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2022年10月26日水曜日

【第93話】弁論分離で残った子ども脱被ばく裁判(親子裁判)の最終戦、山下発言を全面擁護する福島県準備書面に対し全面反論した準備書面を提出(22.10.24)

 犯罪という猛烈な執念に対抗する術として、証言することへの執念のほか、この世に何があるだろうか。                          
            アルベール・カミュ「正義と犯罪」(チェルトコフ「チェルノブイリの犯罪」(上)21頁より)

表題の「山下発言を全面擁護する福島県準備書面に対し全面反論した準備書面」の1頁は以下の通り。その全文は->こちら
その書面が反論の対象とした福島県の準備書面(2)は->こちら
その福島県の書面が反論の対象とした控訴人の準備書面(5)は->こちら

 
福島原発事故被災者が国と福島県を訴えた子ども脱被ばく裁判(そのうちの親子裁判)が、二審仙台高裁の前回期日(9月12日)で、この日に審理終結した子ども裁判との弁論分離が認められ、引き続き、審理が続行することになった(次回、控訴人が申請した内堀福島県知事らの証人尋問の可否について決定)。

その結果、当事者の主張について、あと1回主張するチャンスを得、 前回期日の法廷で控訴人が求めた、8月19日に福島県が提出した準備書面(2)に対する控訴人の反論の機会を得た。

この福島県の準備書面(2)は311直後福島入りした山下俊一の山下発言問題について詳細に弁解したものである。この書面が提出されるまでにざっと次の経緯がある。

本年2月、控訴人が提出した原判決の行政裁量論の誤りについて」の準備書面が時間切れのため、冒頭に次のように書いたところ、

本書面は、原判決の行政裁量論の誤りを、体系的、横断的に明らかにしようとしたものである。ただし、個別の論点に関する本書面の記述は、控訴人らが考える行政裁量論の正しい適用の理想からみれば、今なお完成途上の不完全なものである。このため、今後、その完成に向け、必要な補充・追加の主張を行う予定である。

 裁判所から「それなら、その完成版を示して下さい」と促され、次回に完成版として準備書面(5)を提出した。すると、これに対し、福島県が、山下発言問題について全面的に弁解する詳細な書面を提出してきた。それが上記の8月19日付準備書面(2)である。 

これまで、国や福島県は控訴人の詳細な主張に対し、殆ど無視するか、軽くいなすような、要するに木で鼻をくくった態度しか取らなかった。それで十分、あとは裁判所がよろしく、我々を守ってくれると確信していたからである。ところが、今回はちがった。控訴人の山下発言に対する全面的な批判と真っ向から向かい合って、全面対決の反論書面を書いてきたからだ。ここにあるのは詭弁論理学のお手本とも言うべき「山下話法」に対する深刻な危機感のあらわれである。そう理解した控訴人代理人は、ここだけは「ピンチはチャンス」の山下語録に従い、ピンチに立った全面対決の反論書面に倍返しする全面再反論の書面を仕上げ、提出した。

それは、冒頭の小説家カミュの次の言葉に従ったものである。

 犯罪という猛烈な執念に対抗する術として、証言することへの執念のほか、この世に何があるだろうか。                          

実のところ、本書面は完成寸前に少々手間取った。それは最終段階で、弁護団長の井戸さんが、山下俊一が福島入りの直後に、福島県の子ども達に安定ヨウ素剤の服用は必要ないと記者会見で述べた山下発言の誤りをさらに追加したいと粘ったからだ。それが以下の指摘で、この時、井戸さんこそカミュの忠実な弟子=リレー走者だった。

上記山下発言は住民の無知に付け込んだごまかしである。改めて山下発言を再掲すると、「安定ヨウ素剤の服用はその場に24時間滞在すると50mSvを超えると予測される場合になされます。現在の1時間当たり20μSvは極めて少ない線量で,1ヶ月続いた場合でも,人体に取り込まれる量は約1/10のため1ないし2mSvです」というものである。

