告らの主張を退ける結論を引き出しました。これは「100%理由なしの結論だけ」の結論先取り判決、ウルトラ全面的開き直りの判決、門前払いですらない「判決の体裁さえ放棄したエセ判決文」と呼ぶほかない、過去に前例のない異常極まりない「判決もどき」でした。
こうした手続的にも内容的にもコンプライアンス違反の判決を断じて認めるわけにはいきません。
私たちは、控訴審で被告らに保障された「裁判を受ける権利」を行使して、高等裁判所に福島地裁のごとき「裁判の拒絶」をさせず、被告らの居住権の正当性をさらに手厚く論証して、裁判所をして、もし不当な福島県の追出し請求を追認する判決を書こうものなら国民全体から総スカンを食らうのではないかと戦慄せしめるまで引き続き裁判の準備に励む所存です。

2、詳細
ところで、これがなぜ前代未聞の「判決もどき」と評されるほど異常なものなのか、その点を合点するためには、まず、本来の裁判手続と本来の判決の形式・方法がどのようなものであるのか、そこに込められた基本理念がどんなものであるのかを理解しておくことが必要です。以下、この基本理念について概要をお伝えします。

(1)、裁判の意義と「裁判を受ける権利」の意義
 日ごろは余り考えませんが、裁判というのは考えると実に恐ろしい制度です。なぜなら、裁判手続は、その手続をきちんと順番通り踏んでいくと、最後に正しい答えが出るように用意周到に組み立てられた、他の国家制度に比べるものがないほど考え抜かれた制度だからです。つまり、経済的、社会的に対等な当事者間で発生した紛争の解決を求めて裁判を起こした場合、裁判手続は、それが正義公平にかなった解決が引き出せるように、数百年に及ぶ長年の経験に学んで最も有効なやり方を採用したものだからです。それは、
第1に、当事者の主張を尽くさせて、何が彼らの間の紛争の争点であるかを争点整理するために、例えば相手の主張を否定・争う場合にはその理由を明らかにするよう求められます(言いっぱなしは許されない)。いわばお互いの主張をキャッチボール(対話)する中で、おのずと紛争の核心があぶりだされるように手続が組み立てられている。これが争点整理の手続です。
第2に、この争点整理をしっかりやった上で、そこで核心と判明した争点について必要な証拠調べを集中して実施する。これが集中証拠調べの手続です。
第3に、以上の審理(主張の争点整理と集中証拠調べ)の結果から結論を論証(証明)するのが判決文です。従って、判決文では必ず結論を導いた理由を論証して明らかにする必要がある。審理結果という材料からゴールを論証(証明)するという方法、この論証という方法こそ適正な判決を担保する生命線となる極めて重要な方法です。
紛争の中で市民の人権を守るには、以上のような考え抜かれた手続、論証方法による裁判手続を通じて解決するのがいちばん有効な手段であると長年の経験から引き出し、そこで、憲法32条で、市民に「裁判を受ける権利」を保障しました。だから、基本的人権が絵に描いた餅にならないように、基本的人権が侵害された時にこれを回復する不可欠の方法として「裁判を受ける権利」が存在するのです。その意味で、「裁判を受ける権利」とは、「基本的人権の死命を制する」最も重要な基本的人権なのです。
ところが、先に結論を言うと、13日の判決は、正義公平にかなった解決を引き出すよう組み立てられたこれらの裁判手続をすべて無視、すっ飛ばすという、唖然とするほかない、異常な判決だったのです。その結果、憲法が保障した被告らの「裁判を受ける権利」は無残に踏みにじられました。

