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2021年3月4日木曜日

【第60話】「311以後の人間の条件」を行動に移したひとりの研究者の抗議声明(筑波大学による学問の自由の侵害に抗議する)に賛同する(2021年3月4日)

「311以後の人間の条件」とは何か。311以後、私たちが、生きる屍ではなく、血が通った人間として存在し続けるための条件とは何か。それは「理不尽に抗う」決意をし、ささやかでもこれを行動に移すことにある(なぜなら、311以後の日本は欺瞞と理不尽で埋め尽くされているから)。
その時、日本はひとつ変わる。どんなに遠くにあろうとも、希望に通じる全ての道はここから始まるから。

311以後、研究者は隠れキリシタンに潜伏してしまい、昨年の「日本学術会議の会員候補者に対する学問の自由の侵害」を取り上げるまでもなく、学問の自由の侵害が日常茶飯事になっている今日の日本において、本日、ひとりの研究者が「理不尽に抗う」決意をし、学問の自由の侵害に対する抗議声明を出した。
今日、日本はひとつ変わった。学問の自由が侵害されるという理不尽な行為に対し、沈黙を余儀なくされるのではなく、おかしい!と抗議できる社会に変わったから。

以下、その研究者の抗議声明である(以下の「平山朝治のブログ」より全文を引用)。
  
  声明文:筑波大学による学問の自由の侵害に抗議する 2021年3月4日
 
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声明文          

2021年3月4日 

――筑波大学による学問の自由の侵害に抗議する――

Word文書版はこちら 

筑波大学人文社会系教授 平山朝治

 本年2月10日付の稲垣敏之副学長より私の代理人宛の書面で、筑波大学が昨年1月につくばリポジトリに掲載した私の論文「NGT48問題・第四者による検討結果報告」(以下、本論説という)をつくばリポジトリから削除する決定を下したことを明らかにしました。私は、この決定に対して、憲法第23条が保障する学問の自由(研究発表の自由)に対する侵害として訴訟を提起することを決意いたしました。

 まず、本論説を執筆した私の意図は次の通りです。AKBグループに属するNGT48のメンバーであった山口真帆さん(以下、山口さんという)が暴行被害にあった事件(以下、本事件という)について、運営会社だったVernalossom(AKSから改称。以下、V社という)は新潟県に対し暴行はなかったと虚偽の説明をし、本事件を巡る問題を扱った第三者委員会の報告書[1]についてV社は記者会見を開きました。これに対し山口さんが反論のツイートを出したところ、V社はこれにきちんとした回答をしないまま、山口さんの意に反してNGT48を卒業させるといった措置を取りました。こうした対応によって、V社の社会的信用は失墜しました。そこで、私は、V社の社会的信用・名誉を回復させるためには、本事件が生じ、山口さんの卒業などに至った経緯を、真実であると信じるに足る諸事実と合理的な推論とによって整理し、それによってV社が自らの責任を明確にすることが必要であると判断しました。また、そのことを当時AKBグループ総監督であった横山由依さんら現役メンバーの多くも、大島優子さん、指原莉乃さんや山本彩さんら芸能界で活躍している卒業生の多くも望んでいると判断しました。そこで、V社の経営陣の問題点の指摘も含めて、V社の名誉回復の基礎となるような知見を提供することによって、私なりの学問の社会的責任を果たすべきであると考え、本論説を執筆し、2020年1月、つくばリポジトリに掲載・公開されました。これに対し、V社から、本論説はV社に対する名誉毀損であるとして、つくばリポジトリからの削除を求める4月14日付の通知書が筑波大学学長と私宛に送られてきました。しかし、本論説はその内容において、V社が名誉毀損と指摘する箇所の大部分は的外れなものであり、残りの部分も「記述された事実を真実と信ずるについて相当の理由がある」ことが認められ、名誉毀損が成立しないことは、同年8月29日付の筑波大学人文社会系コンプライアンス調査委員会宛の私の代理人作成の申入書の中で逐一明らかにしました。
 以上述べた通り、本論説に関する私の意図としても、その内容としても、本論説はV社に対する名誉毀損には当たらず、むしろ失われたV社の社会的信用・名誉を回復するためのものであると考えております。