まず、第1文について、当時の安定ヨウ素剤の投与指標は「小児甲状腺等価線量の予測線量100mSv」だった【甲A第33号証(「原子力施設等の防災対策について」)14711819行目、丙A第1号証(福島県地域防災計画)67頁】。「24時間滞在」などという限定は付されていなかったし、「50mSv」というのも事実ではない。

第2文について、「20μSv/時」は、当時の福島市付近における空間線量であり、外部被ばく線量である。これが1か月続けば、14.mSvになる(20μSv×24時×30日=14400μSv14.4mSv)。その10分の1は、1.44mSvである。すなわち、ここで山下氏は、外部被ばくによる実効線量と内部被ばくによる実効線量が10対1の割合になるという考えに基づく推測値を述べている。しかし、これは過小評価である。チェルノブイリ原発事故においては、外部被ばくによる実効線量と内部被ばくによる実効線量は3対2と評価されたのである(訴状)。しかも、臓器毎の内部被ばくの程度は、取り込む放射線核種や取り込み経路(戸外にいたか、屋内にいたか、運動していたか、食材、飲料水等)によって全く異なるし、内部被ばくによる実効線量から甲状腺等価線量が推測されるものでもない。仮に、内部被ばくのすべてが甲状腺被ばくによるものであれば、実効線量2mSvは、甲状腺等価線量50mSvに相当するのである(甲状腺の組織荷重係数は0.04)(計算式2mSv÷0.0450mSv)。

このように上記山下発言は、根拠の乏しい理屈を積み重ねたものであり、ごまかしであるという外はない。

 

【第92話】追出し裁判で、まともな審理を何一つしないまま審理終結を強行し、10月27日判決言渡しを通告してきた福島地裁に弁論再開を申立て、再考を求めたが本日まで何の対応もなかったので、やむなく担当裁判官に対する忌避の申立に及んだ(2022.10.25)

避難者の住宅追出し裁判で、7月26日、まともな審理を何一つしないまま審理終結を強行した福島地裁は、10月17日に「10月27日午前11時40分に判決言渡し」を通告してきました。

この通告に対して、被告の避難者は、憲法が保障する「裁判を受ける権利」を被告避難者に保障するように、福島地裁に対し弁論再開申立書を提出し、真相解明への取り組みについて再考を求めました(その全文は→こちら)。

しかし、本日25日に裁判所に、この弁論再開申立に対する反応を尋ねたところ、とくにない、という返事をもらったので、この裁判官に憲法が保障する「裁判を受ける権利」を被告避難者に適用することを期待するのは不可能と判断、残された途は裁判官の交代を求めるほかないと考え、やむなく担当裁判官に対する忌避の申立に及びました。

以下、裁判所の受付印が押された忌避申立書の表紙(副本)。

その全文は->こちら


2022年10月24日月曜日

【第91話】追出し裁判で、まともな審理を何一つしないまま審理終結を強行し、10月27日判決言渡しを通告してきた福島地裁に対し、弁論再開申立書を提出(2022.10.21)

避難者の住宅追出し裁判で、7月26日、まともな審理を何一つしないまま審理終結を強行した福島地裁は、10月17日に、「10月27日午前11時40分に判決言渡し」を通告してきました。

この通告に対して、被告の避難者は、憲法が保障する「裁判を受ける権利」を被告の避難者に保障するように、福島地裁に対し弁論再開申立書を提出しました。

その全文は->こちら

その冒頭と末尾を以下に紹介します。

 ******************

1、はじめに

国連人権理事会から任命され、福島原発事故の避難者(国内避難民)の人権状況を調査し、国連人権理事会に報告するセシリア・ヒメネス・ダマリー国連特別報告者が調査のため9月26日から10月7日まで来日し、離日時に共同通信との単独インタビューの中で、福島県が、支援終了後も公務員住宅に住む自主避難者に退去を求めて提訴したこと(まさしく本裁判のことである)に対し、「賛成できない。避難者への人権侵害になりかねない」と警鐘を鳴らした(以下の写真及びインタビューの詳細は別紙参照)。