(2)、訴訟手続の打ち切りの強行とこれに対する抵抗
 (1)の第1と第2で述べた「主張の争点整理と集中証拠調べ」を求めて、私たち被告は福島地裁に、その実行を要求しました。なぜなら、原告福島県は、私たち被告の①国際人権法と②裁量権の逸脱濫用に関する詳細な主張に何ひとつまともな応答をせずボイコットしたため、争点整理が全く進まなかったからです。しかし、福島地裁は「弱きを挫き、強きを助ける」態度で、福島県はボイコットしたままでよいと優しく丁重に扱い、争点整理しないまま審理の打切りを宣言し、昨年7月26日、被告らが申請した6名の証人全員を却下し、終結を強行しました。
その後、被告らは、昨秋訪日し、福島原発事故の避難者の人権状況を調査したダマリー国連特別報告者がこの裁判に対し「賛成できない。避難者への人権侵害になりかねない」と論評した事実に基づき、ほったらかしの争点整理と却下した6名の証拠調べによる徹底的な真相解明を求め、10月21日、弁論の再開を求めました。しかし、裁判所はこれを無視、10月27日に判決言渡しを強行する構えだったので、被告らは憲法で保障された「裁判を受ける権利」を守るため、やむなく、10月25日、裁判官の交替を求める裁判官忌避申立という抵抗権の行使に出ました。しかし、福島地裁は、この忌避申立が最高裁に係属中にもかかわらず、昨年末に1月13日の判決言渡しを通告し、その判決期日受書を出せ(つまりこの違法行為を被告も追認しろ)と再三要求してきました。被告らはこの無法者の無法行為を断じて認める訳にはいかず、不服従の態度を示すため、1月13日の判決言渡しの前日、コンプライアンス違反である判決言渡しを即時に停止するよう求める警告文書を提出しました。しかし、無法行為を屁とも思わない福島地裁は、13日、主文を読み上げる裁判長の声が聞き取れないほどか細い声で、民事訴訟法を踏みにじる判決言渡し行為に出たのです。

(3)、メディアに配布された判決全文のスカスカの中身(その1)
 違法な判決言渡しに服従しなかった被告らはメディアから、彼らに配布された判決全文の内容を知りました。そこで、唖然とする判決内容を知ったのです。
第1が、この裁判の中心論点である国際人権法です。
(3)-1、さらにその中心となった「国際人権法の間接適用」の主張です。
被告らは2021年7月の準備書面で、44頁にわたり、次のロジックに従って詳細に主張したのに対し、これに対する裁判所の応答はたった2行の次の記述だけです。
《被告ら主張の社会権規約委員会の一般的意見や総括所見が直ちに締結国を法的に拘束すると解すべき根拠は見当たらず、間接適用の基礎を欠く》(26頁)
以下が、被告らの「国際人権法の間接適用」の主張のロジック(骨組み)です。ひとつひとつの論点は、バカバカしいほど単純で、疑いようのない明白な基本原理であり、それらを丹念に丁寧に積み上げていっただけの論証形式にすぎません。
①.序列論(一般論)
  法律は上位規範である条約(国際人権法を含む)に適合するよう解釈される必要がある。
②.序列論(具体論)
災害救助法及び関連法令は社会権規約11条1項の「適切な住居」に適合するよう解釈される必要がある。
③.条約解釈の方法論(一般論)
条約の文言の意味を明らかにするために、その解釈基準として以下の国際法の実質的法源を用いることを認めた(ウィーン条約31~32条)。
(a)、国連の委員会、国際会議の決議・宣言・報告書・準備作業
(b)、国際機構の決議
(c)、未発効の条約、日本が批准していない条約
(d)、国際裁判の判例、学説
④.条約解釈の方法論(具体論)
社会権規約11条1項の「適切な住居」の意味を明らかにするために、その解釈基準として以下の国際文書を用いることができる。
(a)、社会権規約委員会作成の一般的意見4及び7
(b)、国連人権委員会作成の「国内避難民に関する指導原則」
(c)、社会権規約委員会作成の日本政府報告書(第2回及び第3回)に対する「総括所見」
⑤.②と④の組み合わせた結果
災害救助法及び関連法令(具体的には本特別措置法8条)は、④の国際文書を用いてその内容を明らかにした社会権規約11条1項の「適切な住居」に適合するよう解釈される必要がある。
⑥.「法律による行政の原理」(一般論)
行政庁の措置は法律に従って行われなければならない。
⑦.「法律による行政の原理」(具体論)
原告の本件政策決定は⑤の内容を有する本特別措置法8条に従って行われなければならない。
⑧.結論 
ⓐ.以上の結果、本件政策決定は⑤の内容を有する本特別措置法8条に違反するものであり、違法を免れない。
ⓑ.その結果、違法な本政策決定に基づいて一時使用許可を更新しなかった東京都の不作為もまた過誤があり、違法となる。
ⓒ.その結果、東京都と被告らとの本件建物の使用関係も適法に終了したことにならない。
ⓓ.その結果、上記使用関係の終了に基づいて行った原告の被告らに対する本件建物の明渡し請求は理由がない。

