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2021年4月21日水曜日

【第65話】いまも子どもがあぶない。いま必要なのは「被ばく正義」(2021.4.20)

まつもと子ども留学基金理事 柳原敏夫

私は、2014年8月提訴した「子ども脱被ばく裁判」の弁護団に参加しています。311後、至る所で原発事故関連の裁判が起されましたが、それは主に原発事故で大変な目に遭ったからその精神的苦痛の賠償を求めた裁判でした。これに対し、子ども脱被ばく裁判がそれらの裁判と根本的にちがうのは、第1に、子どもにとって被ばくの危険性を正面から問うたこと、すなわち事故後の汚染地で教育を受けることは、憲法が保障した「安全な環境で教育を受ける権利」を侵害するものであり、即刻、子どもたちを被ばくの危険のない安全な環境で教育を実施することを福島県内の市町村に求めたこと、第2に、日本史上最悪の過酷事故を起こしておきながら、事故後に「事故を小さく見せること」しか眼中になく、子どもらに無用な被ばくをさせた日本政府と福島県の法的責任を真正面から問うた裁判だということです。チェルノブイリ事故でもこのような裁判はなく、それは世界で最初の裁判です。

今年3月1日、この世界で最初の裁判に対する一審判決の言渡しがありました。裁判長は事前に用意した判決要旨すら読み上げず、小声の早口で主文だけ読み上げ1分足らずでハヤテのように立ち去りました。中身は原告主張を100%退ける全面敗訴判決。その判決理由は一言で言って「理不尽の極み」でした。

その典型が7千倍の学校環境衛生基準でした。半世紀前、私達の先人は深刻な公害被害に対する真摯な反省から、公害で苦しむ子ども達の命・健康を守るため、それまでの経済最優先の立場から「人間の尊厳をすべての価値の最上位に置き、命、健康、環境保全を最優先に置く」立場に大転換し、世界最先端の安全基準を制定しました(公害対策基本法ほか)。その基準とは毒物に生涯晒された時10万人に1人健康被害発生でした。ところが、毒物のうち放射性物質は現在まで、学校環境衛生基準が定められておらず、法の穴があいたままでした。そこでこの穴に対し、裁判で、原告は放射性物質も他の毒物と同等の基準を適用すべきだと主張したのに判決はこれを真っ向から否定しました。生涯晒されると「10万人中7千人ががん死」を意味する年20ミリシーベルトで問題ないと判示しました。しかし、判決は、なぜ他の毒物と比較し、ひとり放射性物質だけ安全基準の7千倍の引き上げが正当化されるのか、その理由を一言も述べないままでした。というのは、もしこの引き上げを正当化しようとしたら、子どもというのは、本来、他の有害物資に比べ、放射能に対しては7千倍強い身体で出来ているんだと言うしかなかったからです。こんなことがあっていいものでしょうか。私は裁判官は頭が狂ったのではないかとすら思いました。これを「理不尽の極み」と呼ばずに、いったい何と呼んだらよいのでしょうか。

一事が万事この調子で貫かれた今回の判決。まさしくそれは、「放射能が危ないと思ったら、そう思った本人が自分で勝手に逃げればよい」という新自由主義に裏付けられた311後の日本社会を赤裸々に映し出した鏡、その結果、「弱きをくじき、強きを助け、正義と不正義があべこべになった」311後の弱肉強食の日本社会を鮮明に映し出した鏡です。

この鏡が無言のうちに私達に訴えることは「いまも子どもがあぶない!」。

この人権蹂躙の事態に、3年前、北欧の16歳の少女が「気候正義」と声を上げたように、私たちもまた「被ばく正義」という声を上げずにはおれない。





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