国連による原発事故避難者の本格的調査は初めてであり、その調査の中で、国内避難民である自主避難者の追出しを求める本裁判についても国連特別報告者により「この提訴には賛成できない。避難者への人権侵害になりかねない」と初めて言及された。その言及は本裁判において、被告らが終始一貫して主張してきた「この提訴は国際人権法が国内避難民に保障する居住の権利を侵害するものであり、許されない」と軌を一にするものである。すなわち被告らの主張は世界の良識に合致していることが示された。

ところで、裁判所は、この間、被告らが原告による人権侵害からの救済を求めて、6つの抗弁の争点整理と6名の証人及び当事者尋問による徹底的な真相解明を訴えてきたにもかかわらず、これをことごとく無視或いは退け、去る7月26日、審理終結を強行した。しかし、このたび、ダマリー国連特別報告者の本裁判に対する重大な懸念の表明に接し、被告らは本裁判が日本の我々にとってのみならず、世界中の人々と良識にとっても失敗することが許されない重大な試練であることを思い知らされた。そこで、本裁判が世界の良識に耐え得るだけのものであることを示すためには、裁判所が世界中からの注目と良識に耳を澄まし、弁論再開を決断し、被告らの「適正、公平な裁判を受ける権利」が保障されるに相応しく、6つの争点整理と6名の尋問による徹底的な真相解明を努めるしかないことを確信するに至った。

そこで、以下の理由の通り、被告らは裁判所に対し、民事訴訟法153条に基づき、口頭弁論の再開がなされることを求めるものである。

 

、結語

以上の通り、被告らからの切なる求めにも関わらず、裁判所が口頭弁論を再開して真相解明のため被告らが申請した証人尋問を実施することをせず、そして原告に対して適正な釈明権を行使せず、被告らの上記抗弁事実に対して原告が認否・反論を拒否し続ける場合には、こうした原告の争点整理のボイコット自身が、国賠法の違法行為に該当するのみならず、こうした事態を引き起こした根本的な原因は、原告の不誠実かつ違法な争点整理のボイコットの是正に積極的に取り組まない裁判所の怠慢さにある。そこで、裁判所がこのボイコットを解決せず、上記抗弁事実について被告らに主張・立証を尽くさせないまま、被告ら申請の証人及び本人尋問の申請を全て却下して審理を終結し判決を出すに至った場合には、「釈明権行使を怠ったことによる審理不尽の違法がある」として当該判決の破棄は必至である。

のみならず、被告らが、この間、こうした争点整理の過程における違法状態の改善是正の必要性を再三強く求めているにも関わらず、裁判所がこれに背を向け続け、争点整理のため原告に釈明権を行使しないことは許されないことであるから、かくなる場合に被告らに残された最後の途は、被告らの「適正、公平な裁判を受ける権利」を回復しその保障を実現するために、裁判官の忌避の申立て及び裁判官に対する国賠請求しかないことを伝え、口頭弁論再開について裁判所の決断を強く要請するものである。

 かつて東京地裁行政部で名を馳せた藤山雅行裁判官は、「法律家の仕事は同時代のみならず歴史的な評価にも耐えうるものでなければならない」と述べた[1]。本裁判はこの言葉が文字通り当てはまる。しかも単なる日本史ではなく、世界史の評価である。冒頭のダマリー国連特別報告者の言葉はそのことを余すところなく示している。本裁判は決して世界史の汚点となってはならないのである。

以 上



[1]藤山雅行編「新・裁判実務大系 第25巻 行政争訟」藤山雅行「はしがき」

【第171話】最高裁にツバを吐かず、花を盛った避難者追出し裁判12.18最高裁要請行動&追加提出した上告の補充書と上告人らのメッセージ、ブックレット「わたしたちは見ている」(24.12.20)

1、これまでの経緯 2011年に福島県の強制避難区域外から東京東雲の国家公務員宿舎に避難した自主避難者ーーその人たちは国際法上「国内避難民」と呼ばれるーーに対して、2020年3月、福島県は彼らに提供した宿舎から出て行けと明渡しを求める裁判を起こした。通称、避難者追出し訴訟。 それ...