(3)-2、次が「国際人権法の直接適用」の主張です。
 被告らは2022年3月の準備書面で、国際人権法専攻の青山学院大学の申教授の意見書を提出し、これに基づき、国際人権法の直接適用を否定した最高裁塩見判決がいかなる間違いを犯しているか、それがいかに時代遅れで独りよがりの見解であるかを詳細に論証した。ところが、これに対する裁判所の応答は被告らのこの主張には一言も言及も反論もせず、ただ単に、最高裁塩見判決をそのまま掲げて、それでおしまい(判決文26頁)。それは、福島地裁がなぜ争点整理をしなかったのか、その訳が明瞭に判明した瞬間でした。

(4)、第2が、この裁判のもう1つの中心論点である、無償提供を打切った2015年6月の内堀知事の決定の裁量権の逸脱濫用です。
 被告らは2022年3月の準備書面で、17頁にわたり、とりわけ行政法の実務・学説の定説になっている「行政庁の判断過程の各局面における看過し難い過誤」に従い、詳細に検証して主張したのに対し、これに対する裁判所の応答はたった4行の次の記述です。
《災害救助法に基づく応急仮設住宅の供与の期間を定める本件政策判断は、その性質上、行政庁の広範な裁量に委ねられていると解するのが相当であり、前記(1)で説示した諸事情を勘案すると、原告知事に裁量の逸脱。警用があるとはいえない。》(31頁)
 ここでもまた、なぜ福島地裁があれほどまでに争点整理をしようとしなかったのか、その訳が明瞭に判明した瞬間でした。

(5)、民事裁判の判決の崩壊
 民事裁判は、当事者の私的自治(意思)を尊重する立場から、当事者が求めた請求に対し、当事者が明らかにした主張の争点整理と集中証拠調べの結果である証拠に基づいて裁判所が応答するという仕組みを取っています。その結果、裁判所は最終ゴールの判決において、当事者が明らかにした主張を整理した争点について応答する義務があります。
 本裁判の判決の特徴は、①国際人権法と②裁量権の逸脱濫用という二大論点について、第1に、争点整理を何もしないまま、なおかつ第2に、理由付けをまったく示さないまま、結論だけをポンと差し出したという、恐るべきスタイルで貫かれている点です。これは「判決とは結論を導く理由を示して論証することにある」という判決が適正であることを担保する生命線となる極めて重要な方法である論証を真っ向から否定したものです。だから、これは判決の名を借りた「エセ判決」「判決もどき」と言わざるを得ないのです。半世紀前、日本の司法は、たとえどんなに反動的な判決であっても、例えば「全農林警職法事件」最高裁判決でも、曲がりなりにも彼らの反動的な結論を正当化するだけの理由(公務員の「全体の奉仕者」論」を正面から掲げて判決を書きました。その限りでは、論証するという判決の生命線を維持したのです。しかし、今回の判決には、そうした反動の気概のきの字すらない。単に、無視、スルーでおしまい。
その意味で、今回の判決を書いた裁判官の頭は、本来の判決を書く資格、能力という点で内部崩壊している。これは「法による裁判」の崩壊現象、国難です。それを再建するのは、私たちひとりひとりの市民が、この「法による裁判」の崩壊現象という人権侵害の事態を知り、事態の是正に向け、一緒に踏み出す努力をすることしかありません。国難に立ち向かえるのは未来に希望を持ち続ける私たち一人一人の力しかありません。共に頑張りましょう。
                             (文責 柳原敏夫)


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