2023年3月27日、仙台高裁で子ども脱被ばく裁判(このうち国と福島県を訴えた親子裁判)の第6回目の弁論が開かれ、そこで控訴審における控訴人の主張をまとめた書面(準備書面(12))を提出。以下はそのうちの第8、山下発言問題について、当日、代理人が陳述した要旨のラスト。
山下俊一氏講演会(201年5月3日・福島県二本松市)
その要旨全文は->こちら。また、準備書面(12)は->こちら。
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4、最後に、自己決定権からみた山下発言の人権侵害の意味について述べます。
自己決定権の意義については、第1、3「自己決定権」で前述した通りですが、この「個人に属する事柄について公権力の介入・干渉なしに各自が自律的に決定できる自由」とは実は全ての人権の大前提となるものないしはその不可欠の内容を構成するものです。なぜなら、古典的な自由権の代表格とされる表現の自由において、人は何を表現するかはもっぱら表現者自身の意思に委ねられ、表現者が決定することが大前提とされているからです、それは他の自由権も同様です。社会権においても、例えば生活保護は人が自らの意思で申請するかどうかを決定することが大前提とされており、労働基本権も労働者が組合を結成するかは労働者が自らの意思で決定することが大前提です。
このように、もともと自己決定権はそれ抜きには人権保障は具体化・現実化しない、人権の出発点となるものでしたが、近時、このような枠組みには収まり切れない新たな権利、すなわち「個人の人格的生存にとって必要不可欠な、自分の生き方を自分自身で選択する権利」として、従来の人権とは別個に、独自の権利として構成されるようになりました。
本件において、県民の自己決定権は、福島原発事故という未曾有の原子力災害の危機に直面して、自らの生き方、それは生命・身体の安全を確保するためにいかなる行動を選択したらよいか、死ぬか生きるかを問われるほどの重大な岐路に立った人々の自己決定権というものがここで問題となったのです。
言うまでもなく、放射能の素人である県民が原子力災害の危機においてこの自己決定権を適切に行使するためには放射能に関する正確な情報を入手することが必要不可欠でした。この必要不可欠の情報提供の責務を果すために放射線健康リスク管理アドバイザーとして登場した山下俊一氏です。しかし彼の発言により、県民は放射能に関する正確な情報を入手することができないばかりか、彼の不適切な情報を鵜呑みにし、惑わされた結果、多くの県民が被ばくについての警戒心を解いたため、多くの県民とりわけ子どもたちが無用な被ばくを強いられました。その結果、原子力災害の危機という一大事において、生命・身体の安全を確保するための自己決定権を適切に行使することがかなわず、この意味で、生涯悔やんでも悔やみきれないほどの自己決定権の侵害を余儀なくされたのです。山下発言は県民の貴い自己決定権を奪い、これを侵害したという点からも断じて許されないものなのです。
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