 したがって、V社の上記行動は、本論説をつくばリポジトリから削除しなければ筑波大学を裁判に訴えるぞと圧力をかけて、筑波大学を使って論説を削除させることを意図しており、これは、第三者(筑波大学)を巻き込んで自身に批判的な言説を封殺しようとするものであり、政治的経済的な力による言論弾圧と言わざるをえません。
 他方、所属する研究者が発表する研究に関して、批判を封殺しようと外部から研究者に対し不当な圧力が加えられた場合、これに抗して研究者の研究の自由及び研究発表の自由を保障しようとするのが大学の本来の姿であり、コンプライアンス通報があった場合、通報が学問の自由の侵害にならないように、学内の規則が定められていますが、本件に関する限り、陳述書で詳しく述べるように、学内の規則に従ってなされていたかどうか強く疑わざるをえないことが多々ありました。その最大の理由は、外部の圧力の影響を強く受けたコンプライアンス管理者が総務・人事担当副学長として学長と並ぶ独裁的な権力を握っているため、大多数の教員がコンプライアンス管理者の意向に屈したり、それを忖度した行動をしてしまったせいであると推察します。その結果、学内のどの組織がどのような理由に基づき本論説をつくばリポジトリから削除する決定を下したのか、決定の主体も決定の理由も私に対して明確な説明もないまま、2月10日付の書面で削除するという結論だけが言渡されることになりました。この点は、添付文書によくあらわれています。この一部始終は、丸山眞男が日本ファシズムについて指摘した「無責任の体系」[2]を想起させる事件と言えるのではないでしょうか?

 もっとも、2月10日付の書面によれば、削除について詳細を記した編集委員会の文書が2月10日には発送済みである旨が書かれていましたが、実際に発送したのはそれから3週間近く経った2月28日でした。しかも、その文書の内容の殆どは私が陳述書で明らかにする予定の事実経緯と明らかに矛盾し、また、削除の理由についても、私が編集委員会に提出した誓約書に本論説が抵触するとあるだけで、なにがどう抵触するのか一言も説明がありませんでした。まさしく「無責任の体系」を想起させずにはおれない報告でした。他方、同封のもう1通の書面にはこのたび編集委員を辞任したこと等について書かれてあり、辞任の理由として、被害者(山口さん)の個人情報(実名)が本論説に載っていたことを編集委員としての力不足のため見過ごしてしまった、これは痛恨の思いであると書かれてありました。しかし、これはこれ以上の的外れは考えられないほどの甚だしい勘違いです。なぜなら、本事件で実名が登場したのは、山口さん本人が自ら実名を名乗ってカミングアウトしたからであり、それを受け、メディアも山口さんを実名入りで報道し、AKS第三者委員会『調査報告書』も山口さんを実名で報告したからです。
 

 最後に、2015年に改正施行された学校教育法と国立大学法人法は憲法が保障する学問の自由に抵触すると批判されてきました[3]が、慶応大学や筑波大学などの学長選考で、学内教職員多数の支持を得た人ではない候補が学長に選ばれ[4]、学長をはじめとする教員人事に関する大学の自治は失われ、それによって護られるべき研究や研究発表の自由も危機に瀕しています。大学執行部は外部の意向を、所属教員は執行部の意向を、過剰に忖度し、学問の自由が脅かされるようになってきたため、社会において指導的な立場を占める人々の言動を監視・批判することによって社会が誤った方向に進まないよう警鐘を鳴らすという、学問の社会的責務を果たすことが、今日、非常に困難になってきております。

 このような現状認識に立ち、私自身が巻き込まれた事件に即して、学問の自由を護るために、筑波大学と裁判で争う決意をした次第です。

 


[1]株式会社AKS第三者委員会『調査報告書』2019年3月18日

[2]「軍国支配者の精神形態」、丸山眞男『現代政治の思想と行動 新装版』未来社、2006年。

[3]公教育計画学会『大学自治の廃棄を策す学校教育法・国立大学法人上改正に反対する声明』2014 年6 月14 日。など。

[4]土居新平・峯俊一平「慶応新塾長、学内投票2位で就任 異例の逆転に波紋」『朝日新聞DIGITAL』2017年5月30日16時14分、「慶応大塾長選、50年の歴史覆す落選を喫した教授──細田衛士慶応義塾大学教授『慣行が密室の場で壊された』」『日経ビジネス』2018年3月9日、『筑波大学の学長選考を考える会HP』。

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